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25.最後の戦い

 ファイヤー・ボム。その名の通り、触れるもの皆爆裂させて通る火球より数段威力の強い魔法を、彼は詠唱抜きで、しかも一動作で発動したのだ。

 この速さでは、防御魔法を発動している暇は無い。触れるすれすれで脇へ跳び、チカゲは爆裂弾をやり過ごした。

 チカゲに肩透かしを食らったファイヤー・ボムは、背後の樹木を薙ぎ倒しながら、王宮手前の四阿を木っ端微塵にして消えた。

 しかし、チカゲ達がそれを確認している余裕は無かった。

 すぐに、エルウィードは次なる魔法を発動した。

 サンダー・スピアとウィンド・エッジ。どちらも強い魔法では無いが、エルウィードは一遍に五つずつ、それらを繰り出した。作り出された雷の槍と風の刃は、扇状に広がった五人目掛けて、てんでに走って行く。

 カナメとトシヤは、迫る槍を自分達の得物で何とか斬り伏せる。マリは風の魔法を避け、エルウィードに三節棍を当てに行った。が、プロテクト・シールドで難無く交わされる。


「アイス・ウィングっ!!」


 チカゲは、仲間の動きを見ながら魔法を繰り出した。氷の粒を含んだ風は、向かって来た雷の槍と風の刃を消し、灰色の魔術師に迫る。

 しかしエルウィードは、片腕の一振りでチカゲの猛襲を消し去った。

 詠唱も何もなく、どんな術でも即座に繰り出してくる。驚異的な、魔力である。

 チカゲ達は、次々に襲って来るエルウィードの魔法と戦いながら、徐々にお互いの間隔を広げて行く。

 エルウィードが、パルスタード得意の召喚魔法でガーゴイルを呼び出した時。


「効かないよっ!」


 待ち構えていたチカゲは、掌を空飛ぶ魔獣に向けて、叫んだ。


「デスペルっ!!」


 途端、ガーゴイルが声も無く虚空へと消え失せる。


「なにっ!?」


 身体が再生する時に、術者との繋がりが一旦切れ魔力が弱まるため、解呪される危険度の高い火の鳥とは違い、他の闇の生物の召還魔法は、この世界に闇の生物を繋ぎ止める術者の魔力に何らかの支障が出ない限り、闇の生物が消滅することはまず、ない。

 まして、強大なエルウィード+パルスタードの魔力である。

 通常のフィールドならば消せる筈の無い召喚魔法を解呪され、エルウィードは驚愕に目を見開く。

 チカゲはふん、と鼻を鳴らした。


「気付かなかった? あんたは私達の結界に捕らわれたんだよ」


「なんだとっ?」


 魔術師は、己の周囲を見回す。遠巻きに見守っている宮廷魔術師達が作り出した魔法の明かりに照らされたチカゲ達は、五人が五芒星を描くように立っていた。


「『光の塔』の五芒星かっ」


「その通り」カナメが言った。


「ここでは、外界から何かを魔力で呼び込むことも、ここから何かを魔力で出すことも、不安定でできにくい。だから、おまえの召喚魔法がチカゲのデスペルで解呪できたのだ」


「……なるほど。だが、逆に四大魔法はどんなに強力なものを撃っても、外への被害は無い、ということか」


 エルウィードが不敵に笑う。彼は腕を上げるや、呪文を唱えた。


「ファイヤー・ストームっ」


 チカゲが先刻エルウィードに使った激しい爆風が、カナメを襲う。カナメは咄嗟に宝具の剣を構えて、魔法を防いだ。

 後方に押し込まれそうになりながら、それでも何とか持ち堪える兄に、チカゲは駆け寄って助けたい気持ちをぐっと堪えた。


「ブリザードっ!!」


 チカゲは、次の魔法を発動しようと再び腕を振り上げるエルウィードに向かって、魔法を放つ。

 彼女の小さな掌から飛び出した魔法は、一瞬で凄まじい吹雪に変わり、魔術師を襲った。

 しかし先程同様、エルウィードは片手で掴む動作をし、その魔法を消し去る。


「無駄だっ! この程度の魔法では、私は倒せぬっ!」


 勝ち誇るエルウィードに、チカゲはにやりと笑う。


「じゃあ、この程度じゃない魔法なら、倒れるんだ?」


 彼女は、予備の積もりでスカートのベルトに差していた自分の杖を取り出した。

 魔法の杖には、それを使う持ち主の魔力が籠っている。

 自分の分身とも言える杖を、チカゲは足下の土に突き刺した。

 五芒星の結界を形成する己の位置に身代わりを置き、チカゲは一歩、前へ出る。


「今度こそ、完全にぶっ飛ばすからっ!!」


「ふん。究極呪文を使おうというのか。チナミを降臨させていない身で、出来るものならやってみるがいい」


 呪文の詠唱の長い究極呪文は、それを唱えている間に、敵の魔法を避ける事が出来ない。

 結界の中という逃げ場の無い空間では、全く不利だった。

 が、魔術師は、魔法を使えない人間に比べ、魔法に対する耐性が高い。

 四つの要素の根源は、無属性である自然の『気』である。この『気』は四大要素全てを作り出すと同時に、全てを打ち消す作用も持っている。

 人の有する『気』も、やはり無属性である。従ってやり方さえ知っていれば、四大魔法を難なく打ち消せる。その場合『気』が大きければ相殺力もより大きくなり、必然的に普通人より気力——魔力の大きい魔術師のほうが、魔法耐性が強くなる。

 チカゲは、魔法の攻撃に敢えて耐える覚悟をした。

 それでなくては、もうこのエルウィードを倒すのは不可能だ。


「……我が魔力の流れ、奔流となれ。しかして、大地の力、陽の力、月の力、風の力を全て取り込み……」


 呪文が始まると同時に、結界の中の大気がぐにゃりと歪んだような感覚が起こる。


 究極呪文は、通常の火地風水の四大魔法の延長上にある魔法だった。

 四つの要素の先にあるもの、それは天の星々が有するという、高次の『気』である。

 それを地上で作り出すには、四つの要素を寄り合わせる必要があるが、そもそも属性の違う要素同士は反発するため、統合するには膨大な魔力が必要になる。

 星々はその強大な力で、四つの要素を無理矢理融合していると、魔術では考えられている。

 どんなに強大な魔力を誇る魔術師でも、星の力に匹敵する魔力など、到底持ち得ない。

 そこで、呪文の前半では、術者の肉体にではなく、別な『場』を術者の周囲に新たに作り、その『場』に術者の周囲の気、無属性の自然の気を、一時的に出来得る限り取り込む。そのため、大気にも歪みが生じるのだ。


 周りの気配の歪みは、人に言い知れぬ不安を抱かせる。


 魔力を持たないカナメやハーシェル達にも大いに不安感を抱かせる程、チカゲの『気』の取り込みようは凄まじかった。

 まして、今はチカゲ以上に魔力を有するエルウィードは、周囲の気の極度の歪みに、心底恐怖を感じたのだろう、両眼をかっ、と見開き、鬼の形相でチカゲを睨み付ける。

 小馬鹿にした小娘が、本当に究極呪文を発動しそうだと察した魔術師は、早急に呪文を阻止しようと、火球を数十個、チカゲに向けて繰り出した。

 気が付いたが、ぶつけられるのは元より覚悟している。自分の魔力の大きさならば大丈夫、とチカゲは胸中で自分に言い聞かせ目を閉じる。

 火の熱が間近に迫る。その時、誰かが自分の前に立ちはだかる気配がした。

 チカゲは、驚いて目を開けた。


「トシヤ兄っ!?」


 トシヤが、何と数十個の火球を両手に抱え、止めている。一瞬で焼失してもおかしくない行為なのに大丈夫なのは、恐らくテオドールの魂が『神気』を使ってトシヤを助けているせいだろう。

 思わず詠唱を止め叫んだチカゲを、トシヤはもの凄い形相で睨み付けてきた。


「バカ野郎っ!! ここで止めてどーするよっ!! さっさと続きを唱えろっ!!」


 チカゲは、思わず涙ぐみながら、うん、と頷いた。


「……大気を、空を、世界を揺るがせ。その鳴動は天に上り……」


 エルウィードが再び魔法を繰り出す。今度は氷の魔法を数十個、チカゲへと走らせる。

 巨大な氷の塊たちを、今度はマリが押さえた。

 カレリアの『神気』が熱を生み、氷塊と反応して、マリの身体の正面からもうもうたる蒸気が上がる。

 二人は、それぞれの宝具を結界石として己の場所に置いて来ていた。そのため、魔法を打ち返すことが出来ないのだ。

 またも声を上げそうになるのを、チカゲはぐっと堪える。

 三度、エルウィードが魔法を発動した。

 虎鐵を素早く大地に突き刺したハーシェルが、チカゲの右前へ飛び出す。地を這い突進して来た十数個の雷球を、少年はやはり素手で止めた。


「くおっ!!!!」


 腕の中で炸裂する激しい稲妻に、ハーシェルは必死で耐える。

 仲間の想いに、チカゲは思わず目頭が熱くなった。


「――遠く夜空の星々の力を目覚めさせる。とこしえに輝く星はその光を増し――」


 本当は、すぐにも彼等を助けたい。その気持ちを押し込め、呪文の詠唱を続ける。

 五つに別れた究極呪文の最後の部分は、チナミの魂に刻まれていたため、チカゲは覚えることが出来なかった。しかし、呪文の流れから、彼女はおおよその傾向を掴んでいた。

「……星々は共鳴し、その力、天に満ち溢れる――」


 呪文が終盤になるにつれ、チカゲの魔力が光となって、彼女の身体から溢れ始める。白く輝くチカゲの魔力は、下から上へと流れ、赤金の長い髪を大きく両側へと広げる。

 三つの魔法を止められ焦るエルウィードは、チカゲを攻撃するよりまず結界を壊そうと、チカゲの杖へ向けて雷撃を放った。

 予測していたカナメは素早く動き、鋼の小剣をすぐ側に突き立てて雷撃をそこへ導く。


「ちっきしょう……っ!! てめーばっかりっ、楽しやがってっ!!」


 上手く逃れたカナメに、トシヤが苦しい中から文句を言った。


「しょうがないだろう? トシヤとは勘の冴えが違うんだから」


「んーだとぉっ!? こんのやろーっ!!」


 ストレートな揶揄に、トシヤは怒って火球を押し返した。と、あろうことか、数十個がひとつとなって巨大化していた火球が、エルウィードの方へと押し返された。

 逆戻りして来たファイヤー・ボールを、魔術師は驚きながらも簡単に消去する。

 それを見ていたハーシェルが、負けじと雷球を押し返した。


「んーっなろっ!!」


 こちらも一度は逆戻りし掛けたが、押し返せずにまた戻る。


「ちーっくしょうっ!! 行かねえっ!! トシヤっ、なんちゅー、バカ力っ!!!!」


「へへん、おまえとは怒り方の年季が違うんだよっ!」


「アホっ……、かっ!」


 二人が漫才をしている間に、エルウィードがまたも魔法を発動する。押さえようの無いウォーター・ボールの出現に、トシヤとカナメは焦る。

 それでも止めようと二人が同時に腕を伸べた時。

 チカゲの呪文が完成した。

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