表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/26

特別編2 未来変化

 海面の色が薄くなっていく……ナナが強引に舵を握り運転した船はアキュスの南側を進んでいた。今はヤーンが操縦している。

「ナナ、船を操縦できたのね……」

「そりゃそうよ、何度パパの船に乗っていると思っているのよ」

「娘の罪状に“無免許運転”が加わっちまった……」

ナナがどんな行動をしでかすかわからない……これは今までにもあったことではあったが今まではそれなりに計画を立てそれなりに慎重に行動していたはずだ。いくら囲まれてテンパっていたとは言えこんな行動に出るとはナナらしくもない。

「それにしてもあいつら……追ってこないな?」

ハルは船のお尻を見る……その先の海には空の青と海の青が広がっているだけ、だだ数分前よりすこし小さく見えるようになったアキュスが見えるだけだった。

「アキュスの南側は浅瀬が多いからな……大型船じゃ座礁しちまう」

「へっへ~ん!どうよ私の逃亡術!」

どうやらナナは知っていてこの方角に逃げてきたようだった。あれだけテンパっているように見えてそれなりに計画は立てていたらしい。やっぱりナナはそれなりな行動をするのだ。

「それにしてもクレミーと言ったか?ハルよ、あいつのことは聞いたことあるか?」

船を操舵するヤーン、逃亡先は既に検討がついているのか迷いのない公開を続けていた。

「保安部総副司令……人鬼戦争後にミクスに気に入られて超抜擢された人です。若いですが実力はあるかと……」

「そうか……デミを探す以上また遭遇するだろうな」

クレミーは別にデミを探しているとも見つけたとも言っていなかった。しかしこの時期この場所に保安部が大勢来るなんてデミの捜索以外に見当がつかない

「そりゃ保安部もデミを探すでしょうね、人鬼戦争なんてなぜ起こったのかよくわかっていない……世論も実態解明を望む声が出ているらしいじゃない」

ヴァンパイア達が人間たちに宣戦布告した理由、それは実に単純で“ヴァンパイアの存在を証明”させることだった。人類の敵としてみなされたヴァンパイア……しかしヴァンパイアも生きるために必死だったのだ。結局あの戦争は人間の勝手とヴァンパイアの勝手がぶつかりあった結果だった。しかしこんな理由では難しく考えがちな人間……特にお偉いさんに通用するものではない。

「ルコは死んだ……人間と意思疎通ができるヴァンパイア側の者はデミとナナしか残っていない……」

「ま、私はデミが面白そうだったからついて来ただけだけどね~」

「そんな理由なのか?」

「逆に聞くけど、面白い以外に理由が必要かしら?」

思えばナナはいつだってそうだった。ギルドに情報を横流しにしていたのだって当時のギルドリーダーランスに惚れていた、つまり面白そうだったからという訳だ。ランスが死んだあとにその対象がデミに移っただけ……それ以外にもタコのヴァンパイアを倒した時のキラキラした表情……ナナは結局面白ければそれがどんなに危険だろうと足を突っ込むのだ。

「見えてきたぞ、あそこに停泊だ!」

舵をとっていたヤーンが叫ぶ、前方にはヤシの木が鬱蒼と生い茂る島が見えてきた。

「あれは?」

「メタラ島……アキュスの近くにある無人島よ」

ハルはヤーンに聞いたのだがヤーンの代わりにナナが答えていた。

「無人島?」

「えぇ、木が多すぎて開拓できなかったのよ……もともとそこまで大きい島でもなかったし結局放置されたのよね」

予定ではアキュスでデミを探す予定だったが想定外の事態が起こってしまいアキュスを捜索できなかった……そのため無人島であるメタラ島からの搜索になるというわけだ。

「それに保安部の連中、まだデミを見つけていないみたいだったわ……つまりアキュスには居なかったかもしくは巧妙に隠れていたのか……」

「どうしてそう言える?」

ハルはクレミーのことをよく知らないがクレミーはたとえデミを見つけたとしても、見つけていないにしてもこちらにその情報を伝えるとは思っていなかった。

「簡単よ、あいつらは私たちの船を見つけたからアキュスから出てきたのよ」

「……」

確かにハル達が乗っている船がアキュス付近に来てから保安部の船が来るまでそう時間はなかった。こちらから保安部の船が見えたということは向こうからもこちらが見えるということである。

「つまり、クレミーは僕たちが既にデミを乗せていると思ったと?」

「もしくはデミ自身が動かしている船だと思ったのかもしれないわね」

アキュスはヴァンパイアの島、アキュス近海でデミが目撃されたならアキュスを探すのは当然だ。しかしアキュスを探してもデミは見つからない、そこに不審な船が見えた……様子を見に来るのは当然である。

「ともかくアキュスにデミはいない……となると残るのはこの島、ヤシの木が空を覆い尽くすこの島はヴァンパイアスポットにだってなれる」

“ヴァンパイアスポット”……昼間でも夜のように暗い場所で熱が苦手なヴァンパイアが昼間身を隠す場所として知られている。デミは日光程度の熱は問題なく行動できるがやはり苦手は苦手らしい……潜伏するなら確かにこの島は好都合に思えた。

「そろそろ停泊だ!ナナもハルも準備してくれ!」

ヤーンが船の速度を緩めていく、メタラ島の姿がだんだんと大きくなっていた。無人島のこの島に港は当然存在せず、座礁しない程度に接近してからは泳いでの上陸になりそうだった。




 メタラ島は浜辺を除いてヤシの木だらけであった。しかもただのヤシの木ではない、幹の周囲が大きく丈夫そうだった。根っこまでしっかりと地面に突き刺している。開拓が難しく無人島になった島……見ればそうなったのも納得だった。

「なんか島が騒がしいな……」

「確かに……動物とかがいるのかしら?」

一応船を周りのヤシの葉で簡易的に隠しておいた。最もそれでもバレバレの感じなのであまり意味のないような気もするがないよりかはマシだ。ヤーンは船をいつでも出せるように残ると言って聞かないため浜辺においてきた。

「なぁ……本当においてきてよかったのか?クレミーが追って来たらやばいぞ」

「退路を塞がれる方がやばいわ……パパには船を守ってもらわないとね。とりあえずデミを探そうよ、居なければ居ないで退散すればパパも安全だし」

今は保安部に追われている身、本当なら拠点であるプロに戻りたいくらいだ。チュートならハルたちを匿ってくれる……しかし逃走先がこの島である以上いずれここを捜索する必要がある。

「この島はそれほど広くないし一周したとしても1時間かからない……デミがいるとしたら向こうから出てくるわ」

「僕たちの存在に気づいたらだけどね……」

「ふふ、敵に間違われて噛み付かれないようにね~」

この緊迫の状況の中でもナナは能天気だった。これが無茶をしているものなのか本当に馬鹿なだけなのかはわからない……ナナは本当につかみどころのない人間だった。


ガサガサァ……


なにか音がした、この周りの草むらからだ。

「何かいるわ!」

ナナが羽織っているクロークのボタンを外しマント状にするどういうつもりなのかはわからないがそれなりの考えがあるようだ。

「ヴァンパイアか!?」

2人の周りをぐるぐると回る“何か”まるでこちらの出方を探っているようにも感じた。ハルは太陽の太刀を構える、この太刀は2代目だ。以前ブレイからもらった太陽太刀は人鬼戦争の時にデミとともに失ってしまった。今持っているのは太陽太刀量産化したときに保安官全員に支給されたものである。

「ナナ!わかっていると思うけど絶対にこちらから動くな!こっちから動いたらやられる!」

「そんなのわかっているって!ヴァンパイア退治はそっちの専門でしょ!」

クレミーの船から「動くな」と言われて思いっきり逃げたナナをハルは信用しちゃいなかった。

「飛び出してくるぞ!」

ハルが相手の動向をいち早く察知した。すぐに太刀を構えるとその場所にイノシシが飛び込んできた。

「くっ!」

猪突猛進とはよく言ったものである。細身の体ながら鍛えていたハルだったが危うく押し返されそうになったしまった。

「こいつ……間違いない……」

青い毛並み、ボツボツした皮膚、赤い瞳……間違いなくヴァンパイアのものだった。

「ハル気をつけて!噛まれでもしたら大変だから!」

「大丈夫、保安官はワクチンを常に持ち歩いている!」

デミの“増殖しないワーム”をヒントにキショー大学のイリバとロンドが作り出した抗ヴァンパイアワームワクチン、ネズミによる実験が成功して早々に臨床試験に入り驚く程のスピードで保安官や各診療所に支給された。

「そのワクチン、今のところ問題はないけどいつ変な副作用が出るかわからないわよ!?」

「保険だよ保険!」

ヴァンパイアワームのワクチンは確かに必要なものとされ普及には全力を尽くしていた。しかしヴァンパイアに対する驚異が減ったということ、そして副作用も満足に確かめていないワクチンを使用することに疑問を感じる者も多い、生みの親であるイリバですら意見書を首都に提出したとの噂が流れている。

「まぁ噛まれないことに越したことはないケド……そのヴァンパイアは思考が悪いみたいだけど脚力は十分みたいだから気をつけて」

ナナはどうやら応援観戦に回るようだった。確かにこの場でヴァンパイア退治をできるものなんてハルしかいない、ハルだってヴァンパイアが現れたときは保安官の名にかけてナナを守るつもりでいた。


 イノシシの動きは非常に単調で読みやすく、そして対処も楽だった。頃合を見計らってわざと隙を晒して突進を誘う、後はその突進を避ければ攻撃を喰らうことはない……問題はこちらから攻撃することができないことだった。

「ハル何時間稼ぎしてんのよ!」

「こっちだって命懸けなんだよ!」

ハルは先程から気になっていたことがあった、それはイノシシの行動である。この場にはハルはもちろんナナもヤーンもいる……それなのにイノシシはハルばかりを狙っている。

「ナナ!さっきから気になっているんだが……」

「なによ、イノシシの弱点?その太刀ならスパッと切って終了でしょ?」

「そうじゃない、なぜナナは狙われないんだ?」

「あぁそんなこと……」

ナナはさも当然のように来ているクロークを翻した。そして前髪をくるりと弄ると得意顔でこう言ったのだ。

「昨日も言ったでしょ、この服はルコのものだって」

ヴァンパイアクイーン……今彼女はそう呼ばれている。どういうわけかナナはルコ愛用のクロークを手に入れていた。ルコの匂いの染み付いたそのクロークは羽織っていればヴァンパイアはルコ、もしくはその友人と思い襲うことは絶対にしない……驚いたのはその効能がルコの死後2年経った今でも残っていることだった。それだけルコがヴァンパイアに与えた影響が大きかったことを物語る。

ナナがなぜ今までヴァンパイアに襲われることなく過ごせたのか、ナナの暮らしていたのは首都さえ把握していなかった名も無き村……ルコの故郷である。水源は確保できるし母親と時折会って食料と情報をもらっていた。ヴァンパイアの問題さえ解決できればどうにか暮らせたのだ。

「とにかく今はこいつをどうにかしないと……」

このままではこちらが疲れる一方だ、今は大丈夫でもいずれ不利になっていく。


”一回攻撃を喰らえばいいじゃない”


どこからかそんな声が聞こえてきた。

「そんな馬鹿な話……」

そして空耳を律儀に聞いていたハルは思いっきりよそ見をしていた。


ドスッ!


腹のど真ん中、胃の中央を目掛けてイノシシが突撃していった。食べ物を消化するはずの胃液が逆流を始め喉の先までこみ上げてきたがハルは口をしっかりと閉じてこらえた。

「ハル!何やってんのよ!」

ナナの叫び声が聞こえてくる。だいたい叫んでいる内容は予想できるのだがイノシシに突撃されて宙を舞っているハルにはただのざわめき声にしか聞こえなかった。

「ぐっ!」

地面に叩きつけられそのまま車輪のように回転する……1回転2回転、3回転目からは数えることをやめた。

「ハル!さっさと動きなさいよ!」

ようやくナナが言っている言葉を聞き取ることができた。頭の中の脳みそが回転を続ける中ハルは目を開ける……視界はすべてイノシシの頭だけだった。

「!?」

「ハル動いて!噛まれる!」

動かなければやられる……そんなことは重々承知だった。だけどハルは動けるほど思考が回復していない。


ガブッ……


聞きたくもない音……右肩から皮膚と肉が潰れる音が聞こえてくる。噛まれた……これは確実に噛まれた。ワクチンはあるにはあるがヴァンパイアに噛まれた場合は意識を失ってしまう。その間イノシシがハルを食い殺すことも考えられた。ナナに救出は無理だし絶体絶命だ。

「……あれ?」

まだ意識がある……個人差があるが数秒で意識を失うのだが……

「ってそんな細かいところ気にしてる場合じゃない!」

普段から鍛えているハルは回復が早かった。咄嗟に左足を力を込めて押し出しイノシシを蹴っ飛ばした。

「ハル大丈夫!?噛まれていたけど!」

「あぁ怪我だけだ……多分」

頭がまだクラクラするもの立ち上がることはできた。フラフラであるには変わらないが戦闘は続行できる。

「それにしてもイノシシは!?」

ハルが先ほど蹴っ飛ばしたイノシシは体がひっくり返ったようでまだもがき続けている。

「ハル!今のうちに!」

「あ、ああ!」

太陽の太刀を地面と垂直に構えそのままもがいているイノシシに突き刺す……イノシシの断末魔と共に切り口からは煙が上がった……太刀を突き刺したままイノシシはゆっくりと焼けていきそして動かなくなった。

「……殺ったか?」

「大丈夫みたいね」

しばらくすればこのイノシシは炭となり土に還っていくだろう、この世にヴァンパイアの驚異がまたひとつ消えた……


あーあ……殺しちゃった


またどこからか声が聞こえてくる先程もこの声を聞いた……ガラスのように透き通ったようにも聞こえるし紙をクシャクシャに丸めたような声にも聞こえてくる。この声はなんだ?どこから聞こえてくる。


ハル、ここだよここ……君の真上


真上?ハルの上にはヤシの木以外にはないはずだ。

「ハル……木の上に……」

「木の上?」

見上げた瞬間、ハルの頬は一瞬温まり溶けていった。しかしそれから1秒も経たずに冷めて凍りついていく、そして頬から腹まで鉄のように固まっていった。

「デミ……」

「デミ・テール……現れたわね」

鉄の体から鉄のような言葉で彼女の名を呼んだ。ワームに支配されるのではなくワームを支配するヴァンパイア、デミ・テールは体を木の枝のように擬態させて今までの戦闘を高みの見物していたのだ。

「“現れたね”とはこっちのセリフよ……突然船が来たと思ってみてみたら……」

デミの体色が緑色から薄い青色に変わっていく……カメレオンのようだった。この2年間でデミはワームの制御を完璧にしていた。

「デミ、お前今まで何をやっていたんだよ……2年間も」

「隠れ住んでいたに決まっているでしょ、私は……いえ、“私たち”は敗者なのだから……」

人鬼戦争後、ヴァンパイアは人を避けるようになった。デミの口ぶりから推測するとこれはデミの指示だったのだろう。

「それでハルにナナ……何をしに来たの?殺しに来たのかな?それとも捕まえに来たのかな?」

「……違う」

鉄は硬いままじっくりと熱されていく、鉄の内側で確かに点火の光が見えた

「デミを……迎えに来た……」

「ひゅー!いっちゃった!きゃっ」

ナナ……がはやし立てたせいで雰囲気がぶち壊しとなった。

「ああああ!!とにかく!早くこの島から離れるぞ!」

「え、ちょ……!」

このハルに手を引っ張られる感覚……子供の頃は逆にデミがハルを引っ張っていた。ハルがデミを引っ張って連れて行くパターンは今まで1度しかない。それは2年前、ジョウォルの保安官学校から逃げ出す時だった。その時もハルは説明もロクにしないまま連れ出していった。




浜辺のヤーンの船はヤシの葉で覆われている。そのヤシの木を荒っぽく払い除けたナナは文字通り船に飛び乗った。

「パパ!早く船を出して!」

「な、ビックリしたぁ……もうちょっと落ち着いて入ってこいよ」

そのまま坂道を転がる玉のように入ってくるハルとデミにヤーンは再び体が震えた。

「あ、あぁ……デミが捕まったのか」

「捕まっていませんよ、拉致られはしましたが……あとお久しぶりです」

ここに来てデミが突然冷静になっていた。状況についていけているのかどうかは別だが……

「それで私をとっ捕まえてどこに行くき?ナナがいるとなると牢獄じゃないと思うけど」

「「あっ……」」

固まった、この急がなければならない状況の中で固まってしまった。ヤーンが先に我に返り船を出す準備を始めた。そして船が動き始めた頃にようやくハルとナナが口を開く。

「考えてなかった……」

「保安部が動いていたし急いでいたからね~」

「バカァ!何年経ってもハルのバカァ!」

「僕だけ!?ナナは!?この作戦ナナが持ちかけてきたのに!」

「ふふ……あたたたちは相変わらずね」

船は保安部に追われないように浅瀬を選んで進んでいた。ハルは心の中でデミとの再会を喜び、そして一人で生きていたデミをようやく迎えに行くことができたと安堵した……だけど小っ恥ずかしくて口には出さなかった。




 ルル村……デミのふるさとである。18年前、当時では珍しかったヴァンパイアの集団襲来によってヴァンパイアタウンと化した村……ヴァンパイアの驚異が去ったあとも放置され続けている。

「全く変わってないわね……」

スウの港から少し外れた所に無理矢理船を止め、道なき道を歩き、ようやくたどり着くことができた。

「デミ、ハル……ここもそう長くは居られないわよ、村はなくても道として使われているのだから」

「この村に来たという事は逃亡先は……」

この先は言わずとしても分かった。あの”名も無き村”だ。あそこならばまず見つかるようなことは無い。

「デミ、あなたならあの村の場所がわかる……ハルを連れてそこに」

「え?」

「お、おい!ナナとヤーンさんはどうする!」

ポンシーエの親子はまるで付いてくる気配などなかった。

「私たちは別に国にでも行くわよ……それに恋人の邪魔はしたくないわ」

「「ちょっ……恋人!?」」

そして捨て台詞を吐いてスッキリしたのか、状況が掴めずあたふたしている父親を引きずりながら去っていった。

「あ、相変わらず嵐みたいな人ね……」

「……デミ」

ハルは臆病な人間だった……だけどここぞという時に覚悟を持ち合わせていた。

「僕は君を守る……この先一生ね」

ナナがわざわざお膳立てしてくれたんだ。それにデミを守れるのはデミを殺したことのあるハルにしかできない。

「えっ!?ちょっとハル!?」

子供の頃はデミに振り回されていた。だけど2年前にハルがデミを引っ張る事案が発生しそして再開した今ではハルがデミを引っ張っている。

「僕がなぜ保安官を目指したと思う?」

「それは……あの時の」

2人の故郷であるナーカ……その北に広がるヴァンパイアスポットの森にデミがハルを連れて遊びに行った時だ。案の定ヴァンパイアに遭遇し必死で逃げた。ハルはその時、デミを守るために保安官を目指した。

「あの時からずっと僕はデミを守るために保安官を目指していた……今じゃあどうでも良くなっているけどね」

ハルはあることに気づくのにだいぶ時間がかかったのだ。

「デミを守ることなんて保安官じゃなくてもできる……これからはずっとデミのそばにいる……」

「1回殺したのに……バカ」

デミからバカと言われたのはとても久しかった。




人気のない、人気どころか道すらない場所を娘と父親2人で歩いていた。

「わが娘よ……」

「なぁに?わが父よ」

「別の国というが行くあてはあるのかね?」

「ないわよ」

あまりにも当然のようにナナは真顔でそう言った。父親としては頭を抱えるだけだ。

「ないってこれからどうするんだよ!?」

「まぁ私の人生くらい自分で選ぶわよ、危ない橋の方が楽しそうだし」

「親は!?親の余生は!?」

「さあ、終わりなき旅へレッツゴー!」

「ちょっちょっと!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ