表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
同接0人のEランク探索者ダンジョン配信、なぜか神様や魔王様が見ている件 〜コメント欄が古代龍や魔王とかなんだが〜  作者: 仁科異邦


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/52

桜木の下で1

 四月の第一週。

 アリサからメッセージが来たのは、三日前のことだった。


「お花見しませんか。みんなで」

「みんなで、というのは?」

「神代くんとサクラさんと、あと天城さんも誘おうかと。田中係長も誘ったら来てくれるかも」


「いいですね。どこにしますか」

「代々木公園はどうでしょう。広いし、桜がきれいなので」

 レンはしばらく考えた。


「食べ物は持ち寄りで」

「そうしましょう。私、お弁当作りますね」

「作れるんですか?」

「失礼な。一応作れます」

「すみません、イメージが無くて‥」

 そういう流れで、お花見が決まった。

【アリサの好感度が下がった】



 当日の朝。

 サクラからメッセージが来た。

「レンさん、今日何持っていきますか」

「おにぎりでいいかと思ってました」

「もしかしてコンビニのやつですか?」

「はい」


「だめです。私が作ります。何が好きですか」

「昆布です」

「そうでしたね、他には何かありますか?」

「鮭も好きです」

「了解です。あとから連絡します」

【サクラの好感度が下がった】


 しばらくして追加のメッセージが来た。

「から揚げも作りました」

「ありがとうございます」

「あと卵焼きも」

「サクラさん、作りすぎでは」

「足りないよりいいです」

 レンはスマホを置いた。

 なんか、すごくしっかりした人がパーティにいる。

【サクラの好感度が下がった】



 代々木公園、午前十一時。

 桜は満開だった。

 風が吹くたびに花びらが舞って、地面がうっすらと白くなっている。


 レンが指定の場所に行くと、アリサがすでにブルーシートを広げていた。

「早いですね」

「場所取りは大事なので。朝七時から来てました」

「七時……」

「いい場所は取り合いになるんですよ」

 アリサの隣に、大きな風呂敷包みが置いてあった。


「それがお弁当ですか」

「そうです。昨日の夜から準備しました」

「一晩かけて」

「張り切りすぎたかもしれない」

 アリサが少し照れたように言った。

 そこへサクラが来た。


 両手に大きな袋を持っている。

「おはようございます。アリサさん、早い」

「サクラさんも荷物多いですね」

「作りすぎました」

「私もです」

 二人が顔を見合わせて、少し笑った。


 次に来たのは田中係長だった。

 私服のチェックのシャツ姿で、なんか雰囲気が違う。

「おはようございます、係長さん」

「田中でいいと言ってるだろう。休みの日くらいは」

「田中さん」

「まあいい」

 田中係長は手提げ袋を持っていた。


「一応、何か持ってきた方がいいかと思って。コンビニのスイーツだが」

「わぁ!ありがとうございます!」

【サクラとアリサの好感度が上がった】


 そして最後にユイが来た。

 白衣ではなく、ふわっとしたブラウスに淡いブルーのカーディガンを羽織っている。


「普段と雰囲気違いますね、天城さん」

 レンが言うと、ユイが少し首を傾げた。

「研究室以外では白衣着ないですよ」

「そうか」

「そうですよ」

 ユイは手に小さな紙袋を持っていた。

「桜餅、買ってきました。花見っぽいかと思って」

「完璧ですね」

「一応、季節感は大事かと」

【ユイの好感度が下がった】



 全員揃って、シートに座った。

 レン、アリサ、サクラ、田中係長、ユイ。

 五人が輪になって座ると、思ったより賑やかだった。


「飲み物は‥?」とアリサが確認した。

「ノンアルのやつ買ってきました」とサクラが袋から出した。

「緑茶とオレンジジュースとコーラがあります」

「コーラ」とレンが言った。

「昆布おにぎりとコーラ」とサクラが苦笑いした。

「組み合わせが独特ですね」

「これが好きなんですよ」

「まあいいです」

 食べ物を広げると、シートの上があっという間に埋まった。


 アリサのお弁当は、唐揚げ、だし巻き卵、ほうれん草のおひたし、ごぼうのきんぴら、ミニトマト、ブロッコリー。

「すごい種類ですね」

「頑張りました」とアリサが少し得意そうに言った。

 サクラのおにぎりは昆布、鮭、梅の三種類に、から揚げ、卵焼き、ポテトサラダ。


「作りすぎですよやっぱり」とレンが言った。

【サクラとアリサの好感度が下がった】


「全部、食べてくださいね」


 田中係長のコンビニスイーツは、いちごショートとチョコレートケーキとプリンが三個ずつ。


「どれが好きか分からなかったから適当にな」

「全部好きです」とユイが即答した。

【ユイの好感度が上がった】


「じゃあよかった」と田中係長が言った。

 ユイの桜餅は八個入り。

「一人一個以上食べられますね」

「計算しました」

「さすが研究者」

「こういうことには使わなくていい計算ですけどね」


食べ物を食べながら、話が弾んだ。

「そういえば」とアリサが唐揚げを食べながら言った。

「レンさんって、探索者になってどのくらいですか」

「二ヶ月くらいです」

「二ヶ月でDランクか」

「早いですか」


「普通は早くても半年から一年かかります」

「そうなんですね」

 田中係長がお茶を飲みながら言った。

「ちなみに協会の最速記録は二ヶ月だ」

「じゃあ僕はその次くらいですか?」

「いや、記録更新してる可能性がある」

「それはすごいんですか」


「すごいんだよ」と田中係長が少し呆れた顔をした。

 ユイがメモを取ろうとして、サクラに止められた。


「天城さん、今日は休みですよ」

「あ、すみません。癖で」

「ですよね。でも今日はいいじゃないですか」

「そうですね」

 ユイはメモ帳をしまった。

 でも目はまだ観察している。


「天城さん、まだ見てますよ」

「体に染みついてるんです」

「研究者って大変ですね」

「楽しいので大変とは思ってないんですが」

 サクラが笑った。

「それが一番いいですね」



 ご飯を食べながら、少し静かな時間があった。

 桜が風に揺れて、花びらが舞ってくる。

 一枚が、サクラの頭に乗った。

「あ」

「花びら乗ってますよ」とレンが言った。

「取りますね」

 レンが手を伸ばして、花びらを取った。

 そのやり取りを見て、アリサが少し微笑んだ。


 田中係長がお茶を飲みながら空を見た。

「ほんと綺麗だよな、ずっと見ていて飽きない」

「珍しくロマンチックなこと言いますね、係長さん」


 ユイが空を見上げた。

「桜、きれいですね」

「毎年見てなかったんですか?」

「なんとなく、花見に来る機会がなくて。いつも研究室にいるので」

「もったいないですよ」


「そうですね」

 ユイは空を見ながら、続けた。

「来年も来れるといいな」

「来ましょう」とサクラが言った。

「来年も。再来年も」

「来ますか、また」

「来ます。絶対に」

 アリサが微笑んだ。


「私も来ます」

「僕も」

「私もだ」と田中係長が言った。

 五人でしばらく空を見た。

 桜の花びらが、ゆっくりと舞い落ちていった。



 食後のスイーツタイムになった。

 田中係長のコンビニスイーツを広げると、ユイが目を輝かせた。

「チョコケーキ」

「好きなやつを取っていいぞ」

 ユイがすかさず、チョコケーキを取った。

「天城さん、チョコ好きなんですか」

「好きです。研究のときよく食べます」


「甘いものが好きなんですね」

「糖分が集中力を上げるので」

「なんか研究者らしい理由ですね」

「おかげで食べすぎる欠点があります」

 サクラがプリンを取った。


 アリサがいちごショートを取りながら言った。

「そういえば、今後の探索どうするつもりですか」

「今後、ですか」

「Dランクになったので、もう少し難しいダンジョンに行けるようになりますよね」


「そうですね。渋谷第三だけじゃなくてもいいかなと思ってます」

「どこに行くつもりですか」

「まだ決めてないです。コメ欄の皆さんと相談しながら」

 アリサが少し笑った。


「コメ欄の皆さん、か。相変わらずですね」

「相変わらずですね」

「でもいいと思います。あの人たちがいるから、レンさんは安心できる」

「そうなんですよ」

 田中係長が桜餅を食べながら言った。


「新しいダンジョンに行くなら、一応協会に事前申請しておけ。サポートができる」

「ありがとうございます」

「あと、強くなるのはいいが無理はするな」

「分かってます」

「本当に分かってるか」

「たぶん」

「たぶん、か」

 田中係長がため息をついたが、怒っている顔ではなかった。


 午後になって、公園が賑わってきた。

 いろんな人たちの声が混じって、桜の木の下が明るくなる。


 五人はそのままシートに座って、のんびりと話し続けた。

「サクラさんって、なんでポーターになろうと思ったんですか」

 レンが聞くと、サクラが少し考えた。


「探索者になりたかったんですけど、初級ヒーラーで戦闘向きじゃなくて。でもダンジョンに関わりたかったので、ポーターなら、と思って」

「後悔してますか」

「してないです。今は」

 サクラはレンを見た。


「今の方が、最初より全然いいので」

「そうですか」

「そうですよ」

 アリサが空を見ながら言った。

「私、S級になりたくて探索者になったんですけど」

「今はどうですか」

「S級になれましたけど、なった後どうするかを考えてなかったことに気づいて」

「なんか、目標がなくなった感じですか」

「そうですね、でも最近は」

 アリサがレンを見た。


「面白いなと思うことが増えました。レンさんの配信を見てから」

「僕の配信がですか?」


「そうです。コメ欄の人たちとか、サクラさんとか、天城さんとか。なんか、一人で強くなることばかり考えてたんですけど、そうじゃない世界があるんだなと」


「大げさですよ」

「大げさじゃないです」

 ユイが少し顔を上げた。

「私もです。研究ばかりしてたんですけど、最近は配信を見るのが楽しくて。データを取ることより、次何が起きるかを楽しみにしている自分がいて」


「研究者らしくない」

「らしくないですよね。でも悪くないです」

 田中係長が空を見ながら言った。

「俺は協会に入って二十年だが、こんなヤツは初めて見た」

「褒めてますか」

「褒めてるさ」


「ありがとうございます」

「素直なところは評価するぞ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ