初めてのパーティでの探索2
地下二階の中盤、少し広い空間で休憩を取った。
壁に背をつけて、二人で並んで座る。
サクラが静かに息をついた。
「疲れましたか」
「少し。でも大丈夫です」
しばらく黙っていたサクラが、ふとレンの腕を見た。
「あの、擦り傷ありますよ」
「あ、本当だ。気づかなかった」
「回復します」
サクラが右手をかざした。
淡い光が集まって、レンの傷に触れた。
ほんのりと温かい感触。傷が薄くなった。完全には消えていないが、出血は止まった。
「ありがとうございます」
「大した回復じゃなくて、すみません」
「いや、助かります。ポーション出す手間が省けるので」
「……それくらいしかできなくて」
サクラは少し俯いた。
「Cクラスのヒーラーなら戦闘中でも大回復できるのに、私は戦闘が終わってからじゃないと近づけないし、回復量も全然で。前のパーティでも、ヒーラーとしてじゃなくてポーターとして雇われてたくらいで」
そこには、長い時間が詰まっているような言い方だった。
【賢神ソフィア】:サクラ、今日の戦闘でレンが傷を負った瞬間を何回気づいた?
「えっと……三回です。でも全部戦闘が終わってからしか動けなくて」
【賢神ソフィア】:三回全部、か。Cクラスのヒーラーでも、前衛の傷に即座に気づける者は多くない
「気づくだけで、何もできないんですが」
【賢神ソフィア】:気づけるということは、周りが見えているということだ。今はそれで十分だ
【古代龍バハムート】:回復量は技術で補える。だが目は持って生まれるものだ。お前はそれを持っている
サクラはしばらく黙っていた。
レンは横から見ていた。
(コメ欄の人たち、サクラさんのことをちゃんと見てる)
「サクラさん」
「はい」
「今日、助かってます。本当に」
「擦り傷の回復だけじゃないですか」
「さっきの実況も。あれがなかったら四体を一気に捌けなかったです」
サクラは少しだけ表情が和らいだ。
「……そうですか」
「そうです」
【精霊王シルフィード】:サクラちゃん、自信持って!!
【探索者見習い_ハル】:今日のサクラさん、すごくよかったですよ
【ダンジョンオタク_ケイ】:声かけのタイミング、僕も配信越しで分かりました
【kirishima_arisa】:サクラさん、初日でそれができるなら十分すぎます
【戦神アレス】:弱いと思うな。今日の動きは戦士のそれだ
【死神ネクロス】:私からも言っておく。今日仕事がなかったのは、お前の声かけのおかげでもある
「死神さんに言われると……重みが違いますね」
サクラが少し笑いながら言った。
【新規さん】:死神さんに言われる重みよ
【新規さん】:サクラさんの返しが絶妙
◆
休憩を終えて、残りのエリアを進んだ。
後半になると、二人の動きが少しずつ変わってきた。
言葉が減った。
それでも噛み合ってきている。
アイアンウルフが二体、通路の先に見えた。
「右の一体、どこにいますか」
「四メートル後ろ、右寄りです。まだ気づいてないと思います」
「分かりました」
レンは一体を素早く仕留めてから、振り返りながら雷を集めた。
サクラが言った通りの位置にアイアンウルフがいた。
一撃で仕留める。
二体、撃破。
「ナビ、助かります」
「こういうのは得意みたいで」
サクラが少し照れたように言った。
【古代龍バハムート】:それが後衛の目だ
【賢神ソフィア】:位置情報の精度が上がっている。戦闘を重ねるたびに正確になっている
【雷神トール】:レン、後衛がいると動きが変わるな
「変わりますね。一人のときより全体が見えてる感じがします」
【雷神トール】:前衛は後衛を信頼して初めて前に集中できる
「……信頼、されてますか」
サクラが少し遠慮がちに聞いた。
「されてます」
「……ありがとうございます」
【新規さん】:二人の会話を見守るコメ欄
【精霊王シルフィード】:えへへ
【探索者見習い_ハル】:パーティって感じがしてきた!
【ダンジョンオタク_ケイ】:初日でここまで噛み合うのすごい
【kirishima_arisa】:(二人とも、センスがいい)
【新規さん】:アリサさんの括弧書きの評価が高い
◆
地下二階の探索を終えて、地上に出た。
夕方の光が眩しかった。
二人とも、少し疲れた顔をしている。
でも悪くない疲れ方だ。
「お疲れ様でした」
「お疲れ様でした」
サクラは少し息をついてから、レンを見た。
「どうでしたか。使えましたか、今日」
「十分です。また来てください」
サクラは少し俯いて、でも口の端が上がっていた。
レンはそれを見てから、配信の画面に向いた。
「今日はここまでです。初めてのパーティ回でした」
【精霊王シルフィード】:よかったよかったよかった!!
【古代龍バハムート】:悪くなかった
【魔王ゼルディア】:初日としては上出来だ
【賢神ソフィア】:サクラ、今日気づいたことは覚えておけ。それがお前の武器になる
「はい。ありがとうございました、みなさん」
サクラが画面に向かって頭を下げた。
【戦神アレス】:次はさらに連携を深めろ
【死神ネクロス】:また仕事なしで済んだ。よかった
「死神さん、毎回それ言うんですね」
サクラが笑いながら言った。
【死神ネクロス】:毎回本心だ
「なんか、好きです死神さんのそういうとこ」
【死神ネクロス】:…………そうか
【新規さん】:死神さんが照れた!!
【戦神アレス】:珍しいものを見た
【死神ネクロス】:照れていない。
【新規さん】:サクラさん、初日で死神さんを照れさせた
【ダンジョンオタク_ケイ】:コメ欄の新しい風
【探索者見習い_ハル】:サクラさんがいると賑やかさが違う
【kirishima_arisa】:二人とも、お疲れ様でした。次も見ます
「ありがとうございます。また明日」
配信終了。
レンはログを閉じてスマホをしまった。
隣でサクラが言った。
「コメ欄の人たち、みんないい人たちですね」
「でしょう」
「神様たちも含めて」
「含めて」
サクラはしばらく空を見てから言った。
「あの人たちロールプレイ勢じゃない気がします、やっぱり」
「僕もだんだんそう思えてきました」
二人はそのまましばらく夕空を見ていた。
◆
異世界のどこか。
「サクラという娘、面白い目を持っている」とバハムートが言った。
ソフィアが続ける。
「ああ。しっかりと後衛として機能している」
「レンとの相性も悪くない」とトールが静かに言った。
「自然に噛み合い始めていた」
「死神さん、照れてたね」
シルフィードが楽しそうに言った。
「照れていない」とネクロスが即座に言った。
「照れてた」
「照れていない」
バハムートはその会話を聞きながら、目を閉じた。
「次の配信が楽しみだな」
それだけで十分だった。




