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同接0人のEランク探索者ダンジョン配信、なぜか神様や魔王様が見ている件 〜コメント欄が古代龍や魔王とかなんだが〜  作者: 仁科異邦


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もう一人の候補者

新章始まりました。

よろしくお願いします。

――とある高層マンション、深夜――


 東京の夜景が、窓一面に広がっていた。

 ここは四十階。


 静かな部屋の中、一人の青年がソファに深く腰かけてモニターを見ていた。

 年齢は十八歳。


 黒髪を無造作に流した顔立ちは整っていて、ともすれば穏やかに見える。

 でも目が違う。

 暗くて、深くて、何かを計算し続けているような目だ。


 名前は、九条颯真くじょう そうま

 探索者ランク、B。

 ジョブクラス、Aクラス・剣豪。

 僅か十七歳でBランクに到達した、現在進行形の天才だ。

 そしてもう一つ。

 本人しか知らない、もう一つの顔がある。



 モニターには配信ログが映っていた。

 神代レンの配信だ。

 颯真は画面を見ながら、指先でソファの肘掛けを静かに叩いた。

 一定のリズムで。

 止まらない。


「……やっぱりおかしい」

 独り言が静かな部屋に溶けた。

 画面の中でレンが笑っている。

 コメント欄が賑やかだ。


 古代龍バハムート。魔王ゼルディア。精霊王シルフィード。

 名前を見るたびに、颯真の指先のリズムが少しだけ変わった。

(知っている。あの名前を、僕は知っている)


 颯真は立ち上がって、部屋の奥に進んだ。

 壁に向かって、静かに言った。

「見てますか」

 返事はない。

 でも空気が、少しだけ変わった。


【冥王ハデス】:見ている


 颯真のスマホに、通知が来た。

 颯真はそれを見て、少し口の端を上げた。

「あの配信の常連たち、古参の連中ですよね」


【冥王ハデス】:そうだ

【冥王ハデス】:バハムートもゼルディアも、古い。そして強い


「なぜあいつのところに集まってる」


【冥王ハデス】:興味があるのだろう

【冥王ハデス】:お前と同じように


「僕は興味じゃない」

 颯真はスマホを握った。

「あいつが何者か、確かめたい」


【冥王ハデス】:それを興味というのだか?


「……」

 颯真は少し黙ってから、モニターに戻った。

 画面の中でレンが「なんとなく」と言っている。

 その一言が、なぜか颯真には引っかかっていた。

(なんとなく。そんな言葉で全部片付けて、なぜ動けるんだ)



 三ヶ月前。

 颯真が初めてレンの配信を見たのは、切り抜きがSNSで流れてきたのがきっかけだった。

 タイトルは「登録者数百人のEランク、Cランクボスを単独討伐」。

 最初は一笑に付した。


 Eクラスが単独でCランクボス。ありえない。

 念のため見た。

 そして見終わった後、しばらく動けなかった。

(なんだ、あの動きは)


 EクラスのDランクが、Cランクボスを倒した。

 それ自体は確かに異常だ。

 でも颯真が気になったのはそこじゃなかった。

 コメント欄だ。

 古代龍バハムート。魔王ゼルディア。精霊王シルフィード。賢神ソフィア。雷神トール。戦神アレス。死神ネクロス。

 その名前を見た瞬間、颯真の中で何かが反応した。

 知っている。


 どこかで聞いたことがある。

 記憶の中を探ると、出てきた。

 自分のコメント欄にいる、あの連中と、同じ種類の存在だ。

 颯真は自分のスマホを開いた。

 自分の配信のコメント欄を確認する。


【冥王ハデス】

【征服神テュール】

【奈落の神エレボス】

【時の神クロノス】

【破壊神シヴァ】


 五人。

 颯真の配信には、最初からこの五人がいた。

 颯真は登録者数が現在五十万人を超えるBランク配信者だ。


 でも颯真はこの五人を「神」だとは思っていない。

 いや、正確には、思わないようにしている。

 認めてしまうと、面倒なことになる気がするから。

(でも、あいつのコメント欄の連中と、同じ種類だ。間違いなく)


 颯真はレンの配信に戻った。

 画面の中でレンが笑っている。

 無防備に、無自覚に、笑っている。

(何も知らないんだろうな、あいつは)


 颯真は自分が何者かを、薄々感じていた。

 感じていたから、確かめたかった。

 あいつが同じ存在なら、あいつを見れば分かる。

 自分が何者かが。



 颯真はソファに戻って、スマホを開いた。

 しばらく考えてから、別の画面を開いた。

 チャットアプリ。

 複数のアカウントに、一斉にメッセージを送る。


「今週末、渋谷第三を荒らせ」

「配信中に嫌がらせをして、動揺させろ。ダンジョン内でも直接当たれ」


「ただし、怪我はさせるな。あくまで揺さぶりだ」

 しばらくして返信が来た。

「了解です。颯真さん、そのEランクの何が気になるんですか」

「気になる、じゃない。確かめたいだけだ」

「何を?」

 颯真は少し考えてから答えた。

「反応を、ね」

 送信してから、スマホを置いた。


【冥王ハデス】:あの配信者を揺さぶって、何を得る気だ


「反応を見たい。本物かどうか」


【冥王ハデス】:本物とは?


「同じ種類の存在かどうか」


【冥王ハデス】:……

【冥王ハデス】:回りくどいやり方だな


「直接行くより、遠くから見た方が分かることがある」


【冥王ハデス】:なぜ直接行かない


「まだその段階じゃない」

 颯真は画面を閉じた。

 窓の外の夜景を見た。

 東京の光が、無数に広がっている。

(でも、あの荒らしは失敗した)


 ログを確認する。

 嫌がらせをした人間は、レンに完封された。

 しかも怪我一つさせずに。

 颯真の指先が、また一定のリズムで動き始めた。

(Cランク帯の動きを封じた。雷の出力を最小に抑えて、怪我させずに剣を落としたEクラスが)

 颯真は少し目を細めた。

「本物、か」


【冥王ハデス】:認めるのか


「まだ認めてない。でも」

 颯真は立ち上がった。

「直接会う理由はできた」


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