15/24
第15話 観測者
首筋に冷たく触れる鎌が、月明かりを反射して白い線を描く。
耳元で、低く湿った声が囁いた。
「……いいか。このことは、風に流した砂粒と同じだ。君は何も見ていないし、記録もこれで終わりにするんだ」
冷たい吐息が首筋を撫でる。
リセルの喉が震えた。
「彼らの命運は──君の指先一つに結ばれている。
君の一挙手一投足が、彼らの生死に直結するんだ。」
鎌がわずかに押し込まれる。鋭い痛みが走った。
「私は無闇やたらに人を殺したくはない。だから分かってほしい。互いに何も知らず、何も見なかった。それが最善だ。……そうだろう?」
リセルの胸に凍えるような沈黙が落ちた瞬間──。
魔族の指先が彼女の右腕を掴んだ。
焼けるような熱が皮膚に走り、思わず声が洩れる。
「……あっ!」
赤黒い光が浮かび、皮膚の上に小さく奇妙な紋様が刻まれていく。
それは文字とも呪文ともつかない歪な印で、じわりと脈打ちながら肌に沈んだ。
「これは保険だ。
この紋が消えぬ限り、君の行動は私に筒抜けだ。
……忘れるなよ、可憐な観測者」
フードの奥から、かすかな笑みが漏れた。
魔族は音もなく姿を消した。
リセルは必死に息を殺し、震える手で右腕を押さえた。
脈打つ紋様の痛みが、ただの言葉ではなく現実の枷であることを冷徹に告げていた。




