レンとダンジョン2
地下三階に降りて、東エリアへ向かいながら、レンはコメ欄に向かって言った。
「さっきから変なことばかり言われてる気がするんですが」
【ダンジョンオタク_ケイ】:変なのはレンさんの方です
【探索者見習い_ハル】:でも本人が一番気づいてないのがすごい
「そうかな」
【kirishima_arisa】:神代くん、一つ聞いていいですか?
「はい」
【kirishima_arisa】:ダンジョンに入るとき怖くないですか。Eクラスで単独潜行って、普通は相当怖いはずなんですが
レンは少し考えた。
「怖い、か。なんか……ダンジョンに入ると落ち着くんですよね。外より静かな感じがして」
【新規さん】:ダンジョンで落ち着く人間
【新規さん】:ダンジョンが実家説
【ダンジョンオタク_ケイ】:ダンジョンは魔力が充満してるんで、普通は圧迫感を感じるはずなんです
【ダンジョンオタク_ケイ】:それが逆に落ち着くって……
【賢神ソフィア】:魔力に親和性がある。ダンジョンの魔力を異物と感じていない
【kirishima_arisa】:(それが全部繋がってる気がする。魔力感知、暗所での知覚、戦闘勘。全部根っこが同じだ)
【新規さん】:アリサさんの括弧書きが長い
【kirishima_arisa】:すみません考えてました
「根っこが同じ、ってどういうことですか?」
【kirishima_arisa】:神代くんの「なんとなく」が全部、魔力への異常な親和性から来てるんじゃないかと思って
【kirishima_arisa】:魔力が読めるから状況が分かる。状況が分かるから最適な動きができる。それがEクラスなのに強い理由の一つなのかもしれない
レンはしばらく黙って歩いた。
「……なるほど」
【新規さん】:「なるほど」で終わるの笑う
【新規さん】:もっと驚いてほしいな
【探索者見習い_ハル】:レンさんって自分のことにあんまり驚かないですよね
「そ、そうかな‥?」
【魔王ゼルディア】:本人にとっては“生まれた時から“そうなのだ。驚けと言う方が無理な話だ
【古代龍バハムート】:そうだな
「バハムートさんとゼルディアさん、なんか知ってそうですよね、やっぱり」
【古代龍バハムート】:何も知らん
【魔王ゼルディア】:‥ロールプレイだ
【新規さん】:二人とも間があった
【ダンジョンオタク_ケイ】:絶対知ってるよね!?
◆
東エリアに踏み込んで少し歩いたところで、レンは立ち止まった。
通路の分岐点だ。
左と右。
レンは少しの間、目を閉じた。
「左です」
【戦神アレス】:なぜだ
「右の方が魔力が乱れてる気がするんで。何かいる気がします」
【戦神アレス】:右でもいいだろう
【死神ネクロス】:左を勧める
【戦神アレス】:また被った
【賢神ソフィア】:左が正解だ。右には大型の個体がいる
「ですよね。なんか気配が重かったんで」
【ダンジョンオタク_ケイ】:また「なんか」
【探索者見習い_ハル】:レンさんの「なんか」シリーズ今日多い
【新規さん】:「なんとなく」「なんか」「気がする」でここまで正確なの逆に天才では
【kirishima_arisa】:魔力感知がほぼ無意識に動いてるんだと思います。訓練してそこまでできる人、私は見たことないですが
「褒めてもらえてるんですか、それ」
【kirishima_arisa】:褒めてます。でも自覚してほしい!
【精霊王シルフィード】:レンくん自覚して!!
「ぜ、善処します」
【新規さん】:善処で終わるな
【新規さん】:このチャンネルのレンさんの天然、毎回面白い
【新規さん】:同接五千超えた
◆
東エリアを一通り確認して、今日は帰ることにした。
特に大きな戦闘もなく、静かな一日だった。
「今日は穏やかな回でしたね」
【ダンジョンオタク_ケイ】:いや穏やかではなかったですよ
【探索者見習い_ハル】:異常なことのオンパレードでした
【新規さん】:本人だけ穏やかだった
「そうでしたっけ」
【魔王ゼルディア】:そうだ
【古代龍バハムート】:まあ、それがお前だ
「バハムートさん、それどういう意味ですか」
【古代龍バハムート】:そのままの意味だ
【新規さん】:バハムートさんが珍しく優しい感じの言い方をした
【古代龍バハムート】:気のせいだ
【精霊王シルフィード】:気のせいじゃない!!
【古代龍バハムート】:…………
レンは小さく笑った。
「今日もありがとうございました。また明日」
【精霊王シルフィード】:また明日!!
【古代龍バハムート】:ああ
【魔王ゼルディア】:また来る
【kirishima_arisa】:お疲れ様でした。神代くん、今日言ったこと、少し覚えておいてください
【ダンジョンオタク_ケイ】:今日面白かったです。レンさんの「普通」って普通じゃないんだなって
【探索者見習い_ハル】:毎回思うけど今日一番思いました
【新規さん】:このチャンネルの沼にハマった気がする
【新規さん】:登録した
配信終了。
本日の最終同時接続数:五千二百人。
チャンネル登録者数:一万一千三百
一ヶ月前、三人だったのに。
(続けてよかった)
それだけ思って、家に帰ることにした。
◆
異世界のどこか。
「今日は色々と気づかれたな」とゼルディアが言った。
「人間にしては鋭い娘だ、アリサは」とソフィアが続ける。
「レンは全部流してたが」とトールが苦笑いする。
「当然だ」とバハムートが答えた。「あいつにとっては生まれた時からそうなのだから」
精霊王シルフィードが少し考えてから言った。
「それって、神様だからってことですか?」
しばらく、沈黙が落ちた。
「いや厳密には違う」とバハムートが短く答えた。
「本人が一番知らない」とゼルディアが言う。
「ああ」
「それがいい」とソフィアが静かに言った。「知らずに、自然に、そうある。それが一番強い」
全員が黙って頷いた。
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