初めてのパーティでの探索
渋谷第三ダンジョンの入口前。
レンとサクラは並んで立っていた。
朝の空気はまだ冷たい。サクラは荷物を背負い直しながら、入口をじっと見ていた。
「……緊張してます」
「僕もです」
「えっ、レンさんも緊張するんですか」
「一人じゃないのが初めてなんで」
サクラは少し意外そうな顔をした。それから、小さく笑った。
「なんか、それ聞いたら少し楽になりました」
「じゃあ行きましょうか」
「はい」
レンが配信を開始すると、コメ欄がすぐに動き出した。
【古代龍バハムート】が入室しました
【魔王ゼルディア】が入室しました
【精霊王シルフィード】が入室しました
【戦神アレス】が入室しました
【死神ネクロス】が入室しました
【賢神ソフィア】が入室しました
【雷神トール】が入室しました
【kirishima_arisa】が入室しました
【ダンジョンオタク_ケイ】が入室しました
【探索者見習い_ハル】が入室しました
【精霊王シルフィード】:今日初パーティ回!!楽しみすぎた!!
【ダンジョンオタク_ケイ】:ずっと待ってました
【kirishima_arisa】:二人とも気をつけて。無理しないで
【古代龍バハムート】:サクラ
「は、はい!」
サクラが画面の方を向いて、思わず返事をした。
【古代龍バハムート】:緊張しているか
「してます」
【古代龍バハムート】:それでいい。前はレンに任せろ。お前は後ろだけ見ていろ
「後ろだけ……分かりました」
【新規さん】:バハムートさんの第一声がサクラさんへの指示だった
【新規さん】:なんか保護者みたい
【古代龍バハムート】:違う
「行きます」
「はい」
二人は中に入った。
◆
最初の魔物はゴブリン二体だった。
レンが前に出る。剣を構えて、一体に踏み込んだ。
一合、二合。
いつも通りだ。
……のはずだった。
後ろで足音がした。
サクラが無意識に前に出ていた。
「あ」
サクラが気づいて止まる。
その一瞬の隙にゴブリンが横に回った。
「っ」
レンがなんとか対処して、二体を仕留める。
終わってから、二人とも少し固まった。
「す、すみません。つい前に」
「いえ、大丈夫です。ただ後ろにいてください」
「分かりました……本当にすみません」
「気にしないで」
【魔王ゼルディア】:連携は慣れが必要だ。最初はそんなものだ
【探索者見習い_ハル】:二人とも焦らずで大丈夫ですよ
【新規さん】:初パーティあるある
【精霊王シルフィード】:サクラちゃん大丈夫!!
「頑張ります」
サクラが小さく呟いた。
次はスライム三体。
レンが一体を処理した瞬間、残りが左右に散った。
「サクラさん、左が来ます」
「え、あ、どうすれば」
「壁際に」
「ど、どっちの壁ですか」
「右の壁です」
「右ですね、はい、右っ」
サクラが右に動く。スライムが追う。レンが右を仕留めてすぐ左に向き直る。
全部で十秒の出来事だったが、なんとなく慌ただしかった。
【新規さん】:「どっちの壁ですか」が初パーティって感じがして好き
【新規さん】:テンポが噛み合ってないけど二人ともちゃんとやってる
【魔王ゼルディア】:それが今日の課題だな
【精霊王シルフィード】:でも二人とも冷静だよ!えらい!
「お互い、声かけが多すぎましたね」
「あの……右の壁って言ってくれたのに、私が聞き返して」
「僕も咄嗟に短く言いすぎました。もう少し丁寧に言います」
「いえ、私がすぐ動けなかっただけで」
【ダンジョンオタク_ケイ】:でもかけ合いができてるのはいいと思います
【賢神ソフィア】:サクラ、スライムが来たとき右手に光が集まっていた
「えっ、そうでしたか」
サクラが自分の右手を見た。
【賢神ソフィア】:無意識に回復魔法を準備していた。咄嗟にそれができるのは悪くない
「でも使う前に終わってしまいましたが……」
【賢神ソフィア】:準備ができていたことが大事だ。自分では気づいていなかっただろう
「……全然気づいてませんでした」
サクラはもう一度右手を見た。
さっきの感覚を思い出すように、じっと見ていた。
【新規さん】:ソフィアさんがちゃんと見てる
【新規さん】:本人が気づいてないことまで
◆
地下二階に降りると、通路が少し狭くなった。
レンが前を歩き、サクラが後ろについている。
アイアンウルフが一体、前方から来た。
「来ます。後ろで待機してください」
「はい」
レンが踏み込んだ。
雷を集めて、一撃で仕留める。
振り返ると、サクラがきっちり三メートル後ろで立っていた。
「完璧な位置取りです」
「距離、合ってましたか。さっきバハムートさんに三メートルって言われたので」
「ちゃんと覚えてたんですね」
「メモしました」
サクラがポケットから小さなメモを出して見せた。
ダンジョンの中でメモを取っていたらしい。
「……真面目だな」
「えっ、変でしたか」
「いや、いいと思います」
【新規さん】:ダンジョンの中でメモ取るサクラさん好き
【ダンジョンオタク_ケイ】:几帳面なんですね
【古代龍バハムート】:サクラ、メモを取ることは悪くない。だが体で覚えることの方が急な展開の時に役立つ
「体で、ですか」
【古代龍バハムート】:後衛は前衛の動きを見続けろ。それが一番だ。
「……レンさんの動きを、ですか」
【古代龍バハムート】:そうだ
「分かりました。見ます」
【新規さん】:サクラさんがレンさんをガン見することになった
「そういう意味で言ったんですが、言い方が難しいですね」
サクラが少し赤くなりながら言った。
【精霊王シルフィード】:えへへ
「シルフィードさん何がえへへなんですか」
【精霊王シルフィード】:えへへ
【魔王ゼルディア】:気にするな
「僕も分からないんですよ、たまにああなるの」
「どういうことですか」
「分からないです」
サクラはしばらく首を傾げてから、諦めたように前を向いた。
◆
ゴブリン四体の群れに差し掛かったところで、レンは立ち止まった。
「多いですね。どうしますかね」
考えながら独り言を言うと、サクラが横から覗き込んだ。
「あの、左端の一体、他の三体から少し離れてますよね」
「あ、本当だ」
「あそこから一体ずつ引き離せそうじゃないですか」
【古代龍バハムート】:正しい見立てだ
【賢神ソフィア】:後衛から全体が見えている。前衛より視野が広い
「じゃあ左から行きます。サクラさん、右の三体が動いたら教えてください」
「分かりました」
レンが左端のゴブリンに向かう。
一体を静かに引き離して、仕留める。
「右の三体、まだ気づいてないみたいです」
「ありがとうございます。次、左から二番目に行きます」
「はい、見てます」
二体目を仕留えた瞬間、残りが気づいた。
「来ます、右に二体」
「分かりました」
レンが振り返りながら雷を集める。
二体が間合いに入った瞬間、一気に放った。
四体、全て撃破した。
終わってから、二人で顔を見合わせた。
「……さっきより全然スムーズでしたね」
「サクラさんのアドバイスのおかげです」
「アドバイスってほどじゃないですけど」
「十分実況でした」
【ダンジョンオタク_ケイ】:さっきより声かけのテンポが全然違う
【探索者見習い_ハル】:噛み合ってきた!
【新規さん】:同接四千超えた
【新規さん】:みんな見てる
【kirishima_arisa】:サクラさんの全体把握が的確です。後衛向きの目を持ってますね
【賢神ソフィア】:前衛の視野外を補完する。それが後衛の本質だ




