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第七話 ギルドとヴァンパイアモンキーⅠ

昼下がりのある街道に馬の走る音が聞こえていた。それも何頭もいるようだ。

その馬はジョウォルから北に向かっていた。

「まさか俺たちがこんな目にあうなんてな・・・」

「まぁいいじゃないか、この状況は俺から考えれば悪者はあっちだ。俺はこっちにつく」

「それは俺も同じだ、しかしこれからどうする?」

「ギルドに入れてもらえばいい、最も入れてもらえるかが問題だが・・・」

「ギルドか、保安官とは別のヴァンパイアと戦う組織・・・」

馬上の人たちは皆15程の若者であった。最前列にはリーダー格の2人がいる。リーダー各といってもその片方は一番状況を分かっていないようだ。

「サツ、なんでこうなっているのさ?」

ハルがとなりを走っているサツに聞く。

「話は後だ、とにかく早くキールまで向かうぞ、あそこならとりあえず安心だろ。モニを経由してキールに向かう、モニの村は保安官がいないはずだし通る分には大丈夫だろ」

その2人はハルとサツだった。




はあ・・・はあ・・・

激しい息遣いが暑いトンネルの中に響わたる、水筒の蓋をひねり口に付けたが水が一滴だけだった。デミはアチの町からトンネル内を進んでいた。今進んでいる場所は町の中とトンネルの作りが違う、トンネルの作りが雑だし少し大きめの穴になっていた。

 もうどのくらい歩いていただろうか、アチの町に入る時よりも数倍歩いている。デミに限界が近づいてきたその時、デミの視界に光が見えてきた。デミは疲れた顔から一変明るい顔になり自然と足取りが軽くなる、やがてその光の下までたどり着いた。眩しいのが苦手なデミだったがこの時ばかりはこの眩しさが嬉しい。

「イヤッッホォォォオオォオウ!」

デミは両手を挙げてトンネルの外に出た。涼しい風が出てきたがそれはほんの一瞬、まだ昼過ぎのこの時間は結局デミにとっては暑かった。すぐに疲れた顔に戻ってしまう。

「ま、まあトンネルの中よりはましだけどね」

アチの町やその周辺の出入り口は垂直に作られていたが、ここは洞窟のように平行になっていた。トンネルを抜けた先は木々が少ない土地で目の前には整備したであろう道があった。馬の足跡がいくつもある、よく使われる道のようだ。

「えっと、モニだっけ?このへんにあると思うけど・・・」

デミがあたりを見渡すと山の見える方角に高い塔のようなものが見えた、あそこがモニだろう。見てみるとそこまで遠くなさそうだ。

「保安官がいないらしいよね。だったら事情を話せば入れて・・・」

入れてくれるのだろうか?そこまで独り言を話しておいてデミは不安になった。アチの時は運良くトンネルを使わせてもらったが今回はそんなラッキーな事があるだろうか。しかし止まっていては埒があかないしなりより暑い。それに今日デミはまともに寝ていない、ジョウォルの牢屋で寝ついたと思ったらテルトに起こされたからだ。お腹もすいているし何が何でもモニにいって暑さと水と食事に睡眠時間が欲しい。デミは塔が見える方角に歩き出した。




モニの村、ジョウォルから北のこの村は鉱山業が盛んである。様々な鉱石が手に入り太陽石もここで手に入れることができる。山に寄り添うように建てられた塔は鉱山業の拠点でありこの塔から山に穴を開けて掘り進んでいる。塔には地下もあり内部はまるでアリの巣のようになっている。この町には保安官がいない、しかしヴァンパイアに対抗できないわけではない。モニの町では保安官の代わりにギルドのメンバーがいるのだ。


 このモニの村はヴァンパイアの発祥の地である。20年ほど前に地下坑道内で目が大きく、体色や行動が通常とは違うコウモリが発見された。そのコウモリは人間に追い払われたがそれ以来その近辺で似たような特徴を持った虫やネズミが現れだしたという、ヴァンパイアと名付けられたその症状は少しずつその勢力を広げていき勢力を広げていくとともにヴァンパイア化する動物も犬や猫などと大型化していき「ヴァンパイアシップ事件」ではついに人間がヴァンパイア化するまでに発展していった。キショーの大学では坑道内を深く掘りすぎたせいで何らかの物質が出現し周りの動物に影響を与えたのだろうと推測しており地下坑道の特に深いところは埋めてしまった。それにより採掘量が激減、モニは不況となったがヴァンパイアに太陽石が有効と分かり太陽石の採掘が増大、現在ではバブル状態となっている。


「さっきのやつら、本当にキールに向かわせちまっていいのか?べルーも一緒に行っちまったし」

ここはモニにいるギルドメンバーがいる小屋である。ここには3人のギルドメンバーがいた。シキ、ウノ、そしてベルーである。ベルーは訳あって今は不在だ。

「ウノ、そう言うな。とりあえずは信用できそうだぜ」

「信用って・・・俺はここ最近あれほど怪しい集団を見たことがないぜ」

「しかし・・・」

「よく考えろ、あれは保安官は保安官でも候補生の服だ、その候補生がジョウォルを出てくること自体が異常だ。それもここだぞ?」

保安官の候補生は半年の訓練すべてを学校内で行う、卒業後は各地に研修として配属されてさらに半年後に正式に保安官となる。保安官の仕事は何もヴァンパイア退治だけではない。町のトラブルや事件の解決なども引き受けるため流石に校内だけでは訓練を終えない。保安官は候補生、研修生、保安官、司令官とそれ以上で服が異なる。

「あいつがもし訓練が厳しくてギルドに入りますというならわかる、今までもいたしな。だがあいつらの話はいくらなんでも無茶苦茶だ」


ウノが騒ぎ立てるのも無理はない。それは今から1時間ほど前である、馬に乗った保安官候補生25名(いま訓練している候補生全員らしい)がモニの村にやってきたのである。

 今までジョウォルの訓練についていけずに脱走したものがギルドに入ろうとこの村に来ることはそれなりにあった。この村にギルドがある上にこの村の更に北にあるキールの街がギルド本拠地だからである。しかし生ぬるい保安官の基礎訓練にすらついていけない様ではギルドでも足でまといである為いつもは追い返している。

 しかし今回ばかりは違った。候補生全員が脱走したのである、これはさすがに前例がなかった。驚くべきことは彼らの発言である。


人の心を持ったヴァンパイアを保安部は追っている。


 人の心を持ったヴァンパイアなど聞いたためしがない、その上昼間でも活動できるらしい。保安部は当初そのヴァンパイアを研究しようとキショーに運ぼうとしたがヴァンパイアは嫌がって逃走、保安部は最悪な事態を想定してヴァンパイアを殺害しようとしているとの事だった。正直みんな言っていることがバラバラで収集がつかないのだが恐らくこのような内容だろう。


「まあ気持ちはわかる、でも確かに数日前に馬車でキショーの誰かがこの村を通った。そのキショーの先生方がそのヴァンパイア目的にジョウォルに向かったなら話が合う」

シキはそう感じた。ギルドメンバーと保安官は正直仲が悪い、ギルドの成り立ちから考えてしょうがないことである。基本的に保安官やそれ関係の人はギルドが守る町に泊めることはない、通るくらいならまあ認めるが・・・

「あいつらはまだまだ未熟だがキモは座っていた、ギルドに入れば心強い事は間違いない。だからランスのところに行かせたのさ」

もう一人のメンバーであるベルーは先ほど来た候補生集団をギルド本拠地であるキールに送り届けに行った。本拠地であるキールは保安官など門前払いである、誰かメンバーが同伴しなければなかには入れないだろう。

「とにかく、保安部は例のヴァンパイア・・・デミだっけ?そいつを太陽のきかない最悪のヴァンパイアと捉えている。だがあの候補生たちはヴァンパイアを倒すヴァンパイアと見ていた。どちらが正しいのかは不明だが一応ギルドとしても彼女の存在を確認する必要があるだろう」

「それに関しては俺も賛成だな、まずは実在するかどうかだ」

ウノはここばかりは同意していた。もしヴァンパイアを狩るヴァンパイアならギルドにとってこれ以上欲しいものはない。

「とりあえず既に村に者にはそれらしき者を見たら引き止めるように行ってある。驚異と言っている保安部にとっても彼女はいい研究材料だし捕まえたところですぐに殺すことはないだろう、キショーに運ぶならほぼ村を通るはずだ」

「プロから海路でキショーに行っちまう可能性もあるがな」

「その時はアウトだな、保安部、もしくは彼女自身がここに来ることを祈る」




デミはモニ入口についた。モニの村のヴァンパイア避けの壁はとてもしっかりとしていた、頑丈そのものである。入口の扉なのだが昼間なので空いている。

デミの姿に気がついたのか一人の男性がこちらに来た、腰には鉄の剣と太陽剣を下げているが服装は私服である。制服ではないとはいえ保安官のように見えた、保安官はいないと聞いたが。

「君がデミ・テールだね」

男はデミの名前を知っていた、デミはいつでも逃げられるように体制を整える。もしかすると先回りされてしまったのかもしれない。しかし男は「まあまあ」と手を挙げていた。

「君を取って食おうとしているわけではないよ。ハル・プロテークから話は聞いている」

「ハルが!?ハルがここに来たのですか?」

ハルは保安官学校から逃げ出すときに大勢の保安官に取り押さえられていたはずだ、あの状況から逃げられたとは思えないのだが・・・

「ああ、大勢の仲間を引き連れていたぜ。それと言っておくが俺は保安官ではない、君が保安官に追われているのも知っている。とりあえずは君の味方をするよ」

「保安官じゃない?保安官じゃないのに太陽剣を持っているのですか?」

「何も保安官だけが太陽剣を持っているわけじゃない。俺はシキ、ギルドのメンバーだ」

「ギルド?」


ヴァンパイアが確認されてから保安官たちが動くまではかなり時間がかかった。小動物しかヴァンパイアにならないと思われていたからである。だがとき早くしてヴァンパイアの驚異に気づいた人がいた、それは当時キールの保安官であったランス・ボウである。ランスはヴァンパイア化が後に人間にも及ぶと考え首都に何度も提言したが首都は耳を貸さなかった。ランスは首都に任せるのを諦め、仲間を集めギルドを結成。周りの町までを巻き込んでいつまでたっても行動しない保安官に変わりヴァンパイア化した動物の駆除を始めた。ヴァンパイアシップ事件をきっかけにようやく保安官たちが動き出す。しかしキールの街をはじめとしたギルドを支持する町があり両者は目的が同じながらいがみ合っている。


デミはギルドのメンバーが集まる小屋に通された、中にはギルドメンバーのウノと名乗る男がいた。大体の事情はハルから聞いているようで説明の手間が省けた。デミは水と食事をもらうと一気に平らげた、お腹ペコペコだったのである。デミはお腹いっぱいになると座ったままスヤスヤと眠り始めた、さすがに疲れが溜まっている。

「まだあどけない女の子なのに、気の毒だ」

シキがデミにコートをかけてあげる。

「昼間は眠たいらしいな、彼女にとっては夜通し逃げてきたようなものだろう」

「しかしあのトンネル、まだ放置されていたとは・・・」

デミが通ってきたあのトンネル、アチの町のパイプラインがなぜモニの付近まで通っているのかというとモニの町の大太陽石がモニの村で採掘されたからだ。あのトンネルは大太陽石やトンネル内の舗装のための鉱物資源を運び入れるために作られたものだった。

「ヴァンパイアが住み着くから埋めたほうがいいと思ってはいたがデミの話を聞く限り大丈夫そうだな」

「ヴァンパイアは太陽しか効かないのだろう、なぜあのトンネルが苦手なんだ?太陽石だからか?」

「さあ、もしかするとヴァンパイアが苦手な何かがあるのかもしれないな・・・」

「そんなこと・・・」

現在保安部の機密事項になっているがヴァンパイアは太陽ではなく単純に熱に弱いことが徐々にわかってきている。ヴァンパイアが太陽に焼かれるところを見て勝手に太陽に弱いと人々は決め付けていたのだ。捕獲したヴァンパイアに炎を浴びせたところ問題なく焼けたとの研究結果がキショーには上がっている。なぜ隠蔽されているのかというとまだ確証がないからである。それに太陽剣の方が炎よりも手軽に焼けるし安全である、炎なんか使われたら火災などの二次被害になりかねない。外部から炎で焼くよりも鉄の剣で傷をつけて太陽剣で内部から焼いたほうが早く焼けるなど効率は明らかに太陽剣のほうがいい。以上のことからこのことは保安部の上層部やごく一部の研究者しか知られていない。




「うーん・・・」

デミは日没の直後に目が覚めた、椅子に座ったまま寝てしまったようだ。日没に起きるあたり相変わらずヴァンパイアだと感じた。

気になることがひとつあった、シキもデミもいない。小屋の中はデミ一人であった、ヴァンパイアを警戒して巡回でもしているのだろうか。


ウキャー!キャッキャ!


何かが叫ぶ声が聞こえた、動物の鳴く声だ。デミは外に出てみることにした、外に出てみると辺りは静まり返っていた。夜とはいえまだ日没直後、静かすぎる。


タッタッター


目の前を何かが通り過ぎた、大きさはそれほど大きくない。夜目がきくとはいえ早すぎて正体がわからなかった、今通り過ぎたのはなんだったのだろうか。そうこうしているうちに何かが今度は近づいてくる、それはデミの目の前に止まった。

「さ、サル?」

一匹のサルだった、でもこれは普通のサルじゃない。目が赤く大きくなり毛は青くなっていた。


そのサルはヴァンパイア化していた。


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