ボス戦に向けての準備 2
ボス戦に挑むための準備期間初日、
レンはダンジョンに入らず、協会の訓練場を借りた。
まず雷魔法の練習だ。
的に向かって放つ、集中する、放つ。それを繰り返す。
一応配信はしている。
【古代龍バハムート】が入室しました
【魔王ゼルディア】が入室しました
【精霊王シルフィード】が入室しました
「今日は訓練場です。ダンジョン行きません、楽しみにしていた人すいません。」
【精霊王シルフィード】:えらい!!
【魔王ゼルディア】:真面目だな
【古代龍バハムート】:的に向かって撃つな。動く的を想定しろ
「動く的ってどうやって」
【古代龍バハムート】:頭の中でイメージするんだ
「……やってみます」
目を閉じる。
アーマーベアが動くイメージ。左に、右に。
目を開けて、放つ。
さっきより鋭い攻撃が走った。
「あ、なんか違う」
【古代龍バハムート】:それだ
【精霊王シルフィード】:すごい!!
【新規さん】:訓練配信でも見てしまう
【新規さん】:なんか一緒に特訓してる気分になるね
【魔王ゼルディア】:それが配信の力というものだ
【新規さん】:魔王さんが急に解説者になってる
【魔王ゼルディア】:まぁ、暇だからな
【新規さん】:出た、決めセリフ
三時間、黙々と繰り返した。
終わる頃には、雷の密度が朝より明らかに上がっていた。
【雷神トール】:合格だ
「トールさん!?いつの間にいたんですか」
【雷神トール】:実はずっといた
【新規さん】:ずっといたのに一言も言わなかったの笑う
【雷神トール】:邪魔をしたくなかったからな
【精霊王シルフィード】:トールさん優しいですねー。
【雷神トール】:だから違う
◆
準備期間、二日目。
今日は装備の見直しだ。
協会の装備売り場で、レンは棚を眺めていた。
「魔力強化の手袋……高いな」
値札を見て、そっと戻した。
一応、今日も日常回として配信している。
【配信中】
【新規さん】:ちなみに何円だったんですか?
「三十万です、高すぎる」
【新規さん】:高いね
【魔王ゼルディア】:いや、スパチャが一千万あるだろう
「税金があるんですよ」
【魔王ゼルディア】:……そうか
【精霊王シルフィード】:税金って難しいね
【古代龍バハムート】:人間界は不便だな
【新規さん】:バハムートさんの人間界への解像度が低いねw
【新規さん】:急にロールプレイ勢っぽい発言きた
結局、手袋より安い魔力伝導率の高いグローブを選んだ。
八万円。
レンは財布を見た。
「……まあいいか」
【新規さん】:思い切ったな
【kirishima_arisa】:それ私も使ってます。コスパいい選択ですよ!
【新規さん】:S級と同じ装備になった、なんか上がる
【古代龍バハムート】:道具より腕が大事だ
【kirishima_arisa】:それはそうなんですが道具も大事ですよ
【古代龍バハムート】:……そうだな
【新規さん】:S級にたしなめられてるバハムートさん
「バハムートさんとアリサさんの絡み、初めて見た」
【kirishima_arisa】:バハムートさんのこと、前から気になってたんですよ
【古代龍バハムート】:何がだ?
【kirishima_arisa】:アドバイスの精度が高すぎて‥どこかで探索者やってたんですか?
【古代龍バハムート】:いややっていない
【kirishima_arisa】:そうなんですか……(やっぱり何者なんだろう)
【新規さん】:アリサさんも括弧書き定着してるね
◆
準備期間、三日目。
今日は地下一階と二階を軽く流して、体を慣らすだけの日だ。
ダンジョンに入ると、空気が馴染む感じがした。
「うーんやっぱりダンジョン入ると落ち着く。変かな」
【精霊王シルフィード】:変じゃないよ!
【魔王ゼルディア】:探索者向きの性質だろう
【新規さん】:ダンジョンで落ち着くEランク()
【新規さん】:末恐ろしい
【古代龍バハムート】:当然だ
【賢神ソフィア】:体がダンジョンの魔力に馴染んでいる。良い兆候だ
地下一階を軽く流す。
ゴブリンを二体、スライムを三体。
一週間前より確実に手応えが変わっている。
「なんか、楽に動ける気がする」
【古代龍バハムート】:成長しているな
【賢神ソフィア】:この三日で雷魔法の精度も上がった。準備は十分だ
【戦神アレス】:ようやくだ
【死神ネクロス】:明日か
【戦神アレス】:明日だな
【新規さん】:戦神と死神が珍しく息が合ってる
【新規さん】:ボス戦前夜感ある
【kirishima_arisa】:明日見届けます!
【精霊王シルフィード】:絶対来るよ!!わたしもいる!!
「みなさんがいてくれると心強いです」
【古代龍バハムート】:当然だ
【魔王ゼルディア】:まぁ、暇だからな
地下二階まで確認して、今日は終わりにした。
出口に向かいながら、レンは空を見上げた。
夕方の渋谷。人が多い。
ダンジョンの入口だけが、少し静かだ。
「明日、行ってきます」
誰にともなく、そう言った。
【精霊王シルフィード】:うん!!いってらっしゃい!!
【古代龍バハムート】:行ってこい
【魔王ゼルディア】:待っている
【賢神ソフィア】:準備は十分だ
【雷神トール】:やれる
【戦神アレス】:勝て
【死神ネクロス】:今日は出番来なかったぞ
【kirishima_arisa】:頑張ってください。見てます
【新規さん】:頑張れ!!
【新規さん】:明日見る!!
【新規さん】:通知オンにした!!
配信終了。
登録者数:四百六十一人。
明日の予告をSNSに上げると、三十分で三千リポストされた。
「……寝よう」
レンは早めに布団に入った。
緊張しているかと思ったら、思ったより眠れた。
◆
その夜、分析室。
ユイは三日分のセンサーデータをまとめていた。
数値がずらりと並ぶ。
「三日で雷魔法の精度が四十二パーセント上昇……」
平均的な探索者の一ヶ月分の成長率を、三日で出している。
ユイはペンを置いた。
「明日のボス戦、データどうなるんだろう」
楽しみを通り越して、少し怖くなってきた。
研究者として、の怖さだ。
既存の理論が、また一つ崩れる予感がした。
◆
異世界のどこか。
静かだった。
バハムートが一人、目を閉じていた。
しばらくして、ゼルディアが隣に来た。
「おや?眠れないのか」
「眠らない」
「まぁ同じだ、寝なくても良いからね」
二人はしばらく黙っていた。
「あの人間、本当に普通じゃないな」とゼルディアが言った。
「ああ」
「気づいていないのか、本人が」
「気づいていないだろう」
「それが一番、不思議だ」
バハムートは目を開けた。
「明日が楽しみだ」
珍しく、素直にそう言った。




