↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
19/48

第19話 魔女

 ログライン・三幕構成と物語の全体を把握しながら作品を作る経験は実門《みかど》にはなかった。今回、新たな作品ではログラインから始めることにしていた。

 実門が得意なジャンルはスポーツ系や学園もの系だと感じている。スポーツは好きだし、実戦経験を活かせる。学園ものも自分の体験からエピソードを持ってこれる。

 逆に苦手なのはファンタジー系やミステリー系で、空想の物語を作ることは少ない。流行の異世界転生や悪役令嬢は描ける気がしない。

 しかし、自分の殻を破るためにも今回はファンタジーを描きたいと感じている。

 きっと狐の神様というファンタジックな存在に出会ったことで、心境の変化が訪れたのだろう。

 今は3月。4月の入学式までに短編の作品を1本作りたい。話をどんな展開にするか。今までは思いついた順番にお酒の力を借りて、勢いよくライブ感で描いていたけど、それではいけない。

 まずはログラインを考える。そして、面白いと感じてもらえるかどうかが肝要だ。


「絵馬、あたし今新しい漫画に挑戦しようと思ってるのだけれど」

「あぁー、前回話してた魔女の助手のヤツですねぇ。ずっと描かないから気になっていました」


 キッチンでブロックの牛肉にブラックペッパーとすりおろしたニンニクを染みこませながら、絵馬は背中で実門の話を聞いている。


「そうね。見切り発車で突撃しても30回連続で落ちているからかしら、ちょっと今度はアプローチを変えてみようと思って」

「へぇ。どんな物語なんです?」

「ファンタジーよ」

「素敵ですね。私って『ハリー・ポッター』とか『とんがり帽子のアトリエ』とか大好きです。でもミカ先輩にファンタジーってイメージはなかったですねぇ」


 実門は名作のタイトルを聞いて、気が引けたが用意していた言葉を並べた。


「舞台はまだ、魔術がまだ公には認められていない世界なの。――で司法機関に所属している主人公はね。伝説の魔女ソフィーの元へスパイとして忍び込むのよ」

「え! もう面白いです」

「そのソフィーが黒魔術と呼ばれる禁断の魔法を研究しているのではないか? という疑いが真実かどうかを報告書に記す任務ね。そして証拠を集めていく過程で二人は仲良くなるんだけど……」


 絵馬は完全に手を止めて、実門の方へ向いた。両手にはポリエステルの手袋をしている。


「どうなるんですか……、ソフィーは黒魔術をしていたんですか?」

「どうなると思う?」


 実門はふっと笑った。絵馬は頬を肘で擦っている。コンロの火が強くて、フライパンから焦げたにんにくの匂いが部屋に充満する。パチパチという音が聞こえる。牛脂が弾ける音だ。


「魔女ソフィーはね。黒魔術の研究をしていたのよ」

「えっ、それじゃあスパイの主人公に報告されるんじゃ」

「今の話は三幕構成の二幕目までの話なの。三幕目のラストは、まだ秘密」

「えーっ、秘密ですか? 私に秘密はなしですよぉ」


 読者を焦らす。これは作者の特権だ。主導権は自分にある。実門は満足そうにクロッキー帳に続きの展開を描いていった。


 絵馬がフライパンで肉を焼き、ローリエで匂い付けをする。赤ワインと肉汁で作ったタレを加えれば、実門の大好物のローストビーフの出来上がり。

 絵馬は包丁で器用にスライスすると、こたつの上のテーブルに並べた。


「このレアな感じ。たまらないわ。お肉のお刺身ね」


 絵馬はお皿を下げると「続きを教えてくれるまで、お預けですぅ」と笑った。

 実門は冷蔵庫の野菜室から赤ワインを取り出すとグラスに絵馬の分も合わせて、2杯注いだ。


「実はね、魔女ソフィーには大切にしている双子の片割れの妹がいて……」


 絵馬は 物語の展開を聞きながら、飲むのを忘れているように、ずっと片手にワイングラスを持っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。