悪役令嬢と噂された侯爵令嬢ですが、一目で無実とわかります
貴族子女が集まる学園のパーティー会場。
とある公爵令息が「悪役令嬢」と噂される侯爵令嬢に話しかけていた。
「では君が男爵令嬢のドレスを切るように取り巻きに命じたというのは、事実なんだね?」
「そうですわね。確かに大体そのような意味合いの指示をしたことがありますわ」
「実行する寸前で、王子とその取り巻きが阻止したそうだけど」
「確かに第三王子殿下とその側近の皆さまに止められましたわね」
「そのことで、王子と取り巻きが君を『とんでもない悪辣な令嬢だ、悪役令嬢だ』と言いふらしているようだね」
「不名誉な噂ですわね。でもあれをご覧になれば、ご理解いただけると思いますわ」
「そうだよねえ」
目の前をその男爵令嬢が横切っていく。
長すぎるドレスの裾をズルズルと引きずって。
裳裾を引きずるデザインだとしても長い、長すぎる。
小柄な男爵令嬢は長すぎる裾を持ち上げ、時には踏んづけて転びそうになりながら歩いていた。
「あれを見たら、そりゃあ裾を切ってあげたくなるよねえ」
「親切心からサイズを合わせて裾上げするように指示したのですけど、邪魔されましたの」
「なんであんな長さにしたんだろうね?」
「ご本人は『まだ成長期ですから、足も伸びるし背も伸びますから!』とおっしゃってましたわ」
「伸びたら伸びた後で作り直せばいいだろうに」
「なんでも経済的理由でドレスはなかなか仕立てられないのですって。三年間は同じドレスを着まわすつもりであの長さに仕立てたそうですわ」
「それにしたって長すぎるよ。体に合わせて縫い縮めるとかできなかったのかな?」
「直すのが面倒くさかったみたいですわね。それにあの方、性格が大雑把な割にはダンスがお上手なのですよ。『裾が長くても踊れますから!』と元気いっぱいにおっしゃってましたわ」
見ていると、第三王子が男爵令嬢をダンスに誘った。
器用にドレスの裾をさばきながら踊る様子は優雅さには欠けるが、愛嬌があって可愛らしい。
たまに王子が長すぎるドレスの裾を踏んでいるけれど。
あ、また踏んだ。
そして、すてーんと転んだ。
磨き上げられた床の上をツーッと滑っていく二人。
慌てて駆け寄る側近たち。
「……なんていうか、見ていると氷の上のペンギンを連想するね」
「可愛らしいカップルですわよね」
第三王子、中等科1年、十三歳。
男爵令嬢、中等科1年、十二歳。
「僕たちも踊ろうか」
「よろしくてよ」
公爵令息、高等科3年、十八歳。
侯爵令嬢、高等科3年、十七歳。
初等科・中等科・高等科、三科合同のダンスパーティーの夜は更けていく。
小さい子たちはそろそろ引き上げる時間。
ここからは成人間近な令息令嬢たちの時間……。
<完>




