第14話 不穏な影
──森の外れ、小高い丘の上。
ここからは肇とアランが高峰を処置する様子が見下ろせる。丘を縁取るように伸びる木々や、鬱蒼とした低木の群れが、ところどころで影を作り出してはいるが、丘の上は焼け野原と化しているため視界は良好だ。
リセルは大木の枝の上に腰を下ろし、羊皮紙を抱えながら息を潜めていた。
膝の上に走らせる文字は、肇の指示通り── 高峰に施した処置の一部始終を細かく記している。
……高峰さんの様子も落ち着いてきたみたい……
月光が枝葉の間から差し込み、丘の斜面を白く照らしていた。
静寂の森に混じるのは、風に揺れる木々のざわめきと、夜虫の羽音。
……その中に。
不自然な影があった。
低木の陰。木立の奥。
そこに立つ人影を、リセルは目にした。
息が止まる。
フードをかぶった異様なシルエット。剣呑な空気は、その影がただの人ではないことを告げていた。
魔族……!
だが、次の瞬間に悟る。──気づいたのは自分よりも相手の方が先だった。
既にこちらを見ていたのだ。視線が絡み合った刹那、背筋が凍りつく。
リセルは慌てて杖を握り直し、肇へ伝達の魔法を紡ごうとした。
「──伝令の光よ、彼のもとへ──」
声が震えながらも、詠唱は確かに始まった。
だが、遅かった。
背後の空気が、ぞわりと裂ける。
「っ……!?」
気づいたときには、もう遅い。
いつの間にか影は木々を駆け上がり、リセルの背後を取っていた。
冷たい鉄の感触が、首筋に突き立てられる。
月明かりに鈍く光る刃──鎌。
呼吸するだけで喉を切り裂きかねない間合いに、それはぴたりと添えられていた。
「……余計な真似は、死に急ぐことになる」
低く湿った声が、耳元で囁いた。
リセルの全身から血の気が引く。羊皮紙が膝から滑り落ち、闇の中へ吸い込まれていった。
霞陽明かりと書くか月明かりと書くか…。




