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第二十一話 人鬼戦争Ⅲ

人間をすりつぶして肉団子にしたような異型のヴァンパイアが地面から出てきた。

「これはまさかスライムですか!?実在したなんて・・・」


太陽剣のなかった時代のことだ。ギダムでは安全にヴァンパイアを退治するためにクナ谷にヴァンパイアを突き落としていた、そしてヴァンパイアと同じようにヴァンパイアに噛まれた人間も谷底に落としていたのだ。ある日ヴァンパイアに噛まれた人たちが一度に谷に落とされた。谷底では死体の山ができ、地面に叩きつけられたために体はぐちゃぐちゃになってしまいどれがどの人のものだかわからなくなっていた。死体と死体の境界がわからなくなったその山は一つの塊になってそして一つのヴァンパイアとなった、これがスライム。一部で噂になっていたがあくまで噂であり実在すると思っていた人は少なかっただろう。


うぎゃあああああ!

のわああああああ!


複数の人の叫び声がスライムの無数の顔から聞こえる。

「撃て!」

槍兵は周りのヴァンパイア掃討に当たっていたしそもそもどう行動するかわからないヴァンパイアに対して接近戦は危険すぎる。筒を持った兵士たちは次々に弾を発射していった。


パァン!パァン!


「ふむ、威力不足ですか・・・」

スライムは怯みこそしたが倒れはせず太陽砲の弾がスライムの中からポロポロ落ちてきた。弾力のあるスライムに弾は効かないようだった。

「・・・・・ヤッテ」

ルコが指をテルトに向けた、その途端にスライムは走り出す。

「は、早い!」

スライムは見た目に反して速かった。すぐにテルトの元までたどり着き一本の手がテルトを掴む、そして抵抗するテルトをよそにスライムの中に引きずり込まれていった。

「く、喰った!?」

デミは口を開けて呆然としていた。ヴァンパイアは通常仲間を増やすために噛み付くはずなのだがスライムは中に引きずり込むことで自身をさらに強化する。デミ同様に特殊状況の中で変異したワームによるものだ。

「ひ、怯むな!」

兵士の誰かが叫ぶ。デミのことは無視して兵士たちは一斉にスライムに向かっていった。しかし太陽砲は怯む程度しか効かないし槍は近づけない。スライムは次々に兵士を喰っていった。

「編成を立て直せ!太陽砲で怯んだあとに槍で突くんだ!」

「その声はルメルさん!?それにハルも!?」

懐かしい声が聞こえたかと思うとルメルがやってきていた、横にはハルもいる。

「大きな音が聞こえたと思ってきてみれば・・・」

「アレはデミのトモダチ・・・」

ルメルはギダム南方でヴァンパイアの大群と戦っていたがスライムの出現の音を聞いて持ち場を部下に任せハルとともにやってきたのだ。

ルメルの指示によって兵士たちは太陽砲を放つ、怯んだところに槍を突き刺すがダメージを与えている感覚はあるもののなかなか倒れてくれなかった。

「デミ、なんでここにいるの・・・」

「ハル・・・・」

何も言えなかった。場の流れでヴァンパイア側にいる状況ではあるがギダムの前で次々にヴァンパイアが倒れていくところは人ごとではなかった、もちろん今目の前でスライムに喰われていく兵士たちにも心を痛める。

「私は人間だしヴァンパイア・・・だからどっちにも味方したい」

「デミ・・・」

2人が話す後方では太陽砲の音と槍を突く音が交互に聞こえてきていた。

「人の指示がついていると厄介だな・・・」

ルメルは次の案を考えていた。叫んで指示したためにルコの方も作戦が聞かれてしまっている、スライムは太陽砲を持っている兵士を優先的に喰っていた。人をたくさん喰らったせいか大きくなっているような気がする。複数のヴァンパイアを団子にしたような存在であるスライムは以前のタコのヴァンパイアのように大きくなりすぎて破裂するということはない。

「やりたくはないが・・・あの女の子を狙え・・・」

ルメルは決断した。


パアアン!ドン!パチィ!


太陽砲の音の割合が多くなった気がした。ハルもデミも気になってスライムの方を見てみたらそこは衝撃の光景が見えた。

「・・・・・!」

「ルコ!」

ルコの体のあちこちから血が出ていた。かろうじて生きているようでスライムの背中にしがみついている。

「ルメルさん!こんなやり方があるのですか!」

ハルはルメルに食らいついていた。

「じゃあ黙って仲間があいつに喰われるのを見ていろというのか!時間が経てば経つほど犠牲者は増えるぞ!俺だってやりたくはない、だが女の子1人と兵士数十人だったら俺は後者を取る!」

「ルメルさん・・・」


パシューン!


「ルコおおおおおおおお!」

弾の一発がルコの左胸を貫いたようだった。ルコはスライムから力なく落ちていく、太陽砲の音の次に聞こえてきたのはルコが地面に叩きつけられる音だった。デミはルコのもとに駆け出してやりたかったが兵士たちに阻まれてしまった。

 司令官のいなかったスライムは今までの無双状態が嘘のように沈んでいった。今は無数の槍を突き刺された状態で倒れている。ルコは体のあちこちに穴があいていてその穴を中心に火傷していた。

「デミ、お前は人間だしヴァンパイアだ。今はそのどちらでもありどちらでもない」

静かになった森の中ルメルがデミに語りかけていた。

「デミ、今回は見逃してやる。だから逃げろ、このギダムから逃げろ」

ルメルはルコを抱きかかえていた。ルコのかぶっていたおもちゃの王冠はルコの頭ではなく胸の上にある。

「ルコをどうするんですか・・・」

「悪いようにはしないさ、ただ本部に持っていくだけ」

「悪いようにはしないって・・・もう十分にしているではありませんか!」

「ああ、だが俺はデミとは違って人間だ。だから人間が生き残るためならなんだってする。自分のことは守るのが生存本能というものだ」

ハルはルメルの話を黙って聞いていたがついに口を開いた。

「デミ、行って・・・これ以上いられると僕はデミを殺さなければいけなくなる・・・」

「・・・・・」

ハルに変わって今度はデミが黙り込んだ。拳を強く握って唇をかんでいる。

「ああハルの言うとおりだ、社会っていうものは時に・・・いや常に残酷だ」

デミはくるりとルメルとハルに背を向けると何も喋らずに森の奥へ歩いて行った。残ったヴァンパイアがデミの後ろをついていく、まるでデミがヴァンパイアを従えているようだった。




「ミクス指令、ヴァンパイアですが全体の半数ほどを撃退したとのことです」

ミクスの元を部下がやってきていた。

「この調子なら無事に守りきれそうだな、夜明けを待つまでもない」

「ミクス、油断大敵という言葉を知っているかい?」

横にいたベルーが真剣な顔をしていた。彼女は常に油断しないし些細な驚異も妥協しない人間だ。

「まあ問題ないさ、あまりに気を遣いしすぎると疲れてしまうぞ」

「そうかい」

また1人部下が入ってきた。

「報告します!敵首領の少女を殺害したとのことです!遺体が今到着しました!」

「おや?進展だねぇ」

ベルーは小さく拍手していた。

「なるべく生け捕りにしていろいろ聞き出したかったがまあいいだろう。これで楽になる」

ミクスは立ち上がり遺体を見てみることにした。

「だから油断大敵だって・・・ヴァンパイアが猪突猛進な動きをしているところを見るときっと簡単な命令を繰り返すように言っているだけ、司令官なくても動けそうだし油断できないぞ」

「まあそうだな」

「それにまだデミ・・・半人半鬼がいる」

「彼女はヴァンパイアにつくと?」

「あの姿でしかも今更”人間として生きます”なんて言えないだろう。きっと彼女はヴァンパイアとしての道を突っ走る」

「なるほど・・・とりあえず例の首領を拝みに行こう、どんな顔をしているかね」

「悪趣味だねえ・・・あたしはここにいるよ、誰かが来るかもしれないからね」

「ああ、そうしてくれ」




「ロンド、しばらくそこに居なさい・・・」

「働かなくなったらこれですか・・・」

ロンドは地下牢に入れられていた。逃げ出したロンドは兵士に取り押さえられて牢に入れられたのだ。

「大丈夫、絶対に助け出すから」

「ロンドは助けられなかったのに!?」

突然ロンドは声を荒げた。衛兵がこっちを見たのでイリバはそれを無言で静止した。

「私だって失敗することはある・・・あるのよ・・・だから今はおとなしくして」

「・・・・わかりました」

腑に落ちないようだったがロンドの返事を聞たのでイリバは帰ることにした、ナナが待っているだろう。


ナナは地下牢に向かっていった、イリバがここに居ると聞いたからである。ナナはこれからイリバに残酷なことを伝えに行かなければならない。

「あ、イリバ先生」

ちょうどイリバが出てきたところだった。

「ナナちゃん・・・どうしたの?」

イリバは疲れているようだった、こんなイリバは見たことがない。

「その、テルトさんがヴァンパイアに喰われました・・・スライムだったそうです」

明らかに疲れている様子のイリバにこれを伝えるのは嫌だった。ほんと嫌な役回りだ。

「・・・・そう」

ついにイリバはナナに顔を見せなくなった。

「スライムか・・・実在したなんてね。きっとイリバも苦しかったでしょう」

「私は以前にタコのヴァンパイアを見たのです。この状況で報告できなかったのですが・・・世の中には様々なヴァンパイアがいるものです」

「そうね、私がうまくいかない時もあるでしょうね」

イリバはいつもすべてを見透かしているような人だった。どんなことをしてもイリバの思惑通りになっているのではないかと思ったこともある。そのイリバが思惑通りにならなかったことが今回のボレロの件だった。

「先生、少し休んだらどうでしょう」

これ以上イリバを疲れさせたくなかったナナは提案してみることにした。

「そうね・・・そうさせてもらうわ・・・」

ナナの提案をあっさり受け入れたイリバは仮眠室の方にとぼとぼ歩いていった。ナナはイリバの姿が見えなくなるまで見送ると部屋に戻ることにした。


ナナが本部の入り口近くを通りかかった頃にその入口が騒がしくなっていることに気がついた。罵声や怒声が聞こえる中、ミクス司令の姿が見えたのでナナは声をかけてみた。

「すいません、何が起きたのですか?」

「君は確かイリバの・・・敵軍の首領がお見えしたのだよ。最も仏になってだがね」

ナナは人ゴミをかき分けて担架に乗せられている女の子を見た。

「これは・・・」

デミが以前にルコと呼んでいた女の子は文字通り蜂の巣状態であちこちから血を流して元の肌の色がわからないレベルだった。周りの兵士たちは怒りをその女の子にぶつけている。遺体には弾痕や切り傷もあるが打撃痕も見られる、兵士には棍棒などは持っていないはずなのできっと運ばれてくる途中で殴られたのだろう。とてもじゃないが居心地のいい場所ではない、戦争というのはこういうものなのだろうか?ナナは人間であることが少し嫌になった。

ふとナナの頭にあることが浮かんだ。

「ミクスさん、彼女の遺体を預からせてもらっていいですか?調べたいことがあるのです」

「ああ構わないよ。どうせそっちの方で調べてもらおうと思ったからな」

「ありがとうございます、今すぐ遺体を作戦室に・・・」

「わかった、手配しよう」

とりあえずルコがこれ以上暴力を振るわれることはないだろう。そしてナナはルコの所持品を手に入れることに成功した。


3人がいた作戦室には今はナナしかいないが正確にはルコもここにいた。

「あなた、死んでからだいぶひどい目にあったわね・・・」

ナナは横たわるルコの髪をなでた。血はなるべく拭き取ってあげたので本来の白い肌が見えている。いつも着ていた黒いクロークは脱がせておいたので中に着込んでいた白い服がルコの身を包んでいた。白い服は血で真っ赤に染まってる。

「私は元からこの戦争に興味はない。立場的に人間側に参加しただけ・・・」

ナナはルコが護身用に持っていたであろうナイフを手にするとポニーテールのしっぽの部分を切った、ハラハラと髪の毛が床に落ちる。

「だから私はこれから私のしたいことをする。一度きりの人生だもの、私が本当にしたいことをただ突っ走りたい」

ナナの顔はこれ以上なく強かった。

「デミ、私は今あなたのことを知りたい、あなたに興味を持った。あなた以上に面白いものはこの世にない。だから今からあなたのもとに行く、私のしたいことを実行する」

ナナはルコの羽織っていたクロークを羽織った、子供にはダボダボだったクロークもナナが着ればちょうどだ。クロークは血の匂いがついていたがむしろそのほうがいい、ナナはルコ愛用の冠を持ち部屋を出て行った。




デミは森の奥で息を潜めていた。現状ハルとルメルに”生かされている”状態である。誰かに見つかってしまったら今度こそルコのように殺される。今ここはデミを中心にヴァンパイアが集まっているため兵士が一気に攻め入られることはない、つまり安全だった。

「でも今更人間にはなれない・・・」

もうデミはヴァンパイアになるしか道は残されていなかった。

「じゃあヴァンパイアになればいいじゃない」

切り開かれるようにヴァンパイアが左右に避けて道が現れたようだった。ヴァンパイアに囲まれたその道を歩くのはセミショートの少女。

「まさか、ナナ!?どうしてここに!?」

いつものポニーテールではないが間違いなくナナだ。

「まさかと思ったけどこのクロークの効果は絶大ね。ヴァンパイアに襲われやしない」

ナナはクロークの裾をつまんでいた。あのクロークはルコのクローク、ルコの血と匂いが染み込んだそのクロークを着ていればヴァンパイアは襲ってこなかった。

「違う、どうやってここに来たのかじゃない。どうしてここに来たのよ!」

「私はね、キショーの学生としてこの戦争の参謀を任された。でも今ここに来たのはデミと戦うためじゃない」

ナナは笑みを浮かべた、その笑は逆に不気味だ。

「デミ、私は今あなたに夢中よ。最初は学者として興味を持ったのだけど一緒にいるうちにあなた自身にも興味を持った」

「だから?」

「私を仲間に入れて、あなたといるととっても面白そうなの」

動機はともかく思ってもいない助太刀だった。

「仲間に入れてって私はヴァンパイアに味方しているわけではない!」

「でも人間には入れないでしょう?あなたルコがギダムでどんな目にあったか知ってる?遺体を殴られていたのよ、蹴られていたのよ!」

デミの顔が絶望になっていた。

「ルコは・・・人間だよ!ヴァンパイアと一緒にいるだけで人間だよ!」

デミはあの名も無き村でルコ本人から聞いたあの子の一生を簡単に話した。名も無き村でヴァンパイアと一緒に育ったのに村を出てみればヴァンパイアは害虫扱いだった、それを変えるためにルコはこの戦争を仕掛けたことを・・・ナナは黙って聞いてくれた。

「ルコは人間だね、“異質”ではあるけれども人間であることには変わりはない。だけどこの戦時下ではヴァンパイアと一緒にいたという事だけでヴァンパイア扱いしてあんな扱いを受けているの。デミも人間になりますといったところで同じ扱いされるだけ!」

デミには2つの進む道がある、人間になる道とヴァンパイアになる道だ。しかし人間になる道は閉ざされたのと同じだ、つまり残されたもう1つの道・・・

「私はヴァンパイアになるしかないのかな?」

「少なくても私はそう思う」

デミは周りを見回した。ルコが死んでからヴァンパイアはデミの後を付いてきている。ヴァンパイア達は新しいリーダーを探している。そしてヴァンパイア達は今ヴァンパイアで最も知恵がありルコとも親交があったデミを新たなリーダーとして慕っているようだった。

「ナナ、私はヴァンパイアに見えるかな?」

「ルコもスライムも消えた今、私はデミが最強のヴァンパイアに見える」

デミは森の中から天の川を見た、何かを決断した。

「私は人間をやめる・・・中途半端はやめる!」

今まで整理がつかず中途半端な態度をとっていたがデミの天秤はついに傾いた。

「私は・・・ヴァンパイアだ!」

デミはついに宣言した。ヴァンパイアとして、ヴァンパイアのリーダーとして生きていくことに決めた。

「デミ、覚悟を決めたね」

ナナは懐から冠を出した。

「これはルコの・・・」

デミが屈むとナナはゆっくりと冠をデミの頭にかぶせた。おもちゃの冠はルコにはちょうどだがデミにはとても小さい。

「ルコ、私は今からヴァンパイア。ルコの跡を継いできっとヴァンパイアをこの世に認めさせる。私の存在も、ルコの存在も認めさせる!」

デミは冠を優しく撫でた。


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