不夜城 夜
なぞが謎を呼んで伏線大混乱
◎ノイエクラッセ七不思議
前世/今世関係なく人の集まる場所 城 学校 古い建物、どこにでも怪談はあるのだと笑った。
前世でも「資料室を徘徊する指」だの「誰も収監されていないはずの留置所内にいる酔っ払いの幽霊」だの「拳銃保管庫に頭の欠けた制服の男が…」などなど 俺は見た事ないが…。
当然、ここノイエクラッセ王城にもある。
曰く、「首をかかえた白いドレスの女の幽霊」「宝物庫の呪われた宝物」「真夜中の図書館にいる子供の幽霊」……おい? 最後のは怪談でも何でもない、休憩時間に本を読んでいるアイン殿下だ!
殿下は仕事の合間に良く図書館に本を読みに行く。
真夜中なのに だ
殿下、10歳にして幽霊にされる 縁起でもない。
目が悪くなるから休憩時間は休んだ方が良いって言ってるのに…影が薄いんだか個性が強いんだか。
しかし周辺国にも広がる最も有名な不思議が
「国王陛下も側妃も仕事をしないで放蕩三昧なのに何故か滅びない国、ノイエクラッセ王国」
……
恥ずかしい、他国にまで悪行が轟きながら当の本人達は平気で放蕩三昧とかないわ。
真夜中の王城の廊下
怪談の舞台に持ってこいのはずなのに、怪談の入り込む余地がない普通に明るい廊下に複数の足音が響くアイン殿下、御出座です。
殿下を筆頭に俺ら護衛騎士2名 戦闘メイド 執事の順に進んでいく、毎度定番のお渡りスタイルに城の文官、淑女の皆様があわてて脇によける。すまんなぁ。
宰相は殿下を俵担ぎで担いでご満悦だ。
ナニカチガウ……。
このヒト アイン殿下みたいな真面目な子が大好物らしい 大好物って…恐れ多くも王族、第一王子殿下なのに、すれ違う城の噂雀たちの冴えずりが怖い。
…怖いよ、宰相。
あの後、娼館で事後処理に2時間かけた。
さすが客もろとも封鎖しての事情聴取は面倒なので後からやってきた宰相の部下と他の騎士や文官たちに丸投げして、やっと王城に帰って来たのがついさっき。
疲れた…宰相以外の他のメンバーもそこはかとなく疲れている。
殿下も俵担ぎに文句言えないほど疲れている。
何で宰相だけご機嫌に元気なんだ?
そんなメンバーを引き連れてやってきた王宮内図書館第三資料管理室。
ドアを開けた正面に流暢な筆記体で【娼館密室国王腹上死事件 捜査本部】な垂れ幕が…
あ 何か懐かしい気分…じゃねえ
俺はその垂れ幕をひっつかんで無詠唱魔法で焼ききった 無論、灰も残さん!
むっちゃ残念そうな顔の護衛騎士が、奥の扉から顔だけ出している見つめている。
護衛騎士の一人、バルド・オストーゼ卿
俺より2つ年下の部下 お前、残念そうな顔してんじゃねえよ。
「お前か! くだらないことやってのは暇なのか?暇なら仕事増やしてやろうか?」
グリグリ
「頭、頭拳でぐりぐりしないで下さ~い! 痛い!痛いですぅ!」
グリグリグリ
殿下が半眼で俺たちのじゃれあいを見てる
グリグリグリグリ
しかし半眼だと益々ハシビロコウに似るな…殿下、 眠いのか? 羨ましいのか? 殿下もグリグリしますか?
微妙な顔して首を左右に振ってる。
ふっ 以心伝心
アイン第一王子(10歳)。
王宮内図書館第三資料管理室が殿下の執務室。
本来なら国王陛下が決済する書類をここで処理している。
そして今日、新たに国王陛下崩御に関するよしなしごとから正規の手続きまで処理されることになる。
本来なら歴代の王太子が使用する執務室があるのだが、長男の俺が国王の後継だと第三王子と側妃が占拠したあげく、見栄と虚飾の展示場と化したらしい。
どんなんだよ
側妃は国王陛下が何も言わないのをいいことにやりたい放題で息子を甘やかしている。
…別にいいんだよ?仕事するなら王太子用の執務室使っても…、でも第三王子とヤンチャな側近の溜り場になってるそうだか?
執務室の意味は?
側妃好みのぴかぴか派手な成金装飾の豪華な執務室でスナック菓子喰いながらダべる男子中学生。
スナック菓子は冗談だがそんな感じらしい 護衛騎士情報。
……やりたい放題してたヤンチャ坊主か…年令と行動が合っているから可愛いもの…。
いや、だめだろ 第三王子14歳、学園での成績は下から数えた方が早いらしい。
確かに不思議だ、側から見たら謎だよな。
国のトップに仕事出来る上の人間がいない。
宰相とその周辺以外
正妃である母親を無くし、育児すら側妃によって破棄されたはずの亡き王妃の息子に玉璽を渡し、国の仕事をさせた。
アイン殿下5歳
宰相あたま湧いたと思われたらしい(笑)
当時は俺はまだ王宮で仕事していなかったので噂で聞いただけだが。
しかし、アイン殿下はヤバかった。
玉璽を紐で首から下げ宰相と共に仕事しまくった。
地獄だ、育児放棄だ、労働基準法違反だ、児童の健全な育成のための…ダメだ!異世界 労働基準法がない‼︎
流石5歳児に国王の執務室を使わせるわけにはいかず変わりに用意されたのが国内随一の蔵書を誇る王宮内図書館の第三資料管理室。
2階分を吹き抜けに壁一面天井まで蔵書が並んでいるのは圧巻といえよう。
蔵書と資料自体は別室に移動されて今あるのは執務に使われる諸々の本、書類が綴じられ並んでいる。
古い時代の建築様式で建てられた古い建物ではあるが、上階へ続く階段の飴色の手すりや大きい資料の閲覧用机など趣のある装飾で俺は割と気に入っている。
俺ら護衛騎士には机なんか用意されてないが。
窓は少ないが本を痛めないように工夫されたやわらかい採光も美しく空間を飾り、簡単な人間用エレベーターと資料移動用の昇降機が本棚の陰に隠されるように付属しているのもいい。
後付けで作られたそうだが簡単な料理も出来る給湯室と仮眠室、ちょっと遠いがシャワー室もある ははは側妃にしてみれば王宮の端に追いやったつもりだろうがこちらの方が便利な作りなのだよ。
「何 どや顔してるの」
子供の姿をしたハシビロコウが椅子を後ろに反り返らせるようにこちらを見上げている。
足が届かなくてブラブラしてるその態勢はアブナイですよ、王子様コケますよ。
殿下は皆が定位置につくと両手を顔の前で組んで上目遣いで部下を睥睨する…どうも本人にそのつもりは無いらしいが目つきとポーズが悪い 前世でいうところの●ンドウポーズ。
大事なことなのでもう一度言います。アイン第一王子 現在10歳です
10歳の子供に玉璽持たせて本来なら国王陛下がやるべき仕事してます。
「国王陛下が身罷られた。よって王国法に従って王位継承権第一位のアイン殿下に移る」
アイン殿下の斜め横に仁王立ちの宰相が徐に宣言する。
「これは王室規範に乗っ取った決定事項だ」
宰相の一言に部屋にいる者全員の背筋が伸び、身構える。
殿下は変わらず無表情
「しかし 殿下はまだ成人前、前々国王陛下は病床で政治には関われない、よって殿下が即位するまで摂政として王弟殿下が立たれる」
いつも大事な時に行方不明の王弟か
「そして厄介な側妃が擁立する第三王子も己の王位を主張するだろうことが予測される」
「…側妃の子供は正妃の長男である殿下より継承権が低いはずですが?」
オストーゼ卿が控えめに挙手しながら宰相に質問した。
正妃の長男、国王の次男 先に生まれたのは側妃の長男、国王の長男 しかし側妃の息子の王位継承権は低い。
「側妃は自分の息子を王位に就けたい その後ろ盾、実家クリッペ伯爵家は娘を王妃にしたかったが叶わなかった だから孫を王に娘を国母に…と、謀略を巡らせている」
5年前、昨夜死亡した国王陛下が即位した。
前国王が原因不明の病で体が動かなくなり、一人息子のゼクス ゲルト ノイエクラッセに王位を譲って引退した。
というか王弟がいるのに出来の悪い息子に王位を譲るなど正気ではないと各方面から非難の嵐だったらしいが
偶然と奇跡と陰謀を混ぜ合わせたような状況下で、王位は一人息子に譲位された
直後、前王は全身動かくなり言葉も発せられなくなり即位した国王陛下は今に至る。
表向き国の業務は国王の仕事 昼の勤務時間。
しかし放棄された国の仕事は誰か、玉璽を持ちうる王族しか処理出来ない。
内密に、目立たないように、夜中に図書館の第三資料管理室で行政をこなす第一王子と宰相。夜の勤務時間 ノイエクラッセ王国の謎、王城の昼と夜はこのように始まった。
…在位5年か…
一つしかないベランダに出る窓から死角になる所に殿下のデスクがある、書類が雪崩れるほどになっているようなことはないが、書類箱の中にはそこそこに未処理の書類がたまっている。
現在深夜を超え、日付が変わって一時間ほど経った頃合い、宰相の部下がやってきて部屋中央の応接セットのテーブルに前世でいう広辞苑厚の本が5冊積み重ねられた。
「これが王室での王族葬式手順の指南書です」
本の前に座った宰相がそっと手のひらで本を示した
隣の相方が好奇心につられて本をめくっている。
ちらりと見た内容は文字が細かすぎて整然と並んだゴマ粒のように見えて読めない…
俺も相方の目が死んだ…うろんな顔で「どんだけ残業…?」と本を閉じた。
よかったな、深夜勤は手当がいいぞ?その場にいる執事も戦闘メイドも俺も魂が抜けてる。
おもむろに宰相が立ち上がる。
「王の遺体は王城内の医療研究室に回した、そこで解剖して死因を特定、だが発表は就寝中の突然死とする。王族の内々の葬式は三日後、その後国葬と埋葬を1か月後を目途に行うこととする。
摂政は王弟殿下ヌルク バイン オペル閣下に打診する予定だ」
摂政を弟殿下に、そしてアイン殿下が国王として即位…
俺は殿下に視線を向けた
国を背負う責任。
宰相の発言を聞いてもその表情は変わっていない。
子供にさせる顔じゃない
俺はかなりこの王子様を気に入っている。
顔が怖いだの、表情筋が死んでるだか威圧が老練の政治家だの、年齢にそぐわない態度が可愛いくないと、結構な言われようをしている王子だが健やかに育ってほしいと思うくらいに…
その時ふと、耳元で何か不協和音のような音がささやいた
【護国の盾】 と
背中から血筋が引く
尊称
警告 やばいのが来たーーー
一瞬、ふらつきかけたが無理矢理踏ん張った
これは表に出せない事象。
「以上、質問はあるか」
わん、と音が一気に戻る。
「あの、国王陛下を医療研究室に渡したんですか?解剖って…不敬罪じゃないですか?」と文官が発言していた。
「何が不敬罪だ 死因を徹底的に解明して側妃連中にいいように扱われないようにする」
「あの毒殺発言ですか?」
隣のバリエがちょい左手を上げ宰相に質問する。
「そうだ 王を毒殺したのはアイン殿下の陣営のイプセン侯爵令嬢として、イプセン家の粛清、その罪をアイン殿下の命令とまで話を広げて追い落としを図ろうとしたらしい 大分計画が狂って狂言の筈が本当に陛下が亡くなられて向こうは大分慌てて馬脚を現した」
宰相閣下、もしかして娼館で国王毒殺の情報を得ていた?
先に陛下が腹上死しちゃって何か計画が狂った?
だから宰相はあんなに急いだのか?
あの娼館付きの治癒魔術師がわめいていた
「毒殺」
「イプセン家の令嬢…?」
「現場にいた令嬢だ」
「先に行われた学園の卒業祝賀パーティでノーラ・イプセン伯爵令嬢が婚約破棄されて行方不明になった 婚約破棄したフランツ・ケストナーにハメられたのだろう」
そういえばそんな事件を上司から聞いた、確か第四騎士団に捜索の依頼が出ている。
「あの婚約者は第三王子の側近候補、側妃派だ 愛人が出来て正当な婚約者である彼女が邪魔になって仕組んだらしい」
いや、愛人って
「浮気相手の男爵令嬢 カロリーネ ギュンターがそそのかしてパーティでの婚約破棄を敢行した、でっち上げのいじめに毛が生えたような因縁をつけられ国外追放とまで言われたが、今思えば男爵令嬢は側妃派のハニトラだったんじゃないか?」
卒業パーティで婚約破棄?
「たかだが侯爵令息が令嬢一人、罪人に仕立て上げて国外追放になんか出来るんですか?」と、
「出来るわけがないだろう だが、周りを側妃や自分らのシンパで囲んで反論出来ないようにしたんだ」
断罪イベント?
「婚約破棄断罪の後、誘拐されて娼館に売られたらしい 売られたというより、最初からそういう計画で娼館内の人間が何人か動いていたようだ、調べたら逮捕者が出た」
「浮気されて 婚約破棄イベントで晒しものにされて かどわかされて娼館に監禁されて娼婦に……」
バルトが顔をゆがめる こいつは脳筋の割にロマンチストのフェミニストで女性は砂糖とスパイス、素敵なもので出来ていると本気で信じてる。
前世のアイドルグループのお笑い担当みたいな顔でもモテるのはそのせいか?
「保護した令嬢は今どうしてる?」
殿下が口を開いた。
「王宮で保護してます。散々抵抗したらしい傷だらけで顔やあちこち腫れたりしてましたが表面上はポーションでキレイになりましたよ」
なんでバリエが答えるんだ?
「国王、抵抗されてるうちに興奮して頭の血管が切れたんじゃないですかね?」
「子供が出来る心配までコトが進行してなかったようで…」
調子に乗ったバリエが余計な事まで喋っている
戦闘メイドが鬼の顔でポケットに手を突っ込んだ 暗器だ 暗器で本気で殺る気だ バリエよ、お前は一遍やられろ!
殿下が気付いたらしいが微妙な顔している。これは止める気がないな 俺もないけど
子供の前で下ネタはメイドちゃん怒るよ 自業自得だか殿下、10歳だよね?今、微妙に部下のセクハラ諌めていいか悩むオヤジな顔してません?
静かにバリエが締められている間に宰相が話を引き継ぐ。
「これから側妃との王位争いが激化するだろう」
火のない所だろうと大炎上する
焚き付けて利を得たい奴がいるから
国が割れるか?
それとも
乙女ゲー的な恋愛劇が始まるのか?
美形攻略対象が見当たらないんすけど…。
ビジュアル設定は大事です 乙女ゲー展開には無理があるでしょう 現場からは以上です。