その後の事色々1
協会の受付に入ると、田中係長が待っていた。
レンとサクラを見て、係長は一瞬だけ表情を動かした。それからすぐに、いつもの淡々とした顔に戻った。
「神代くん、お疲れ。こっちに来てくれ」
会議室に通される。
サクラは初めて来る場所に少し緊張した様子で、レンの少し後ろをついてきた。
◆
話を聞くのは田中係長と、もう一人、女性職員だった。
サクラが先に別室に案内されて、レンは係長と向き合った。
「配信ログは確認した。状況は大体分かってる」
「はい」
「サクラさんを置いていったパーティ、心当たりはあるか」
「顔しか見てないんで、名前は分からないです。装備はCクラス前後に見えました」
「そうか」
田中係長はメモを取りながら続けた。
「非戦闘員を囮にしての離脱は、探索者規約の第十四条違反だ。証言と配信ログが揃えば、ライセンス停止もあり得る」
「そうなんですか」
「ああ」
係長はペンを置いた。
「神代くんは今日、正しいことをした。それだけ言っておく」
「……はい」
「ただ一つ聞く。怖くなかったか」
レンは少し考えた。
「怖かったです。でも行かないという選択肢が、なかったというか」
「なかった、か」
「声が聞こえたので」
田中係長はしばらくレンを見た。
それから小さく頷いた。
「分かった。今日はもう上がっていい」
◆
会議室を出ると、廊下にサクラがいた。
別室での聴取が終わったらしく、目が少し腫れていた。
「神代さん」
「レンでいいですよ」
「……レンさん。あの」
サクラは少し迷ってから、頭を下げた。
「本当にありがとうございました」
「いえ」
「あの、聞いてもいいですか」
「はい」
「なんで配信しながら助けに行ったんですか」
レンは首を傾げた。
「配信は関係ないですよ。声が聞こえたから行っただけです」
「でも配信中だったじゃないですか」
「ダンジョンに入ったら配信するのがいつものスタイルで、あのとき配信中だったのはたまたまで」
サクラはしばらく黙ってから、また言った。
「配信、見てもいいですか」
「もちろんです」
「ありがとうございます!」
それだけ言って、サクラは頭をもう一度下げた。
◆
協会を出ると、空は暗くなっていた。
レンはスマホを開いた。
SNSの通知が止まらない。
切り抜きの再生数が、さっき確認したときより増えている。
コメントを流し見すると、置いていったパーティへの批判と、レンへの応援が混在していた。
その中に、見慣れたアカウントからのメッセージがあった。
霧島アリサから。
「今日の配信、見てました。よく助けに行きました。ただ無茶はしないでください。あと、置いていったパーティの件、協会内でも動いてるので大丈夫です」
続けてもう一件。
「それと、コメ欄のバハムートさんたちに、私からもありがとうと伝えてもらえますか。今日も的確でした」
レンは少し笑って、返信した。
「伝えます。ありがとうございます」
◆
翌日の配信。
レンが開口一番、コメ欄に向かって言った。
「昨日、霧島さんからみなさんに伝言を預かりました。ありがとうございましたって」
【古代龍バハムート】:……そうか
【精霊王シルフィード】:アリサさんから!!えへへ
【魔王ゼルディア】:律儀な娘だ
【雷神トール】:当然のことをしただけだ
【賢神ソフィア】:レン自身の判断あってのことだ
【戦神アレス】:昨日は良い動きだった
【死神ネクロス】:仕事にならなくて何よりだった
「死神さんが毎回それを言うのが、なんか僕は嬉しいですよ」
【死神ネクロス】:…そうか
【新規さん】:死神さんが照れてる
【死神ネクロス】:照れていない
【ダンジョンオタク_ケイ】:昨日のサクラさん、その後大丈夫でしたか
【探索者見習い_ハル】:気になってました
「協会でちゃんと話を聞いてもらえたみたいです。置いていったパーティの件も動いてるって聞きました」
【ダンジョンオタク_ケイ】:よかった
【探索者見習い_ハル】:ほっとしました
【新規さん】:あのパーティ、どうなるんですかね
【新規さん】:規約違反らしいって聞いたけど
【kirishima_arisa】が入室しました
【kirishima_arisa】:おはようございます。パーティの件は現在協会が調査中です。詳細は言えませんが、ちゃんと動いてます
【新規さん】:アリサさんが教えてくれた
【新規さん】:このチャンネルの情報速報性がやばい
「アリサさんおはようございます」
【kirishima_arisa】:おはようございます。今日はどこ行くんですか
「昨日行けなかった南エリアの続きです」
【kirishima_arisa】:一人ですか?
「いつも一人ですよ」
【kirishima_arisa】:……そうでしたね(心配なんですが)
【新規さん】:アリサさんの括弧書きに心配が滲み出てる
【精霊王シルフィード】:アリサさん優しい!
【古代龍バハムート】:心配は要らん
【kirishima_arisa】:バハムートさんはなぜそんなに自信があるんですか
【古代龍バハムート】:見ていれば分かる
【kirishima_arisa】:(この人やっぱり何か知ってる)




