レンとダンジョン1
その日は珍しく、サクラの都合がつかなかった。
用事があると朝にメッセージが来ていた。
「すみません、今日は外せない用事があって。レンさんだけで配信してください」
「分かりました。気をつけて」
「ありがとうございます。アーカイブ後で見ます」
というわけで、久々の一人配信だ。
レンはダンジョンに向かいながら配信を開始した。
【古代龍バハムート】が入室しました
【魔王ゼルディア】が入室しました
【精霊王シルフィード】が入室しました
【戦神アレス】が入室しました
【死神ネクロス】が入室しました
【賢神ソフィア】が入室しました
【雷神トール】が入室しました
【kirishima_arisa】が入室しました
【ダンジョンオタク_ケイ】が入室しました
【探索者見習い_ハル】が入室しました
【精霊王シルフィード】:あれ?今日はレンくん一人?
【ダンジョンオタク_ケイ】:サクラさんいないんですね
【新規さん】:ソロ回だね
「今日はサクラさんが用事があるそうで。一人です」
【魔王ゼルディア】:たまにはいいだろう
【古代龍バハムート】:一人の動きを確認するちょうど良い機会だ
「今日は地下三階の東エリアを見てきます。まだ踏んでないところなんで」
レンはそう言いながら、コンビニに立ち寄った。
「あ、ちょっと寄り道していいですか。朝ごはんまだ食べてないんで」
【新規さん】:配信前に食べてこい
【新規さん】:朝何時に起きたんですか
「六時です」
【新規さん】:なんで食べてないの‥。
「起きてすぐ準備してたら忘れました」
【精霊王シルフィード】:レンくん……
【魔王ゼルディア】:ダンジョンに入る前に食事は基本だ
【古代龍バハムート】:全くその通りだ
レンはコンビニでおにぎりを二個と栄養ドリンクを買った。
店を出ながら、歩いて食べ始めた。
「歩き食いになりましたけど、まあいいか」
【新規さん】:まあいいかじゃない
【kirishima_arisa】:ダンジョン前の食事、ちゃんと時間取った方がいいですよ
【探索者見習い_ハル】:アリサさんに言われてる
「気をつけます。あ、このおにぎり美味しい。昆布」
【新規さん】:昆布報告いらない
【新規さん】:でもなんか好き
【精霊王シルフィード】:昆布!!
◆
コンビニから歩いて五分、ダンジョンの入口に着いた。
おにぎりを食べ終えて、栄養ドリンクを飲み干した。
「よし。じゃあ入ります」
地下一階に降りた瞬間、レンはごく自然に立ち止まった。
目を閉じる。
三秒ほど、そのまま動かない。
それからゆっくり歩き始めた。
【ダンジョンオタク_ケイ】:レンさん、入った瞬間いつも目閉じますよね
「あ、気づいてましたか。魔力の流れを確認してるんです」
【ダンジョンオタク_ケイ】:‥それ、毎回やってるんですか
「習慣です。入った瞬間に確認した方が、後で変化に気づきやすいんで」
【ダンジョンオタク_ケイ】:えっと……それ、誰かに教わったんですか
「いや、なんとなくそうした方がいい気がして」
【ダンジョンオタク_ケイ】:レンさん、それたぶん上級探索者がやるやつです
【新規さん】:え、そうなの
【ダンジョンオタク_ケイ】:魔力感知の訓練として協会の高ランク以上がやる内容です。Eランクが自然にやってるのおかしい
【kirishima_arisa】:確かに。私も最初は意識的に練習しました
「そうなんですか。なんとなくやってただけで」
【新規さん】:「なんとなく」が一番怖い
【賢神ソフィア】:感覚が鋭いのだろう。ただ、それは訓練で得るものではなく持って生まれるものだ
レンは首を傾げながら通路を進んだ。
◆
地下一階を歩きながら、レンは独り言を言っていた。
「今日は東エリアか……昨日より少し魔力が重い気がするな」
【古代龍バハムート】:気づいているか?
「何がですか」
【古代龍バハムート】:昨日と今日で天候が変わっている。地上が雨だと地下の魔力密度が上がる場合がある
「あ、そうか。だから重い感じがするのか」
【ダンジョンオタク_ケイ】:ちょっと待ってください!
【ダンジョンオタク_ケイ】:天候と地下魔力密度の相関って、協会の研究論文でもまだ仮説段階の話ですよ
【ダンジョンオタク_ケイ】:それをレンさんが「感じた」んですか
「え、そうなんですか?なんか重い気がしたので」
【ダンジョンオタク_ケイ】:論文レベルの話を体感で感知してるんですけど
【新規さん】:(やばくない)
【kirishima_arisa】:(これが毎回の「なんとなく」なんだ……)
【探索者見習い_ハル】:でもレンさん本人が一番気にしてないの面白い
「気にした方がいいですか」
【賢神ソフィア】:気にしなくていい。ただ、それが当たり前ではないことは知っておけ
「そうします」
レンはあっさり頷いて、先を進んだ。
【新規さん】:切り替えが速すぎる
【魔王ゼルディア】:まぁ、本人にとっては普通のことだからな
◆
地下二階を通り抜ける途中、ゴブリンの群れと鉢合わせした、五体だ。
レンは立ち止まって、一瞬だけ全体を見た。
「右の二体、足元がぬかるんでますね。転びやすいはず」
そのまま右から崩していく。
予想通り、右の二体は足を滑らせて体勢を崩した。
すかさず仕留めて、残りを処理する。
五体、一分以内に終わった。
【ダンジョンオタク_ケイ】:ちょっといいですか
【ダンジョンオタク_ケイ】:今、ゴブリンの足元のぬかるみを見て戦術を組み立てましたよね
「はい。ぬかるんでたら転びやすいんで」
【ダンジョンオタク_ケイ】:あの暗さと距離で、ゴブリンの足元のぬかるみが見えてたんですか
「……見えてました。駄目でしたか」
【ダンジョンオタク_ケイ】:駄目じゃないんですが普通は見えないんですよ
【新規さん】:暗視能力でもあるの?
【新規さん】:Eクラスにそんなスキルないでしょ
【kirishima_arisa】:ないはずです。ステータス上は
【古代龍バハムート】:視力ではない。気配を読んでいる
「気配、ですか」
【古代龍バハムート】:ぬかるみは魔力の流れを乱す。お前はそれを感じ取って、足元の状況を把握している
「……そうなんですか。てっきり見えてるのかと思ってました」
【新規さん】:本人が一番分かってない
【探索者見習い_ハル】:でもその感覚がずっとあるんですよね?レンさん
「子供のころからこんな感じでしたよ。暗いところでも何となく分かるというか」
【ダンジョンオタク_ケイ】:子供のころから……
【新規さん】:え、それって探索者の能力じゃなくて元から持ってるってこと?
【kirishima_arisa】:(それが一番おかしい)
レンは少し首を傾げた。
「そんな変ですか」
【魔王ゼルディア】:変だ
【古代龍バハムート】:相当な
【精霊王シルフィード】:でもレンくんらしいよ!
「精霊王さん、フォローしてくれてありがとうございます」
【精霊王シルフィード】:えへへ




