その後の事色々2
地下三階、南エリア。
昨日とは打って変わって、今日は静かだった。
群れの痕跡はあるが、魔物の気配は薄い。昨日の騒ぎで散ったのかもしれない。
「今日は静かですね」
【賢神ソフィア】:昨日の戦闘で魔力が乱れた影響だろう。しばらくは落ち着いているはずだ
【ダンジョンオタク_ケイ】:ソフィアさんの解説、毎回教科書より分かりやすい
【賢神ソフィア】:教科書より長く生きているからな
【ダンジョンオタク_ケイ】:一万年ですもんね
【賢神ソフィア】:そうだ
【探索者見習い_ハル】:ロールプレイ勢の設定ぶれないの本当にすごいと思う
【魔王ゼルディア】:ロールプレイではない
【探索者見習い_ハル】:え
【魔王ゼルディア】:……冗談だ
【探索者見習い_ハル】:毎回びっくりする
「ゼルディアさん、最近それ増えましたよね」
【魔王ゼルディア】:つい
【新規さん】:つい、って言った
【新規さん】:「つい本当のことを言いそうになる」って前も言ってたじゃないですか
【魔王ゼルディア】:……忘れろ
南エリアを順調に進んでいると、通路の分岐点に出た。
左と右。
どちらも未探索だ。
「どっちにしますか」
【古代龍バハムート】:右だ。左は水脈が近い
【戦神アレス】:左で水を活かして雷を使え
【精霊王シルフィード】:右がいい!なんとなく!
【賢神ソフィア】:右の方が安全だ。左は足場が悪い
【魔王ゼルディア】:右だな
【死神ネクロス】:右を勧める
【戦神アレス】:……多数決か
【新規さん】:戦神さんが一人だけ左派
【探索者見習い_ハル】:アレスさんいつも少数派になりますよね
【戦神アレス】:多数が正しいとは限らん
【ダンジョンオタク_ケイ】:それはそう
「右に行きます。すみませんアレスさん」
【戦神アレス】:……次は左に行け
【新規さん】:かわいい
【戦神アレス】:かわいくない
右の通路を進むと、広めの空間に出た。
天井が高い。壁に魔石が点在していて、ぼんやりと光っている。
「きれいだな」
思わず呟いた。
【精霊王シルフィード】:きれい!!
【新規さん】:これ配信越しでもきれいに見える
【新規さん】:同接二千超えた
【ダンジョンオタク_ケイ】:この空間、地図に載ってないですよね。新発見じゃないですか
【賢神ソフィア】:魔石の密度が高い。上質な魔力溜まりだ。協会に報告する価値がある
【kirishima_arisa】:これは価値があります。協会のデータベースにも記録がないエリアです
「また発見者になれますか」
【kirishima_arisa】:なれます。今度はもう少し報酬が出ると思います
【新規さん】:前回三万円でしたもんね
【新規さん】:今回はいくらだろう
【魔王ゼルディア】:スパチャの何分の一になるかが気になる
【古代龍バハムート】:またそれを言うか気にしすぎだ
【魔王ゼルディア】:事実だろう?
「バハムートさんが今日は突っ込む側ですね」
【古代龍バハムート】:……たまにはいい
【精霊王シルフィード】:バハムートさんが珍しい!!
【古代龍バハムート】:そんなに珍しいか
【精霊王シルフィード】:珍しい!!!
レンは魔石の光を眺めながら、少し止まった。
昨日のことを思い出した。
サクラが壁に背をつけて震えていた光景。
(あの子、また探索者関係の仕事をするのかな)
心配しても仕方ないことは分かっている。でも少し気になった。
「ちょっと聞いていいですか、コメ欄に」
【古代龍バハムート】:言え
「昨日のサクラさんみたいなケース、ポーターの人たちが置いていかれるって、よくある話なんですか」
少し間があった。
【kirishima_arisa】:……ゼロではないです。パーティが崩壊寸前のとき、非戦闘員が後回しになることは、残念ながら。
【ダンジョンオタク_ケイ】:ポーターって立場が弱いんですよね。パーティに雇われる形だから
【探索者見習い_ハル】:知らなかった……
【新規さん】:そういう問題があるんだ
【賢神ソフィア】:制度の話だ。個人の善悪だけでは解決しない
【魔王ゼルディア】:人間界の課題だな
「そうか……」
レンはしばらく魔石の光を見ていた。
自分にできることは何もないかもしれない。
でも知った以上、忘れないでいようと思った。
【古代龍バハムート】:お前が全部を解決する必要はない
「分かってます」
【古代龍バハムート】:……だが、覚えておくことは無駄じゃない
「はい」
レンは気を取り直して、先を進んだ。
◆
配信終了。
本日の最終同時接続数:二千三百人。
チャンネル登録者数:四千六百二十二人。
新エリアの発見報告を協会に送ると、三十分後に田中係長から返信が来た。
「確認した。今回の発見報酬、後日振り込みます。金額は追って連絡。あと昨日のパーティの件、処分が決まった。ライセンス停止三ヶ月。サクラさんにも伝えておいてください」
レンはメッセージを読んで、小さく息をついた。
それからサクラに転送した。
返信はすぐに来た。
「ありがとうございます。少しだけ、気持ちが楽になりました」
そして一行追加されていた。
「今日の配信、見てました。コメ欄の人たち、みんないい人たちですね」
レンは思わず笑った。
「そうなんですよ。不思議な人たちですけど、みんないい人たちです」
◆
異世界のどこか。
「いい人たち、か」とゼルディアが言った。
「そう呼ばれるとは思わなかったな」とバハムートが返す。
「悪い気はしない」
「そうだな」
精霊王シルフィードがにこにこしながら言った。
「レンくんにそう思ってもらえてるのが一番嬉しい」
「大げさだ」とバハムートが言った。
「大げさじゃない」
トールが静かに言った。
「あの人間、昨日のことを引きずっていない。でも忘れてもいない」
「それがあいつらしい」とゼルディアが言う。
「ああ」
バハムートは短く答えて、目を閉じた。
「明日も配信がある」
それだけで十分だった。




