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同接0人のEランク探索者ダンジョン配信、なぜか神様や魔王様が見ている件 〜コメント欄が古代龍や魔王とかなんだが〜  作者: 仁科異邦


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S級探索者からのお誘い


 朝、スマホに一件のメッセージが来ていた。

 送り主は霧島アリサ。


「今日、渋谷にいるんですが、もしよければ会いませんか。ダンジョンの話とか、色々聞きたくて」

 レンはしばらく画面を見つめた。


 S級探索者から直接メッセージが来るとは思っていなかった。

(どうしよう)

 断る理由は特にない。でも何を話せばいいのか、まったく想像できない。


 S級探索者と十七歳のEクラスが、カフェで向き合う図。

(なんか、すごく場違いな気がする)

 そう思いながらも、返信した。

「大丈夫です。どこにしますか」



 待ち合わせは渋谷駅近くのカフェだった。

 レンが入口に着いたのは約束の五分前だったが、アリサはすでにいた。

 奥のテーブルに座って、スマホを見ている。

 二十歳前後だろうか。背が高くて姿勢がいい。黒髪をポニーテールにまとめていて、私服なのに探索者の雰囲気が自然と滲み出ていた。

 目が合った瞬間、向こうから手を上げた。


「神代くん?」

「はい。霧島さん」

「そうです。初めまして、オフラインでは」

 向かいに座る。

 店員さんが来て、二人ともアイスコーヒーを頼んだ。

「偶然同じですね」とアリサが笑った。

「あ、本当だ」

 なんでもないやり取りだったが、少し緊張がほぐれた。



 アイスコーヒーが来て、アリサが最初に口を開いた。

「改めて、配信いつも見てます。コメ欄込みで」


「ありがとうございます。霧島さんがコメントしてくれて、びっくりしました」

アリサが苦笑いする。

「私が勝手に見に行ったんで」

「でもS級の方が来るとは思わなくて」

「切り抜き見たら気になってしまって」

 アリサはストローをくるくると回しながら続けた。


「正直に言うと、最初は信じてなかったんですよ。EクラスがDランクの個体を倒したって聞いても、まあ負傷個体だし運もあったんだろうって」

「実際そうだと思います」

「でもアーマーベア戦を見て、考えが変わりました」

 アリサはレンを真っ直ぐ見た。


「あれは運じゃないです」

 レンはなんと答えればいいか分からず、アイスコーヒーを飲んだ。

「……コメ欄のアドバイスのおかげだと思ってます」

「それは否定しません。バハムートさんたちのアドバイスは的確でした」

アリサが少し考えてから続ける。


「でもアドバイスを聞いたからって、あの動きができるわけじゃないんですよ。聞いて、瞬時に判断して、体に伝える。その部分は神代くん自身の話です」

「……そうですかね‥」

「そうですよ」


 アリサは断言してから、少し柔らかく笑った。

「自覚なさすぎですよ、神代くん」



 しばらく、ダンジョンの話をした。

 渋谷第三の特性、地下三階の魔力流量、アーマーベアの鎧の仕組み。

 アリサは知識が豊富で、話していてよく分かる。S級というのは強いだけじゃなくて、こういう部分も違うんだと思った。


「霧島さんって、何歳からやってるんですか」

「十四歳からです。計測したらSクラスだったので、事務所に入って本格的に」

「十四歳で」

「早い方ですよ。神代くんは十七歳で始めたんですよね」

「はい。遅い方だと思って」

「Eクラスなら普通はそのくらいか、もっと遅いですよ。というか」

 アリサが少し言いよどんだ。


「Eクラスで、単独での探索者活動を選ぶ人、あまりいないんですよ。リスクが高いので」

「そうなんですか」

「普通はパーティを組みます。Eクラスの人は特に。単独だと、ゴブリン一体でも危ない場面がある」

「あ……確かに最初、危なかった気がします」

「今は?」

「今は……なんか、動けてる気がします」

 アリサはその答えをしばらく考えるように聞いていた。


「バハムートさんたちのこと、どう思ってますか」

「どう、というのは」

「ロールプレイ勢だと思ってますか、今も」

 レンは少し考えた。


「……分からないです。でも、悪い人たちじゃないのは確かで。それだけは分かります」

「私も同じ気持ちです」

 アリサがグラスを置いた。

「アドバイスの精度が高すぎる。バハムートさんが罠を見抜いた場面、私も映像で確認してたんですけど、あの角度とあの画質で気づくのはおかしい。現地にいるレベルの情報量じゃないと無理なんですよ」

「言われてみれば」

「言われてみれば、で流せるのがまた不思議なんですが」

 アリサが苦笑いした。


「神代くん、大事なことに鈍いですよね」

「よく言われます」

「誰に」

「コメ欄に」

 アリサは思わず笑った。



 一時間ほど話して、店を出た。

 渋谷の夕方は人が多い。二人並んで歩きながら、アリサが言った。

「また会いませんか。定期的に」

「え、いいんですか」

「私が言い出してるんですよ」

アリサが少し呆れたように笑う。

「神代くんの成長、データじゃなくて直接見たくて。研究者の天城さんも気にしてるみたいですし」

「天城さんも?」

「協会内で少し話題になってます。Eクラスの動きじゃないって」

 レンはなんとも言えない気持ちになった。

(自分では普通にやってるつもりなんだけど)


「あと、単純に配信が好きなんですよ。コメ欄の常連さんたちも含めて」

アリサが少し遠くを見た。

「なんか、あのコメ欄にいると落ち着くんですよね。うまく言えないんですが」

「分かります。僕もそうです」

「でしょう」

 アリサが立ち止まって、レンに向き直った。


「また配信でも、こっちでも」

「はい。ぜひ」

 二人は渋谷の雑踏の中で、軽く手を振って別れた。


 レンは帰り道、今日話したことを頭の中で整理した。

 アリサはさらっと言っていたが、内容は全然さらっとしていなかった。

(Eクラスで単独活動は普通じゃない。アドバイスの精度がおかしい。僕の動きがEクラスじゃない)

 全部、言われてみれば確かにそうだ。

 でもなぜかあまりピンと来ない。

(なんでだろう)

 自分のことなのに、どこか他人事のような感覚がある。

 まあいいか、と思いながら、レンは家に向かって歩いた。

 夕暮れの渋谷は、今日も賑やかだった。



 その夜。

 アリサは自室でスマホを開いた。

 今日のメモを見直す。

 神代レン。Eクラス初級剣士。十七歳。

 直接会って分かったこと。

 嘘をついていない。自覚がない。それが一番確かだ。


 アーマーベア戦の動き、雷魔法の習得速度、バハムートたちのアドバイスへの反応速度。

 全部、Eクラスの説明がつかない。

 でも本人はまったく気にしていない。

(気にしていないというより、疑問自体が浮かんでいないみたいだった)


 アリサはスマホを置いた。

 天城さんのデータと合わせて考えると、何かが見えてくる気がする。

 でも今日のところは、そこまでだ。

 アリサは配信のアーカイブを開いた。

 コメ欄の常連たちが、今日も賑やかにしている。


「……本当に何者なんですか、みなさん」

 独り言が、静かな部屋に溶けた。



 異世界のどこか。

 精霊王シルフィードが嬉しそうに言った。

「アリサさん、いい人だったね!」

「そうだな」とバハムートが静かに答えた。

「レンくんのこと、ちゃんと見てくれてる」

「Sクラスの剣聖だ。目は確かだろう」とゼルディアが言う。


「バハムートさんたちのアドバイスがおかしいって気づいてましたよ」とシルフィードが続けた。

「気づいていたな」

「大丈夫ですか」

「構わん」とバハムートが短く答えた。「気づかれても、困ることは何もない」

「それもそうか」

 トールが腕を組んで言った。


「あの娘、レンの周囲に必要な人間だ」

「同意する」とソフィアが静かに言った。「強さも、知識も、視点も。レンに足りないものを持っている」

 しばらく沈黙が落ちた。


 バハムートが最後に言った。

「良い出会いだった」

 それだけだったが、全員が同じ気持ちだった。


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