おや、レンの様子が
賑やかな雰囲気のまま、レンはダンジョンに向かった。
今日は地下三階の奥、まだ踏んでいないエリアだ。
Dランクになったので、少し深いところまで行けるようになった。
「今日は新エリアです。行きましょう」
【古代龍バハムート】:新エリアか。魔力が濃い。気をつけろ
【mukai_b_rank】:新エリア探索配信か。見ごたえありそう
【戦神アレス】:行け
地下三階の奥へ進んでいくと、通路が急に広くなった。
天井が高い。壁の模様が、今まで見てきたエリアと違う。
「なんか、雰囲気が違いますね」
【賢神ソフィア】:古い区画だ。ダンジョンが生成された初期のエリアだろう
【mukai_b_rank】:初期エリア? 渋谷第三にそんな場所があったのか
【ダンジョンオタク_ケイ】:協会のデータベースにもないエリアですね
進んでいくと、壁に何かが埋め込まれていた。
魔石ではない。もっと大きい。
形が……球体だ。
「なんですかこれ」
【賢神ソフィア】:魔力核だ
【新規さん】:魔力核?
【賢神ソフィア】:ダンジョンの深部に稀に存在する。高密度の魔力が結晶化したものだ。触れると一時的に魔力感知が拡張される
【mukai_b_rank】:魔力核……初めて聞いた。そんなものがあるのか
【賢神ソフィア】:存在する。触れてみろ
「触れていいんですか」
【賢神ソフィア】:ああ、問題ない
【古代龍バハムート】:やってみろ
【雷神トール】:面白いことになるぞ
【精霊王シルフィード】:やってやって!!
【mukai_b_rank】:大丈夫なんですか?
【賢神ソフィア】:保証する
【mukai_b_rank】:ソフィアさんが保証するなら……なんで信じられるんだろう自分
【新規さん】:向井さん早速、コメ欄の洗礼を受けたね
「じゃあ触れてみます」
レンは魔力核にそっと右手を置いた。
その瞬間。
視界が変わった、というより。
感覚が広がった。
「っ……」
ダンジョン全体の魔力の流れが、地図のように感じ取れる。
どこに魔物がいるか。どこに罠があるか。どこに分岐があるか。
全部、頭の中に入ってくる感覚だった。
「…………」
十秒ほど経って、手を離した。
感覚が元に戻る。
でも、完全には戻っていない気がする。
「なんか……さっきより色々わかる気がします」
【賢神ソフィア】:魔力感知が一段階拡張された。お前の先天的な親和性がベースにあったからだ。普通の探索者が触れてもここまで反応しない
【新規さん】:また規格外のことが起きてる
【mukai_b_rank】:え、何が起きたんですか今
【ダンジョンオタク_ケイ】:向井さんにもわからないんですね
【mukai_b_rank】:さっぱり。でもレンくんの様子が明らかに変わった
「試しに……この先、何かいますか」
目を閉じて、感覚を広げてみた。
前方三十メートル、右の通路。
何かいる。大きい。でも眠っている。
「前方三十メートルの右通路に超大型の魔物が眠ってます」
【古代龍バハムート】:正解だ
【賢神ソフィア】:大型のストーンゴーレムだ。今は休眠状態だが、近づくと起きるぞ
【mukai_b_rank】:ちょっと待って。目閉じて感知したんですか今
「なんとなく、分かりました」
【mukai_b_rank】:「なんとなく」か……
◆
休眠中のゴーレムを起こさないよう、静かに迂回した。
その後もレンは時々目を閉じて、感覚を確かめた。
「なんか……ダンジョンが前より透けて見える感じがします」
【賢神ソフィア】:それが魔力感知の拡張だ。使いこなせばダンジョン全体の状況把握ができるようになる
【mukai_b_rank】:スキルが増えたってことですか
【賢神ソフィア】:スキルというより、元々あった感覚が解放された、という方が正確だ
【mukai_b_rank】:元々あった……?
【kirishima_arisa】:(やっぱり先天的なものなんだ)
【ダンジョンオタク_ケイ】:ソフィアさんの説明が毎回核心をついてくる
【mukai_b_rank】:このコメ欄、情報密度が高すぎる。なんで無料で見れるんだろう
【新規さん】:それな
「向井さん、もう常連になってますよ」
【mukai_b_rank】:なってますね。自覚あります
【古代龍バハムート】:歓迎する
【mukai_b_rank】:バハムートさんに歓迎してもらえた。なんか嬉しい
【古代龍バハムート】:……そうか
【新規さん】:バハムートさんが照れてる
【古代龍バハムート】:うるさい、照れていない
◆
帰り道、レンは何度か感覚を試した。
曲がり角の先に何がいるか。どの通路が安全か。
全部、なんとなく分かる。
前より精度が上がっている気がした。
「これ、すごく便利ですね」
【賢神ソフィア】:使いすぎると魔力を消耗する。最初は少しずつ慣らせ
【雷神トール】:良い力を得た
【古代龍バハムート】:まだ始まりだ
【mukai_b_rank】:「まだ始まり」シリーズ、バハムートさんよく言いますよね
【新規さん】:どうやら気づいてしまった様ですね
【古代龍バハムート】:…………事実だからな
【mukai_b_rank】:バハムートさん、本当に何者なんですか
【古代龍バハムート】:…………何者でもない
「向井さん、だんだんコメ欄に馴染んできましたね」
【mukai_b_rank】:馴染んでる気がします。怖い
【探索者見習い_ハル】:歓迎します!
【ダンジョンオタク_ケイ】:仲間が増えた
【精霊王シルフィード】:向井さんよろしくね!!
【mukai_b_rank】:よろしくお願いします。シルフィードさん
◆
配信終了。
本日の最終同時接続数:二万三千人。
チャンネル登録者数:三万一千人。
「三万人……」
レンはしばらくその数字を見つめた。
一ヶ月半前、三人だったのに。
なんか変な感じだ。
でも、悪くない。
(明日も配信しよう)
それだけ思って、スマホをしまった。
◆
異世界のどこか。
「スパチャを競い合っていたな」と魔王ゼルディアが言った。
「競い合ってなどいない」とバハムートが即座に言った。
「いや、一番多かったが」
「気持ちが大きかっただけだ」
「同じことだろう?」
バハムートは黙った。
精霊王シルフィードがくすくす笑った。
「魔力核、うまく使えそうですね」
「ああ」とソフィアが静かに言った。
「あの程度の核でここまで反応するとは思わなかった。やはり先天的な親和性が土台にある」
「あと向井という男も来たな」とトールが言う。
「奴は目が良い」とバハムートが短く言った。
「いい人間が周りに集まってきているな、レンが引き寄せているのだろう」とゼルディアが言う。
しばらく静かになった。
バハムートが最後に言った。
「このまま順当にいけばいずれ、他の候補達とも対峙するだろうな」
◆次回予告
魔力感知という新たな力を手に入れたレン。
探索はさらに安定し、配信も順調に伸びていく——はずだった。
【新規さん】:そういえば最近サクラさん見ないね
【mukai_b_rank】:言われてみれば確かに
【精霊王シルフィード】:あれ?ほんとだ!!
何気ない一言。
だが、その瞬間から——配信の空気が変わる。
【???】:仕込みだろそれ
【???】:どうせヤラセ配信
【???】:神とか寒いんだよ
増えていく“知らない名前”。
明らかに異質なコメント。
そして——
【賢神ソフィア】:……妙だな
【古代龍バハムート】:来たか
画面の向こうから忍び寄る“悪意”。
これはただの荒らしなのか。
それとも——
配信者・レン、初めての対人戦。
次回――
「コメント欄、炎上」
その時、見えない“敵”を感知できるか。




