◎不夜城 夜 それ以外の何者にもなれない ③
初めて読んでくれた方々、ありがとございます
いつも読んで楽しんで頂いている方々、五体投地でありがとございます
夏休みに入りましたのでゆるのんびり投稿からゆるゆる投稿にスピードアップしたいと存じ精進させて頂きます
◎魔性なかぼちゃぱんつ。
アイン殿下は普段寡黙な方であらせられる。
動せず、黙し、世を睥睨するその姿は王家の者の中でも一等王者らしい風格と威厳があると言われている…。
…アイン殿下10歳。
どんだけ人材不足なんだ王家 子供に威厳なんぞ求めるなよ!
国王陛下、遊び呆けて子供より威厳がないらしい。
と、そんな大人達に忸怩たる思いでアイン殿下の護衛をする日々、突然ですが国王陛下、崩御。
死因、腹上死。
クズ男だ!
そんな父親のどうしようもない死亡現場に殿下連れて行ったオレらもダメな大人だった。
あの時、自分の父親を見下ろしていたガラス玉の様な表情の抜けた殿下の瞳が、子供であることを許されない殿下の身上を語っていたその立ち姿が痛々しかった殿下が……。
……かぼちゃパンツでデレてる?
殿下、子供らしいトコあったんだ。
殿下の子供らしいに感動した派と単に子供可愛い派が総崩れになった。
…守りたい、子供の笑顔。
いや、殿下ハシビロコウ属性ですけど。
かぼちゃぱんつ。
この世界、子供は女子も男子もみんなかぼちゃぱんつ 仲良くかぼちゃぱんつ。
でも、だいたい7歳位になると男子は普通のパンツ、ボクサーやブリーフ、トランクスなどに代わる。
女の子はどうなってるんだろ?
女の子は砂糖菓子とスパイスとかぼちゃパンツで出来ている。
「…男の子用パンツも作りましょう!」
立ち直りが早い小エビ女子のメジャーが火を噴く! ジャッツ!
と、メジャーの目盛りを引き抜きながら眼鏡を光らせる。
メジャー、丸めて巻き戻るタイプのメジャーだ。
嬉しそうにメジャーの目盛りを引っ張り出したり縮めたりしてる。
殿下のパンツのサイズ図るの嬉しいのか…。
「いや そこは既製品でいいんじゃないか?」
胡乱な顔で立ち直ったバリエが呟く だよなあ。
生地と商品のサンプルとパンツを持ってこさせるために急遽バリエの妹の店にバルトを走らせこととなった。
このチームで一番足の速い若手はバルト、鉄砲玉の異名は伊達じゃない。 いろいろな意味でも鉄砲玉…。
この世界、魔力の破壊力が凄すぎて火薬の出番なかったのか銃や大砲は無かった。
鉄砲玉という言葉もないが、ついつい呟いてしまう。
一般市民は自前で生地から作ったり古着が主流、下着や寝間着も買うか家族が作る。
貴族や王族だと針子と言われる専門職のメイドが邸に常在しているはず。
なんでだか…未だアイン殿下のパンツはかぼちゃパンツ。
年令やサイズは伝達してあるはずで何も言わなくても規定の配給がある…はず。
…地味に側妃の嫌がらせか?。
ちなみに俺は既製服買うついでにパンツも買ってる、女のコから刺繍入りのハンカチなんか貰ったことないので自分でハンカチも買ってる…。
既製品、結構流通してる 流石に下着に中古はない。
「かぼちゃパンツだとズボンがゴワゴワして不格好になりますからね、パンツデビューですよ王子、ぱんつでびゅー」
バリエがやけに嬉しそうにしている 何だよパンツデビューって。
小エビ女子、サイズ記録中。
とりあえず計測終わったらシャツ着て下さい 殿下。
と、アイン殿下がシャツのボタンを留めながら見上げるようにこちらを見ていた。
アイン殿下、シャツのボタン掛け違えてる。
誰も手伝わないのかと思って見回したら衝立の裏で宰相閣下と殿下付の執事が密会中。 小エビ女子はサイズ記録中。
メイドは来客対応、誰か訪ねてきていた。
目線でバリエに合図を送る。来客の確認と警戒お願いします。
…うん、オレが着替え手伝うか。
アイン殿下が手こずってるブラウスはフリルの下に小さいボタンが12個付いていた、なんじゃコレ。
フリルでボタンが確認し辛いから掛け違えやすいのか…おまけに首からぶら下げてる玉璽が邪魔。
誰だよこんな子供服作ったのは!
大人の俺も二回ほどボタンを掛け違えた。
俺が不器用なせいじゃないぞ!
フリルとボタンとプランプランしてる玉璽のせいだ!
玉璽邪魔! 重い! でも金だよな?これ…。
ふと、前世のメロディが脳裏を横切る。
♪きん●キラキラ金曜日―…異世界! 金曜日の概念がなかったー!
ガーーーッ!イラッとするぅ!
来客の確認を終えたバリエがオレのイラつき度を見兼ねて手伝ってくれた。
今度は俺が周囲警戒態勢強化 来客が気になるがバリエが戻ってきたということは戦闘メイドちゃんで対応可なのだろう。
シャツのボタンが留め終わったらやわらかい袋に入った玉璽をシャツの下に隠し、シャツガーターで裾を止め、半ズボン履いた所で椅子に座らせてソックスガーターに靴下…。 傅いて靴下履かせるの何か手慣れてるなあ?
そして妙にによによしている。
上手くいけば実家の商会が王室御用達になるかもしれないのでホクホクなのか? それともそういう性癖?
なんか気持ち悪いぞ。
「アイン殿下、ムカついたら不敬罪にしていいですよ?」
アイン殿下が若干モヤっとした顔で足を突き出していたので悪魔の囁きを囁いてみる。 にやり。
「え? なんで!」
慌てるバリエ。
「跪いて靴下履かせるの、慣れた感じでキモい」
「ヒドい!」
「殿下がモヤっとした顔してる」
「俺のせいじゃない! 冤罪だ!」
殿下、モヤっとを通り越してチベットすなぎつねの子供になっている。
「殿下、可愛い侍女でなくてすみません」
10歳児童に胡散臭いアイドル顔するバリエ。
ちげーよ。
靴を履いて立ち上がるアイン殿下に上着を着せて調整をし終わると同時に宰相閣下と侍従の話し合いが終わり、メイドが宰相達に来客を告げた。
前世の記憶のせいでつい戦闘メイドと口走ってしまうが彼女は正式なアイン殿下の侍女である。
ライラ― モルゲン デンメルング デンメルング家は一応貴族家、小さな領地の子爵なのだが当主の子爵がちょっと影の薄い気配を探りにくい人。
で、王家の裏戦闘要員トップでもある、憶測だが代々そういう一族なのだろう。
デンメルング家の長女、油断してアイン殿下をからかったりしてると気配もなく近づいてきて首元に暗器を突き付けてきたりするので要注意だ。
怖ぇえー。
客は二人、次の間というか本来の応接室にいた。
白い長衣の若い神官と黒いフード付きの長衣の魔術院の中年の魔術師、俺の左腕にアイン殿下を担ぐと左側にバリエが付き、宰相の後に付いて応接の扉をくぐる。
アイン殿下の御出座である。
俺がアイン殿下を抱えているのは、いざという時は抱えたまま逃げるため、逃げる間がない場合、俺が肉壁になっている間にバリエに殿下を任せて逃げる。
護衛騎士なんてたいそうな役職で呼ばれているが、見栄えの良い騎士なんざ王宮に履いて捨てるほどいる。
王宮にいる騎士は儀礼のとき見目が良い方がいいという理由で顔が良さげなのが選ばれる、剣の腕は普通、フツーの野郎どもです。
勘違いしている令嬢たちが多いけど、所詮護衛騎士なんて偉い人の肉壁なんすよ。
まあ、強ければ逃げるに越したことはない程度。
二人は同時に右手を左胸に充て深く腰を折った。
「中央神殿から国王陛下のご遺体の管理を任された神官のラベルと申します。」
「魔術院より葬儀の為の魔術使用の監督役を務めておりますヨナス・バッハと申します」
普段仲良くない魔術院と神殿が揃ってる。
背中を軽くポンポンされたので殿下を下に降ろす。
「直答を許す、何用だ?」
子供特有の少し音程の高い声、活舌はいい。
ふふん ウチのアイン殿下は役者なのでオスマシも上手いのです。
軽く威圧を放つアイン殿下 10歳、大事なことなので何度でもくりかえします。
アイン殿下10歳 前世で言えば小学校4年生、身長125㎝、ちょっと小さめ。
殿下に直接話しかけられ、直答を許されたはずの神官と魔術師はちょっと当惑したようにお互い顔を見合わし宰相の顔を見る。
あ、これは殿下を宰相の傀儡だと思ってる口か。
宰相と話をする予定で殿下に話すつもりはなかったか。
ノイエクラッセ王国の内政、外交は夜に殿下と宰相が行っているが、実際殿下と宰相の仕事ぶりを知らない貴族、文官の一部は宰相の傀儡と考えて殿下を軽く見ている。
昼、全く仕事をしない国王陛下を立て、追従し、夜の行政に丸投げしておいて実質ノイエクラッセ王国を牛耳る宰相におもねれば上手い汁を吸えると信じている貴族文官達が後を絶たない。
実際、そんな役に立たない貴族や文官はさっくり切られてるんだけどな。
殿下と宰相に(笑)
宰相ではなく、本来国王陛下の執務室に秘されているはずの玉璽を首から下げているアイン殿下に仮ではあるが王国の決定権はある。
というか、もう何年もアイン殿下の執務を見ていれば誰がこの国の決定権を持っているか安易にわかると思うのだが…。
宰相は目線を送られても黙して語らず、その様子に仕方なく神官はアイン殿下に向かって話を切り出した。
曰く。
「亡くなられた国王陛下のお身体に呪印らしい印が現れました」
呪印って何?
神官とアイン殿下以外、皆の目が点になった。
なんか…にいちゃん、事件の予感です。