Dランク昇格試験2
【新規さん】:始まった!!
【精霊王シルフィード】:レンくんがんばえ!!!
【戦神アレス】:来るぞ
【古代龍バハムート】:焦るな。まず相手を見ろ
向井が剣を抜いた。
木刀ではない。魔力を抑えた模擬剣だ。
レンも剣を構えた。
暫し静寂。
向井が動いた。
速い。
予想していたより全然速かった。
レンは咄嗟に後退した。
模擬剣が風を切る音。
身体にはぎりぎり届かなかった。
「反応はいいな」
向井が距離を詰めてくる。
連続で来た。右、左、右。
レンは弾くのを諦めて全部避けた。
後退しながら、壁際まで追い詰められる。
(前に出ないといずれ詰む)
次の一撃が来た瞬間、レンは横ではなく前に踏み込んだ。
向井の懐に入る。
向井が体ごと押してくる。
レンは足を踏ん張って、右手に雷を集めた。
「っ」
右の脇腹に向けて、小さく放つ。
向井がわずかによろめいた。
その隙に距離を取る。
【新規さん】:入った!!
【新規さん】:Bランクをよろめかせた!?
【kirishima_arisa】:向井さんに雷が当たった。これは……
【古代龍バハムート】:いいぞ。続けろ
【雷神トール】:雷の使い方が上手くなっている
向井が止まった。
レンを見る目が、さっきと少し変わっていた。
「懐に入ってきたか。Eクラスがやることじゃないな」
「怒ってますか」
「いいや、怒ってない。ただ驚いてる」
向井が再び構えた。
今度は少し本気の顔をしていた。
(さっきより速くなる!)
レンは深呼吸した。
(いつも通りでいい。魔力を読め。動きを読め)
向井が踏み込んだ。
さっきより明らかに速い。
レンは一歩だけ横にずれた。
向井の剣がすり抜ける。
そのまま体重が乗りきったタイミングで、レンが返した。
向井の肩に模擬剣が触れた。
【新規さん】:え
【新規さん】:今、当てた?
【新規さん】:BランクにEクラスが当てた!?
【kirishima_arisa】:(あの動き、どこで覚えたんだろう)
【ダンジョンオタク_ケイ】:肩に入りましたよね今
【探索者見習い_ハル】:すごすぎる……
向井はしばらくレンを見ていた。
それからゆっくり模擬剣を下ろした。
「止め」
田中係長が前に出た。
「向井さん、判定は」
「ああ、合格だ」
向井はレンに向き直った。
「Bランクに一撃入れたEクラスジョブは、お前が初めてだよ」
「あ、すみません」
向井が少し笑った。
「なんで謝るんだ」
【精霊王シルフィード】:レンくんやったーー!!!!!!
【古代龍バハムート】:合格だ
【魔王ゼルディア】:当然だ
【雷神トール】:よくやった
【戦神アレス】:合格
【死神ネクロス】:今日も仕事なしで何よりだ
【新規さん】:死神さんの安堵が毎回好き
【kirishima_arisa】:おめでとうございます、神代くん
【ダンジョンオタク_ケイ】:おめでとうございます!!
【探索者見習い_ハル】:おめでとうございます!!!
「ありがとうございます」
レンはコメ欄に向かって頭を下げた。
「みなさんのおかげです」
【新規さん】:コメ欄に頭下げてる
【新規さん】:かわいいな
【精霊王シルフィード】:えへへ!!
◆
審査終了後、廊下で向井さんに声をかけられた。
「一つ聞いていいか」
「はい」
「さっき懐に入ってきたとき、俺の重心が前に乗り切るのを待っただろう」
「はい」
「‥なぜそうした?」
「……なんとなく、そうした方がいい気がして」
向井はしばらくレンを見た。
「お前、本当に初級剣士なのか?」
「そうですね、前に計測したらそう出ました」
「そうか」
向井は小さく笑って、背を向けた。
「とりあえず探索者ランク昇格おめでとう、Dランク、頑張れよ」
「ありがとうございますっ!」
その後、田中係長に新しいライセンスを渡された。
探索者ランク:D
レンはそれをしばらく見つめた。
(Dランクになった!)
実感がうまく来ない。
でも、悪くない気分だ。
「推薦してくれてありがとうございました」
「知ってたか、まぁ、実績が十分だったからだ。それに書類を出しただけだ」
「それでもありがとうございます」
田中係長は少し困ったような顔をした。
「……素直なやつだな」
◆
「今日の試験、終わりました。Dランクになりました」
【精霊王シルフィード】:やったやったやった!!!!!!
【新規さん】:Dランク昇格おめでとう!!
【新規さん】:同接二万超えた
【新規さん】:伸びすぎ
【kirishima_arisa】:おめでとうございます。Bランクの向井さんに一撃入れたの、協会内でもう噂になってますよ
【新規さん】:速すぎる
【古代龍バハムート】:当然だ
【魔王ゼルディア】:遅すぎたくらいだ
【雷神トール】:まだ始まりだ
【戦神アレス】:次はAを目指せ
【死神ネクロス】:長生きしろ。それが一番大事だ
【新規さん】:死神さんの締めが毎回好き
「ありがとうございます。これからもよろしくお願いします」
レンはライセンスをポケットにしまった。
Dランク。
(次は何が変わるんだろう)
あまり実感はないけれど、一歩進んだのは確かだ。
それだけで、十分な気がした。
◆
その夜、サクラからメッセージが来た。
「配信のアーカイブ見ました。おめでとうございます!Bランクに一撃入れてるの、ほんとに何者なんですかレンさん」
「ありがとうございます。自分でもよく分からないです」
「それがレンさんらしいです」
少し間があって、もう一件来た。
「次の配信、私も一緒に行っていいですか」
「もちろんです」
「ありがとうございます。あと……私も頑張ります。Dランクのレンさんに置いていかれないように」
レンは少し笑った。
「置いていかないですよ。一緒に行きましょう」
◆
異世界のどこか。
「Dランクになったね、よかった!」と精霊王シルフィードが嬉しそうに言った。
「ランクなど飾りだが」とバハムートが言う。
「そうだな」
トールが腕を組んだ。
「次のランクアップはいつになるか」
「そう遠くないだろう」とバハムートが答えた。
「そしてレンが気づく日も」とゼルディアが言った。
しばらく沈黙が落ちた。
精霊王シルフィードが言った。
「でも今日は、ランクアップのお祝いをしたい」
「どうやって」
「次の配信でスパチャする」
「競い合うな」とバハムートが釘を刺した。
「分かってる。でも少しだけ」
「……少しだけにしろ」
「やったぁ!」
バハムートはため息をついたが、止めなかった。




