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27.やっぱりノーコン・プリンセス

 究極呪文などという桁外れな魔法を使ったチカゲは、さすがに疲れが出て、戦いの翌日は終日、自室で過ごした。

 一日ごろごろと寝て過ごし、すっかり体調が戻った翌日、王女は通常通り朝食を採りに、お守役と共に食堂へと向かった。


「お、もういいのか?」


 廊下の角を曲がった時、貴賓室の方からやって来たハーシェルとはち合わせる。見ると、少年は旅支度を整えていた。


「あ……、もう、帰るの?」


「ん? ああ。エルウィードの一件も片付いたし、何時までもアケノに世話になってる訳に行かないだろ?」


 くしゃりと笑った少年に、チカゲは共に戦った仲間がすぐに居なくなってしまうことに、少しだけ寂しさを覚える。


「もう少しだけ、いれば?」


「あ?」ハーシェルは、意外、という顔をする。


「だって、せっかく来たんだから、もう少し、アケノの国情とか、勉強してみればいいじゃない?」


「……あー」


 ハーシェルは、困ったように頭を掻いた。 

 が、次に悪戯小僧の顔でにやり、と笑う。


「それって、俺に居て欲しいから言ってんだろ?」


「? うん」


「俺が、好きってこと?」


「……え?」瞬間意味が飲み込めず、チカゲはきょとんとする。彼女の薄緑の大きな目を、ヒノワの王太子は真面目な顔で覗き込んだ。


「俺と、結婚する?」


 その時になって、チカゲは漸く自分がプロポーズされたのだと気が付いた。

 音がしそうな勢いで、一挙に顔に血が上る。


「どっ、どどどっ……!」


 完全に頭の中がパニックになり、酸素不足の魚のように口をぱくつかせるチカゲの隣で、マリがこほん、と咳払いをした。


「ハーシェル殿下、申し訳ございませんが、姫様はその手のご冗談には不慣れなお方でございまして……」


「えー、冗談じゃないって」


 心外だなあ、と、ヒノワの王太子が声を上げた時。大階段の方からトシヤとカナメがやって来た。


「よーっ、もう帰っちまうのかぁ?」


 トシヤが、呑気に手を上げる。


「おうっ、で、今、チカゲに結婚申し込んだとこっ!」


「なにいっ!?」


 驚いた二人が、全速力で走って来る。


「本気かよっ!?」


 トシヤが、顔がくっつきそうな勢いでハーシェルに訊いた。


「マジマジ」ハーシェルは喜々として頷く。


「わっ、私は……」


 飛んでもない事態に慌てふためきながら、それでも何とか否定しようとしたチカゲの言葉を、カナメが遮った。


「そうか……。ヒノワと言えば西の大国、悪い縁談ではないな」


「うおおっ!! どーすんだよこんな跳ねっ返りっ!! 王女らしいこと、どころか、王妃らしいことなんてなんも出来ねーぞこいつわっ!!」


「アケノの王女として、釣り合う相手を考えれば、一考すべき話だな」


「あ、別にいいぜ、なんもできなくても。ただ、モノぶっ壊すノーコン魔力の制御だけ何とかしてくれれば」


「少しお待ち下さいっ、殿下方。姫様のお相手でしたら、他にも候補の方が……」


「ちっ、ちょっと……」


 勝手に決めないで、とチカゲは皆を止めようとする。

 しかし、兄も従兄も、更にはお守役も、誰も彼女の意見を聞こうとしない。

 王子や王女が廊下のひと隅に固まって、何の騒ぎかと、近衛兵や侍従達が遠巻きに集まり出す。


「大体っ!」


 トシヤが怒鳴った。


「こいつは魔術師だぞっ? おまけに魔法使う以外能が無いくせに、その魔法がまるっきり的外れと来てるんだぞっ! そんなんヨメにしてどーすんだっ!」


「だーからっ、それは何とか努力して貰って」


「努力して直るんだったら、だっれも今まで苦労しねぇってのっ!!」


「だーっもうっ!!!!」


 ついにキれて、チカゲは声を張り上げた。


「さっきから聞いてれば人のコト無視してみんなして勝手な話してっ!! 私はっ、まだ結婚なんてっ、しませんっ!!」


 金切り声に近い高音で叫ぶ王女に、遠巻きのやじ馬家臣団が、おおっ、と、どよめく。


「ざーんねんっ」


 ハーシェルが、おどけた仕草で肩を竦めた。


「どさくさ紛れに「うん」って言ってくれれば、強大な魔力の魔術師を一人、ヒノワにスカウト出来たのになあ」


 チカゲは、目が点になった。


 何のことは無い、ハーシェルは自分の魔力だけが目当てだったのだ。

 好きとか嫌いとかの問題ではなく、ただ魔力だけが。

 なのに、勘違いして真っ赤になった自分が、情けないし恥ずかしい。

 それにもまして、仮にも乙女心を踏み躙った少年の発言は、絶対許せない。

 キれる以上に頭に来た。


「……あのなあっ」


 童顔を憤怒の形相に変えたチカゲに気が付いたヒノワの王太子は、ひえっ、と奇妙な声を発し、飛び上がった。


「結局なんじゃいっ。私はただの魔力兵器かいっ!!!!」


「いっ、いや、そーいう意味じゃなくて」


「じゃあ、何の意味なのよっ!?」


 魔力の放出で髪が宙に浮き始めたチカゲの様子を見て、トシヤまでが焦って執り成しに入る。


「だからよっ、今の話は冗談で……」


「冗談で済むと思ってんのっ!? 散々人の乙女心をコケにしてっ!」


 悪かった、と謝りながら逃げる二人に向けて、チカゲは魔法を放つ。


「ファイヤー・ボールっ!!!!」


「いけません姫様っ! ここは王宮の中――」


 諫めるマリの声が終わらぬうちに、チカゲの魔法が炸裂する。

 火球は二人の背中を掠め、回廊の天井に当たる。

 コントロールが出来ていればシャンデリアのひとつを破壊するくらいの筈だった。が、ノーコンは全く治っていなかった。

 勢い良く飛んで行った火球は、シャンデリアどころか直径一メートル程もの大穴を、天井に空ける。


「うっわっ!!」

「きゃああっ!!!!」


 魔法を発動した側もぶつけられそうになった側も、恐怖に叫ぶ。見物していたやじ馬家臣も、大破に揺れる建物から降って来る埃や建材のかけらに、慌てて逃げ出した。

 ばらばら落ちて来る壁の破片を避けながら、カナメは至極真面目な顔で言った。


「やはり、チナミが降臨している時だけだっな、あの絶妙なコントロールは」


「もーやだぁっ!!」


 またまたやってしまった大失敗に、チカゲは頭を抱えてしゃがみ込む。


「大丈夫だよチカゲ。アケノの国庫は豊かだ。おまえが何とかコントロールを覚えるまで、幾ら王宮を壊してもなんとかなるだろう」


 ははは、と空々しく笑う兄に、チカゲは「バカぁ」と涙声で返した。


 ――完

終わりました・・・


ここまで読んで頂いた方々に、ただただ感謝致しますm(__)m


チカゲ達の物語は、一旦これで終わりですが、また機会がありましたら、第二弾なども、書いてみたいと密かに思っております。

(いつになるかは分かりませんが……)


とりあえず、今回はこれにて終了とさせて頂きます。


ほんとうに、ありがとうございました。

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