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同接0人のEランク探索者ダンジョン配信、なぜか神様や魔王様が見ている件 〜コメント欄が古代龍や魔王とかなんだが〜  作者: 仁科異邦


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33/50

荒らし

UP先間違えました、えへへ

その日の配信は、いつもよりも穏やかに始まった。  


地下三階、東エリア。

レンとサクラの二人は、湿った岩壁が続く通路を淡々と進んでいく。  


先週はサクラの都合がつかずレンのソロ配信が続いていたが、今週からはまた、いつもの二人三脚だ。


「前方、魔物の気配なし。……あ、右の脇道に個体識別。一体います」

「了解です。無駄な戦闘は避けて、左から回りましょうか」

「そうしましょう」

魔力感知が馴染んできたおかげで、探索のテンポは目に見えて上がっていた。  

二人の連携も、だいぶ板についてきた。

流れるコメント欄も、実家のような安心感に包まれていた。


【古代龍バハムート】が入室しました

【魔王ゼルディア】が入室しました

【精霊王シルフィード】が入室しました

【賢神ソフィア】が入室しました


【精霊王シルフィード】:きたよー!やっぱり二人のほうが画面が華やかでいいね!

【mukai_b_rank】:おはようございます。今日は東エリアの最奥狙いですか?

【ダンジョンオタク_ケイ】:先週のソロもストイックで良かったけど、この空気感が好き。


「おはようございます。今日は東の最深部まで足を伸ばしてみる予定です」

「よろしくお願いします」

【kirishima_arisa】:気をつけて。あのあたりは急に魔力が濃くなる場所があるから。

【古代龍バハムート】:レン、魔力感知を絞れ。広域よりも「密度」を探れ。索敵が劇的に変わる。

「密度、ですね。……やってみます」


順調だった。  

このまま、穏やかなアーカイブが残るはずだった。



探索開始から三十分。  

ふとした雑談から、コメ欄にわずかな違和感が混じり始めた。

【ダンジョンオタク_ケイ】:そういえばサクラさん、先週は完全に不在だったのに、昨日から急に復帰したんですね。

【mukai_b_rank】:言われてみれば、何かあったんですか?


「あはは、本当にただの私用が重なっちゃって。お騒がせしました」

「僕が無理を言って、今日から調整してもらったんです」

そんなやり取りの最中。  

不意に、真っ赤なアイコンの新規アカウントが割り込んできた。


【雑魚狩り配信bot】が入室しました

【雑魚狩り配信bot】:は? これ完全に「仕込み」だろ。

【雑魚狩り配信bot】:サクラとかいう女、都合よく消えたり現れたり不自然すぎ。

【雑魚狩り配信bot】:どうせ裏で台本あるヤラセ配信だろ。冷めるわ。


一瞬、コメ欄の動きが止まる。  

だが、それは始まりに過ぎなかった。


【名無し視聴者A】が入室しました

【名無し視聴者B】が入室しました

【名無し視聴者A】:神様(笑)とかいうロープレ勢も寒すぎる。

【名無し視聴者B】:バハムートだの魔王だの、おっさんが必死にキャラ作って協力してると思うと草生えるわ。

【雑魚狩り配信bot】:配信者もこいつらの言いなりじゃん。接待ダンジョン配信かよ。


「…………」

レンは視界の端で流れる罵詈雑言を横目に、足を止めずに進んだ。  

初めての、本格的な「荒らし」。  

胸の奥がざわつく。無視すべきか、言い返すべきか。

ネットの作法がわからないまま、レンは努めて冷静に前を向いた。

「……気にせず進みます。次は東エリアの境界線です」


【雑魚狩り配信bot】:無視かよw

【名無し視聴者A】:サクラとかいう女、後ろに立ってるだけで何もしてなくね?

【名無し視聴者B】:ヒーラーですらないし、ただの荷物持ちだろ。


【賢神ソフィア】:……騒がしいな。

【古代龍バハムート】:放っておけ。羽虫の羽音に構う価値はない。

常連の「神々」は動じない。  

だが、荒らしの勢いは増すばかりだった。



「……っ」

隣を歩くサクラの肩が、わずかに震えた。  

彼女は俯き、ぎゅっと杖を握りしめている。


【雑魚狩り配信bot】:おい荷物持ち、なんか喋れよ。

【名無し視聴者A】:戦力外の女を連れて歩くとか、効率悪すぎ。レン一人の方がマシ。


レンは足を止めた。  

自分への悪口なら、まだ耐えられた。  

だが、隣で歯を食いしばっているパートナーを「荷物」呼ばわりされるのは、許容できなかった。


「サクラさん」

「……大丈夫です。私、気にしませんから」

「……いや、大丈夫な顔してません」


レンは配信カメラの方を真っ直ぐに見据えた。  

怒りで声を荒らげるのではない。

低く、芯の通った声で告げる。


「……一回だけ言います」

コメント欄の勢いが、その威圧感に気圧されるように一瞬弱まった。


「サクラさんは、僕が気づけない死角をすべてカバーしてくれています。彼女の声かけがなければ、僕は先週、地下三階で詰んでいました。彼女は戦力外なんかじゃない。僕の探索に、欠かせないパートナーです」


それだけ言い切ると、レンはサクラの手を引いて歩き出した。


「以上です。……行きましょう、サクラさん。実力で見せればいいだけですから」

「……はい!」

サクラの顔に、わずかに赤みが差した。


【mukai_b_rank】:レンさん、よく言った……!

【探索者見習い_ハル】:かっこよすぎ惚れた!【kirishima_arisa】:(……こういう時ちゃんと言える人なんだ)


【雑魚狩り配信bot】:はいはい、騎士様気取りおつwww

【名無し視聴者A】:どうせ口だけだろ。



その直後だった。  魔力感知の網に、鈍重で巨大な反応が引っかかる。

「前方……来ます! 重い魔力……でも、今までのやつとは種類が違う」


【賢神ソフィア】:アーマータートルだ。

【古代龍バハムート】:甲羅に魔力防壁を纏う難敵だな。物理は通らんぞ。

「物理がダメなら……」

【雑魚狩り配信bot】:ほら、またコメント頼みwww

【名無し視聴者B】:カンニング配信乙www

レンは薄く笑った。  

たしかにヒントはもらった。だが、それを形にするのは自分たちだ。    

レンは魔力感知を「広域」から「単体」へ絞り込む。

バハムートのアドバイスを、今この瞬間に実行した。  

すると、見えた!

亀の甲羅、魔力の流れがわずかに途切れる「継ぎ目」が。


「サクラさん、右からヘイトを取ってください!」


「任せてください! 『ライト・フラッシュ』!」

サクラが放った閃光が、アーマータートルの注意を逸らす。  


その隙に、レンは最小限の動きで懐へ潜り込んだ。  

コメントを確認する暇などない。

自分の感覚が、そこを叩けと叫んでいる。

「ここだ……!」


魔力感知で捉えた「継ぎ目」に、炎を纏わせた剣先を一点突破で叩き込む。

轟音と共に甲羅が砕け、巨体が光の粒子へと霧散した。


【古代龍バハムート】:……ほう。今の反応速度、教えた以上の動きだ。

【賢神ソフィア】:コメントはただの補助に過ぎない。決めたのはお前の意志だ。


【雑魚狩り配信bot】:…………。

【名無し視聴者A】:あ、今の……マジ?

【新規さん】:すご……。荒らしの反応が止まってて草。

【ダンジョンオタク_ケイ】:これが「ヤラセ」に見えるなら、自分で潜ってみればいいのにね。

レンは剣を引き、サクラと視線を合わせた。  彼女はもう俯いていなかった。


「……完璧でしたね、レンさん」

「サクラさんの足止めがあったからです」

二人の空気は、もう誰にも乱せないほどに研ぎ澄まされていた。


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