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同接0人のEランク探索者ダンジョン配信、なぜか神様や魔王様が見ている件 〜コメント欄が古代龍や魔王とかなんだが〜  作者: 仁科異邦


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囮にされた子

 翌日。

 配信を開始してダンジョンに向かうと、コメ欄はいつも通り賑やかだった。


【古代龍バハムート】が入室しました

【魔王ゼルディア】が入室しました

【精霊王シルフィード】が入室しました

【戦神アレス】が入室しました

【死神ネクロス】が入室しました

【賢神ソフィア】が入室しました

【雷神トール】が入室しました

【kirishima_arisa】が入室しました

【ダンジョンオタク_ケイ】が入室しました

【探索者見習い_ハル】が入室しました


【精霊王シルフィード】:おはよう!!

【kirishima_arisa】:おはようございます。昨日ぶりですね

【ダンジョンオタク_ケイ】:おはようございます!今日も来ました

【探索者見習い_ハル】:おはようございます!今日はどこ行くんですか


「おはようございます。今日は地下三階の南エリアを探索します」


【古代龍バハムート】:南か。昨日より魔力濃度が高いエリアだ

【賢神ソフィア】:注意しろ。魔物の質が変わる

【ダンジョンオタク_ケイ】:南エリアってまだ攻略情報ほとんど出てないですよね

【探索者見習い_ハル】:ソフィアさんの情報が一番詳しいのほんとすごい

【新規さん】:今日も始まった

【新規さん】:同接もう三百超えてる


「ケイさんとハルさん、最近毎日来てくれてますね」


【ダンジョンオタク_ケイ】:来ちゃいますよ。このコメ欄にいると勉強になるので

【探索者見習い_ハル】:僕も来年探索者目指してるんで、参考にしてます!

【魔王ゼルディア】:精が出るな

【探索者見習い_ハル】:ゼルディアさんにそう言ってもらえると嬉しいです

【魔王ゼルディア】:……暇だからな

【探索者見習い_ハル】:出た笑



 地下一階、地下二階と順調に進んだ。

 地下三階への階段を降りようとしたとき、上から足音が聞こえた。


 速い。

 しかも複数。

「……誰か来る」

 壁に寄って待っていると、男が三人、階段を駆け下りてきた。


 探索者だ。装備を見るにCクラス前後か。全員、血相を変えている。


 レンの横をすり抜けようとした一人が、レンに気づいて立ち止まった。

「お前、今から下に行くのか!?」

「はい」

「やめとけ。南エリアに大型の群れが出た。うちのパーティ、壊滅寸前だ」


「群れ? 何体くらいですか」

「分からない、アイアンウルフの群れだ」

 男はそれだけ言って、また駆け出した。

 三人の背中が階段を上がって消える。

 レンは少し立ち止まった。


【古代龍バハムート】:聞いたか

【戦神アレス】:行くか

【精霊王シルフィード】:危ないよ!


 男たちが消えた後、通路に静寂が戻った。

 代わりに、下から微かな音が聞こえた。

 物音、ではない。

 声のようなものだ。

(……気のせいかな?)


 レンは耳を澄ました。

 もう一度。

 やはり何か聞こえる。

「……ちょっと確認してきます」

 レンは階段を降り始めた。


【精霊王シルフィード】:えっ、行くの!?

【古代龍バハムート】:状況確認か?

【魔王ゼルディア】:慎重にしろ

【kirishima_arisa】:無理はしないでください

【ダンジョンオタク_ケイ】:下から声みたいなの聞こえてましたよね、今

【探索者見習い_ハル】:気になる……


「確認だけします。何もなければすぐ戻ります」


【kirishima_arisa】:無理はしないでください



 地下三階に降りた瞬間、空気が違った。

 魔力が荒れている。戦闘の余波だ。

 レンは音を立てないように進んだ。

 南エリアの手前まで来たとき、声が聞こえた。

 叫び声ではない。泣き声だ。


「……っ、来ないで、来ないで……」

 角を曲がると、視界に飛び込んできた。

 通路の行き止まり。

 壁に背をつけた女の子が一人、座り込んでいる。

 年齢はレンと同じくらいか、もう少し下か。


装備を見るとポーターだ。荷物持ち専門の非戦闘員。

 その前に、アイアンウルフが二体。

 じりじりと距離を詰めていた。


「っ」

 レンは状況を一瞬で把握した。

(あの三人が置いていった。囮にして逃げた)

 怒りが来た。

 でも今は後にする。


「おい」

 レンはアイアンウルフに向かって声を上げた。

 二体が振り返る。

 標的が変わった。


【精霊王シルフィード】:レンくん!!

【戦神アレス】:来るぞ

【古代龍バハムート】:二体同時だ。一体を先に引きつけろ


 一体が跳びかかってきた。

 レンは横に跳んで避け、すれ違いざまに雷を叩きつけた。


 アイアンウルフがよろめく。

 もう一体が後ろから来る。

(速い)

 ぎりぎりで前に転がって、爪をかわした。

 立ち上がりながら剣を構える。

 一体目がまだよろめいているうちに、二体目の脇腹に剣を入れた。


 ずぶりと通る。

 二体目が崩れ落ちる。

 すぐに一体目に向き直る。

 雷を集める。


 今度は手加減しない。

 どかっ、という音がして、一体目も床に沈んだ。

 静寂。

 レンは荒い息をついた。

「……終わった」


【精霊王シルフィード】:よかったよかったよかった!!!

【古代龍バハムート】:上出来だ

【魔王ゼルディア】:速かったな

【ダンジョンオタク_ケイ】:二体同時をあんな速さで処理するの、Eクラスじゃないですよ絶対

【探索者見習い_ハル】:女の子大丈夫ですか!?

【kirishima_arisa】:……あの三人、置いていったんですね

【kirishima_arisa】:(最低だ)

【新規さん】:アリサさんの括弧書きに怒りが見える


 レンは女の子に近づいた。

 座り込んだまま、肩が震えている。

「大丈夫ですか」

 声をかけると、女の子がゆっくり顔を上げた。


 泣いていた。目が真っ赤だ。

 でも怪我はないようだ。

「……助けて、くれたんですか」

「はい。怪我は?」

「ない、です。でも」

 女の子の唇が震えた。


「置いていかれました。みんなに」

 それだけ言って、また下を向いた。

 レンはしゃがんで、目線を合わせた。

「今は安全です。立てますか」

 女の子はこくりと頷いた。

 レンは手を差し出した。



 女の子の名前はサクラといった。

 十六歳。ポーター見習いで、今日が三回目のダンジョン入りだったという。

 地下三階まで来たのは、パーティリーダーの指示だった。

「荷物を持ってここまで来たら、アイアンウルフの群れが出て……みんな逃げて、私だけ遅れて、そしたら」

 サクラは言葉を切った。


「そしたら、誰も戻ってこなかった」

 レンは何も言わなかった。

 言えなかった。

 代わりに、ポーションを一本渡した。

「飲んでください。怪我がなくても、魔力が乱れてると思うんで」


「……ありがとうございます」

 サクラがポーションを受け取る手が、まだ震えていた。


【探索者見習い_ハル】:サクラさん、よかった……

【ダンジョンオタク_ケイ】:置いていったパーティ、最悪ですね

【魔王ゼルディア】:人間とはそういうものだ

【古代龍バハムート】:…………全員ではない

【魔王ゼルディア】:……そうだな

【精霊王シルフィード】:サクラちゃん、もう大丈夫だよ!レンくんがいるから!

【新規さん】:コメ欄が優しい


【新規さん】:置いていったやつら許せない

【kirishima_arisa】:神代くん、サクラさんを連れて上に戻ってください。協会に報告もしてください


「はい。そうします」

 レンはサクラに声をかけた。

「一緒に上に戻りましょう。僕が隣にいます」

 サクラは小さく頷いた。



 二人で地上に出ると、夕方の光が眩しかった。

 サクラは外の空気を吸った瞬間、また少し泣いた。

 レンは何も言わず、隣に立っていた。

 しばらくして、サクラが言った。

「なんで助けてくれたんですか」

「声が聞こえたので」


 サクラはレンの顔を見た。

 特別なことを言っているわけじゃない。本当にそれだけだという顔をしている。

「……ありがとうございました」

「いえ」


【精霊王シルフィード】:レンくんかっこいい!!

【探索者見習い_ハル】:かっこよすぎる

【ダンジョンオタク_ケイ】:自覚なくかっこいいのが一番かっこいいやつ

【古代龍バハムート】:……まあな

【魔王ゼルディア】:認める

【戦神アレス】:良い判断だった

【死神ネクロス】:今日も仕事なしだ。よかった

【kirishima_arisa】:神代くん、協会への報告、置いていったパーティのことも含めてちゃんとしてください


【kirishima_arisa】:非戦闘員を囮にして逃げるのは、探索者規約違反です


「分かりました。ちゃんと報告します」

 レンはサクラに向き直った。

「一緒に協会行きましょう。話を聞いてもらえます」

 サクラは一瞬だけ迷ってから、頷いた。



 配信終了。

 本日の最終同時接続数:一千八十二人。

 チャンネル登録者数:二千九百四十一人。

 切り抜きはすでに拡散されていた。

 タイトルは「囮にされた女の子をEクラス探索者が救出。コメ欄の神様たちも総出で応援」。


 再生数は二時間で二十万を超えた。

 置いていったパーティへの批判コメントと、レンへの応援コメントが入り乱れていた。

 レンはそれを見ずに、サクラと並んで協会の建物に入っていった。



 協会管理室。

 田中係長は今日の報告を聞き終えて、しばらく黙っていた。

「非戦闘員を囮にして離脱か」

「はい。サクラさんの証言と、神代くんの配信ログで確認できます」

 佐藤が資料を出す。

 田中係長は目を通してから、静かに言った。


「そのパーティ、呼び出せ」

「了解です」

「あと神代くんに伝えろ。今日の対応は正しかったと」

 佐藤が頷いて、席を立った。

 田中係長はモニターに残っていた配信ログを閉じた。


(Eクラスの初級剣士が、また一つ、Eクラスじゃないことをした)

 コーヒーを飲みながら、係長はため息をついた。

 困ったため息ではなく、どちらかといえば、悪くないと思っているため息だった。



 異世界のどこか。

「人間とは、そういう生き物だ」とゼルディアが静かに言った。

「全員じゃない」とバハムートが返した。

「そうだな」

 しばらく沈黙が落ちた。

 精霊王シルフィードが小さな声で言った。


「レンくんが助けてくれてよかった」

「ああ」とバハムートが短く答えた。

「あいつは、声が聞こえたから助けた。それだけだ」

「それだけ、か」

「それだけだ。だからいい」

 トールが腕を組んで言った。


「次の配信が楽しみだな」

 全員が同じ気持ちだった。


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