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同接0人のEランク探索者ダンジョン配信、なぜか神様や魔王様が見ている件 〜コメント欄が古代龍や魔王とかなんだが〜  作者: 仁科異邦


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パーティを組もう

 三日後、スマホにメッセージが来た。


 送り主はサクラだった。

「あの、もしよければご飯でもどうですか。お礼がしたくて。レンさんさえよければなんですけど」

 レンはすぐに返信した。

「大丈夫です。どこにしますか」

「渋谷の定食屋さんはどうですか。安くておいしいところ知ってるので」

「行きます」



 待ち合わせは夕方、渋谷の路地裏にある小さな定食屋だった。

 暖簾をくぐると、サクラがすでに入口近くのテーブルに座っていた。


 この間会ったときとは少し雰囲気が違う。

泣き腫らした目じゃなくて、ちゃんと顔を上げている。

「来てくれてありがとうございます」

「こちらこそ、誘ってくれて」

 向かいに座る。

 メニューを開くと、値段が全部五百円台だった。

「安いですね」

「でもおいしいんですよ。週二回は来てます」


「週二回」

「探索者の仕事って不規則なので、ここみたいに気軽に入れるお店が好きで」

 二人とも日替わり定食を頼んだ。



 料理が来るまでの間、サクラが先に口を開いた。

「あの、本当にありがとうございました。改めて」

「いえ、もう気にしないでください」

「気にしますよ」

 サクラは少し苦笑いした。

「あのまま、どうなってたか考えると……」


 しばらく間があって、サクラが続けた。

「協会からライセンス停止の話、聞きました。転送してくれてありがとうございます」

「田中係長から連絡来たので」

「すっきりした、とは言えないんですけど。でも、ちゃんと動いてくれたのは分かりました」


 サクラはテーブルの上で両手を組んだ。

「探索者、続けようと思ってます」

「そうなんですか」

「逃げたくないというか。ポーターの仕事が好きなので。ただ、あのパーティにはもう戻らないですけど」

「それは当然だと思います」

「はい」


 料理が来た。

 鯖の味噌煮定食だった。

 二人ともしばらく黙って食べた。

 黙って食べているのに、なんとなく落ち着く空気だった。



 食事が一段落したころ、レンは少し考えてから口を開いた。

「一つ、聞いてもいいですか」

「はい」

「サクラさん、今のところ次のパーティは決まってますか?」

 サクラは少し間を置いた。

「まだです。これから探そうと思ってたんですけど」

「そうか」

 レンは湯呑みを持ちながら、どう言おうか考えた。


 あまり上手い言い方は思いつかなかったので、そのまま言った。

「僕と組みませんか」

 サクラが顔を上げた。

「え?」

「一人で潜ってたんですけど、そろそろパーティがあってもいいかなと思ってて。縁もあることですし」

「縁、ですか」

「はい。それだけです」

 サクラはしばらくレンの顔を見た。


 特別なことを言っているわけじゃない顔だ。本当にそれだけという顔だ。

「あの、一つ言っておかないといけないことがあって」

「はい」

「私のジョブクラス、初級ヒーラーなんですけど」

「うん」


 サクラは少し表情を曇らせた。

「初級ヒーラーって、ほとんど何もできないんですよ。回復魔法は使えるんですけど、自然回復を少し早める程度で。ポーションと大差ないくらいの効果しかなくて」

「そうなんですか」

「パーティに入っても、荷物持ちとしての価値しかないっていうか」

 サクラは少し目を伏せた。

「だから前のパーティも、ポーターとして雇われてたんです。ヒーラーとしては、役に立たないので」

 そこには長い時間が詰まっているような言い方だった。 


 レンは少し考えてから言った。

「それ、コンプレックスになってますか」

 サクラが顔を上げた。

「……なってます」

「そうか」

 レンは湯呑みを置いた。


「でも僕、今まで一人でやってきたんで、ポーションの管理とか荷物周りとか、正直全部ひどいんですよ。昨日も回復薬切らして、帰りにコンビニ寄ったくらいで」

「コンビニ」

「ダンジョン帰りにコンビニで栄養ドリンク買って飲むのが、僕の回復手段なんで」

 サクラはしばらく黙ってから、小さく笑った。


「それは、確かにひどいですね」

「でしょう。だからサポートしてくれる人が正直ほしかったんです。それだけの話で」

「役に立てるか、分からないですよ」

「やってみないと分からないですよ」

 サクラはまた少し黙った。

「……考えてもいいですか。少しだけ」

「もちろんです。急いでないので」



 店を出ると、夜の渋谷は明るかった。

 並んで歩きながら、サクラが言った。

「レンさんって、配信いつもしてるんですよね」

「はい。毎日」

「パーティ組んだら、私も映りますよね」

「あ、そうか。嫌ですか」

「嫌じゃないですけど、緊張します」

「最初はそうですよね。でもコメ欄の人たち、みんないい人たちなんで」

「見てて分かりました。常連の神様たちも含めて」

 サクラが少し笑う。


「神様たち、ですよね、やっぱり」

「え」

「なんとなく。見てて、そう思うんですよ」

 レンは少し黙った。

(そう言う人、アリサさんもそうだし、案外多い気がする)


「僕はロールプレイ勢だと思ってたんですけど」

「ロールプレイで一千万スパチャしますか」

「……しないですよね、普通は」

「ですよね」

 二人はしばらく黙って歩いた。

 交差点で止まったとき、サクラが言った。


「一緒に、やってみます」

「本当ですか?」

「パーティ。役に立てるか分からないですけど、やってみます」

 レンは少し嬉しくなった。

「ありがとうございます。よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

 信号が青になった。



 翌朝の配信。

 レンが開口一番で言った。

「今日、報告があります」


【古代龍バハムート】が入室しました

【魔王ゼルディア】が入室しました

【精霊王シルフィード】が入室しました

【戦神アレス】が入室しました

【死神ネクロス】が入室しました

【賢神ソフィア】が入室しました

【雷神トール】が入室しました

【kirishima_arisa】が入室しました

【ダンジョンオタク_ケイ】が入室しました

【探索者見習い_ハル】が入室しました


【精霊王シルフィード】:報告!?なになに!?

【ダンジョンオタク_ケイ】:なんか大事な話っぽい

【新規さん】:どうした

【魔王ゼルディア】:言え


「パーティを組みました」


【精霊王シルフィード】:えっ!!!!

【新規さん】:パーティ!?

【kirishima_arisa】:‥誰とですか?


「この間助けたサクラさんと。ポーターとヒーラー兼任でお願いしました」


【精霊王シルフィード】:サクラちゃんと!!!!よかった!!!!

【探索者見習い_ハル】:サクラさん!!

【ダンジョンオタク_ケイ】:あの子大丈夫だったんですね、よかった

【kirishima_arisa】:それは……よかったです。縁がありましたね

【古代龍バハムート】:ほう

【魔王ゼルディア】:パーティか。悪くない

【戦神アレス】:仲間は必要だ

【死神ネクロス】:賑やかになるな


「では、サクラさんに入ってもらいます」

 レンが画面の外に向かって声をかけた。

「サクラさん、どうぞ」

 少し間があって、サクラがフレームに入ってきた。

 緊張しているのが見てわかる。でもちゃんと前を向いている。

「えっと、佐藤サクラです。初級ヒーラーで、正直回復はあまり強くないんですけど」

 サクラが少し止まった。

「でも、頑張ります。よろしくお願いします」


【精霊王シルフィード】:サクラちゃんよろしく!!!!!

【探索者見習い_ハル】:よろしくお願いします!!

【ダンジョンオタク_ケイ】:よろしくお願いします!

【新規さん】:よろしく!!

【新規さん】:コメ欄が温かい

【kirishima_arisa】:よろしくお願いします。サクラさん、無理しないでね

【古代龍バハムート】:よく来た


【魔王ゼルディア】:歓迎する

【賢神ソフィア】:初級ヒーラーでも、使い方次第で価値は変わる

【精霊王シルフィード】:ソフィアさんいいこと言った!

【戦神アレス】:共に戦え

【死神ネクロス】:長生きしろ

【サクラ】:……ありがとうございます。あの、死神さんに長生きしろって言われると複雑です


コメ欄が笑いに包まれた。

「死神さんに突っ込んだの、サクラさん初日でやりましたね」


【死神ネクロス】:……よく言った

【新規さん】:死神さんに褒められたサクラさん

【新規さん】:もうコメ欄に馴染んでる

【探索者見習い_ハル】:サクラさん天然系だ

【サクラ】:天然じゃないです

【探索者見習い_ハル】:それが天然です


 サクラが少し赤くなった。

 レンは隣でそれを見て、少し笑った。

「じゃあ、行きますか」

「……はい」

 二人でダンジョンへ向かった。

 コメ欄は、いつもより少し賑やかだった。



 異世界のどこか。

「パーティを組んだ」と精霊王シルフィードが嬉しそうに言った。

「あの娘か」とバハムートが静かに返す。

「サクラちゃん、初日でコメ欄に馴染んでたね」

「死神に突っ込むとは、肝が据わっている」とゼルディアが笑った。

「初級ヒーラーか」とトールが言う。「回復は弱いが」

「回復だけがヒーラーの価値ではない」とソフィアが静かに言った。「傍にいること自体に意味がある場合もある」


「レンには、そういう存在が必要だったかもしれないな」とゼルディアが続けた。

 バハムートは何も言わなかった。


 ただ、次の配信通知をもう一度確認した。

「明日が楽しみだな」

 それは独り言だったが、全員が頷いた。


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