◎閑話休題 筋肉は裏切らない 伍 密会
肉テロ回です。
次回こそまとめます。
◎アイン殿下後援会(仮)① 密談
ノイエクラッセ王城 昼。
アイン殿下が空を見上げていた。
平凡な青い空、曇天とも青天ともいえない中途半端な量の雲が今は雨の降り初めと季節を教えてくれる。
遠くから遠雷が聞こえた。
「本当に昼は明るいんだ」
目を見開いて空を見ている殿下。
殿下! そこから?。
ベッドから起きた後も部屋に籠って事務仕事をしていた。
アイン殿下しか玉璽が使えない為、殿下が寝込んでいた間仕事は溜まるにまかせていた。
やっと起きられる様になったのに目の前に書類の山なんて…外が明るいなんて眺めている暇などなかったのだろう。
周りにいた大人、東の辺境伯代理の継嗣、南の辺境伯家当主が眼を剥いて殿下を見ていた。
密会の為招集をかけた当事者、騎士統括局の副長も〈ヤベェ〉という顔でをしている。
宰相は…まぁ…両手で顔を覆ってうなだれている…。
昼の熱を知らない 射干玉の夢の下で育った子供。
応接室に入るのは大人7人と子供一人。
俺たち3人は扉の前で止まり、儀礼どおり殿下たちが部屋に入るまで扉の手前で立っている。
扉を閉める前、副長が連れてきた5人の直属の部下の残2人が扉の前に警護で立つ。
護衛の交代。
扉前の騎士達に目礼し、自分たちの控えに戻る。
扉が閉まる寸前、アイン殿下と眼が合った。
アイン殿下の下に配属されて、そう長く一緒にいたわけではない。
自分たちにはどうすることもできないのはわかっている。
王国の矜持、貴族共の思惑。
〈騎士として、守る者の盾となる〉
騎士学校で教える矜持の一文。
「ああ…俺が肉盾になって守ったのに」
ボソッと呟く 独り言。
独り言だというのにしっかり聞きとがめたバリエとバルトは残念なモノを見る目でミネルバ卿を見ている。
なんだよーー!
「ガキだな」
バリエは肩を、バルトは背中をバンバンと叩いてくる。
痛ぇーよ!
「そういう時は肉! 肉っすよ」
バルト、そういうところが脳筋と呼ばれる所。
「〈踊る焼肉亭〉から昼飯、出前取ったぞ」
バリエ、お前もか。
ということで手が空いた野郎三人で襲撃事件反省会という名の肉会とあいなった。
お茶会でも昼食会でもない。
密会でもなく肉会だ。
「情報の擦り合わせをしよう!」
パンと手を叩いたバリエと他護衛騎士達は、会議の隣の部屋の円卓を囲んで座った。
王城に出前してくれる料理屋〈踊る焼肉亭〉の肉料理を並べてみる、肉山盛り宴会コース、酒抜きを注文したものを、何を考えたか客室付きの侍女たちがアフタヌーンティー風に盛り付けてくれた。
紅茶付きで。
いや、なんで?
心の中で三人同時に呟く。
「酒欲しいな」と全員の意見の一致を見るが昼酒はない、紅茶のみ。
お茶会風・肉爆食会…ということで喰らうしかあるまい。
隣の部屋に届け肉のにおい! 〈イヤガラセ〉。
宰相に仕事の書類を箱! で届に来た文官達が肉盛りを見てギョッとしている。
肉か? 量か?
…そんな驚くようなモノかと はぐはぐ。
バリエは騎士局副長から報告書の複写を受け取っている。
当事者以外が勝手に提出した報告書によると今回の襲撃犯は総勢12人、北の辺境に接した隣国ディールセンが寄越した暗殺部隊ではないかと、推測。
推測とは? 持ち物、身元の洗い出しから入国してからの足取り、接触した者共の身元まで全て洗い出した結果は提出した先で握りつぶされた。
ぶしゅー! 肉汁スゲェ。
湖沼フロッグ、唐揚げは塩とタレ どちらもジューシー。
はぐはぐ。
因みに当事者の出した報告書はコレの3倍の厚みがあった…徹夜して書いたのにと嘆くバリエ。
オーク肉は定番のカツが肉厚でサクサク! 踊る焼肉亭のロースかつは他の3倍の肉厚!
はふはふ。
ロースカツの火加減が抜群にピンク。
かぶかぶ。
手引きし、懐柔し、工作して襲撃者が絶対有利な立場だったにも関わらず、たった3名の護衛騎士に全員返り討ちにされたという事実は計画した者達にとって許しがたい事だったらしい。
肉が溶ける! ワイバーンのテールスープ凄い!
ずずずいっと。
事実を捻じ曲げた末、側妃派の高位貴族共は襲撃を許した護衛騎士の警備の甘さを全面に攻めたててきた。
敵に生き残ったものはいない。
死人に口なし…と。
厚切りにした香草焼きは口に入れると香草の香と肉の旨味が程よくまじりあう。
うまーーーい!
けど、ふざけんなよ はぐはぐ。
部屋は肉と共にニンニクの匂いが充満してきた。
ニンニクは正義! デートの時以外は。
隣の部屋からみると風上になるバルコニーの窓を開ける。
とどけ! 隣の部屋へ! もぐもくもく……。
握りつぶされた情報部の報告書の控えから襲撃犯の黒幕は側妃の祖父の家だと推測。
聴いた3人は第一王子の命を狙うより孫とひ孫の教育をした方が王位継承戦、勝機があるんじゃないかと頭を抱えたが。
口直しのチョレギサラダがシャキシャキぃ! 海苔とごま油がまた絶妙。
シャキシャキ。
「黒幕は上手いこと逃げた、証拠や証言を握りつぶすのはお得意だからな。
レモンを握りつぶし、揚げ物にぶしゅー!
「聴くの忘れてたけどレモン嫌なヤツいるか?」
三人ともブンブンと首を横にふる おっけー!
割喰ったのはそそのかされた実行犯のディールセン王国、リーダーがシメた男は国王の懐刀と呼ばれる暗殺中心の者だったらしい」
「うへぇ!」
報告書に肉汁飛ばすなバルト!
バルトが奇妙なうめき声をあげる 貴族の次男坊だというのに、妙に庶民的。
「しばらく大人しくなるといいな」
バルトはお口に肉パンパン突っ込まれる、大人くなったな。
口いっぱいの肉をはぐはぐしているバルトを見ていて愚考する。
バルト、これでも軍閥貴族の次男坊。
ディールセン王国の国王は短気で粗暴、気に入らない国に暗殺者を送ることで有名だった。
「このソーセージの肉なんだろ?」
「定番だとボアだな」
「白っぽいから一角ウサギじゃないすか? 白いソーセージ、香辛料入りですよね」
パキーン ぶしゅー!
騎士団内で浮いた存在である3人が護衛する第一王子。
今は亡き王妃の冷遇された子供。
本来の後ろ盾であるはずの王妃の実家は側妃派、母方は貴族派。
王妃が亡くなってからは全くの没交渉。
後ろ盾もなく使い捨て出来る都合のいい傀儡。
玉璽を押させるために必要な王家の血筋の幼い王子。
それを国の中枢を握る黒幕の宰相が囲っている。
襲撃犯は王族のアイン殿下と宰相を亡き者にすれば侵攻はたやすいと考えたらしい。
実際そう囁かれたんだろう…誰とは言わんが。
メインのボアの香草焼き、流石喰いであるな げふー。
バリエは冷えたお茶を一気飲みすると新しいお茶を求めて傍らのティーコージをかぶったポットに手を伸ばす。
おかわりしますかとミネルバ卿とバルトに尋ねるが反応が鈍い。
バリエがティーポットに伸ばした手が止まる。
ミネルバ卿はメガネを外し片手で目を覆い、彼方をみつめていた。
皆、押し黙る。
「リーダー、眼鏡になっちゃいましたね」
スペアリブの骨を片手に、しみじみミネルバ卿を見ているバルト、犬耳があったらしゅんと垂れてるだろう。
食べ終えた骨を避けてまたスペアリブを一本抜きとって齧る。
耳垂れたまま。
「額の傷のせいですか?」
バルトはあの時、敵にふっ飛ばされて戦線離脱した、それをカバーしようと動いたチームリーダーのミネルバ卿が額を切り裂かれた。
ミネルバ卿にはスキル〈盾〉がある、普段の戦闘ではそれを全面に出して力業で勝利していたが今回はそのスキルを殿下に使っていた為、無防備状態で乱戦になって傷ついた。
自分のせいで眼鏡をかける程視力が落ちるケガを負わせた……と、バルトは本気で心を痛めいている。
「いや? これは返り血避け、視力は落ちてないよ?」
待ってくださいよと叫びたいバルトの痛めたココロをミネルバ卿が踏んづけた。
キョんとするミネルバ卿、魔道具だと外した眼鏡を見せびらかす。
「ミネルバ卿! メガネを箸で摘ままない!」
東の辺境ではカトラリーとして箸も使われる。
「眼鏡の理由が物騒!」
お行儀も悪い。
「額切られた流血で間合いが上手く取れなくてざっくりヤラレタから」
箸を使うミネルバ卿は素早い、のんびり食べていると横から箸で肉を攫って行く。
因みにマイ箸持参。
マジすか! でも流血ならメガネ関係ないじゃないすか! 一応心配していた二人のココロの叫びは肉を食むのに忙しいミネルバ卿には聞こえなかった。
ミネルバ卿だから…。
二人のココロの声はきっとハモっている。
「あの流血で嗤いながら敵を床に縫い付けるとか怖かった」
「いや、相手の剣を奪って魔弓を床に刺し貫ぬいただけだよ? 腕ごと」
腕ごと…。
シーンを思い出したバリエはポットを持ったまま少女のように腕を交差させ、怯えるフリをする。
「聞きました! 剣が胸に刺さっているのも意に介さず敵の首を素手で折って相打ちにしたそうですね」
「リアル狂戦士だった…」
とバリエ、バルトが羨ましそうに見てる、見てみたかったと。
コカトリスの手羽先はデカい。
羨ましそうに見てるが食べるのは止めない。
バリバリはむはむ。
一応この時代、それほど大きな戦争はないので狂戦士は伝説の彼方の御伽話だ。
「めっちゃいい笑顔で首ゴキって……」
「首ゴキ…」
「ゴキ…」
片方の手で首を抑えるバルト。
新たに手に取ったコカトリスの骨付きもも焼きもデカかった。
ふと、首の骨はどれだけの太さなのか? と、食べ終えたコカトリスの骨を摘んで力を入れてみる。
…折れない事もないか?
「最凶狂戦士伝説が現代に蘇る…」
レットボアの角煮は口に入れるとホロホロと崩れる柔らかさで汁もパンに合う。
もきゅもきゅ ごくりと飲みこめる柔らかさ、これはアレ、飲み物ですよ飲み物。
ゴクン。
なんで気絶してたんだと自分を責めているバルト。
そんなに見たかったのか?
換気の為開けた窓の外は雨こそ降っていないが曇天だった。
比較的穏やかな気候の東の辺境は今の季節、雨に濡れた紫陽花が見頃だなぁと…いつか殿下に王都に来る前は当たり前だった青空を見せたいとミネルバ卿は思いながら眼鏡を掛け直す。
お茶、おかわり。
バリエはカップに茶を足そうとして、自分のカップの隣に別のカップが置いてあるのを確認する モヤっとするバリエ、誰だよ。
「やっぱ俺にも茶くれ」と、ミネルバ卿。
ちゃっかりバリエのカップを少し押しのけて自分のカップを並べている。
最初から欲しいと言え! とバリエが眼で訴えるが、てへぺろと首を傾げる卿。
胡麻化す時よくやるけど可愛いと思ってるのか! と心の中でツッコミを入れた。
仕方ないと執事の如く綺麗な所作で二つのカップに並々紅茶を注ぐ。
慣れてるので諦めも早い。
なんだかなぁ。
バリエは元々騎士学校出の騎士爵だが貴族の子息と揉めて諜報部に行ったのを副長が再スカウトしてきた。
だからかバリエ自身目立つことを厭い影に徹しようとしているが女子はイケメンに目敏かった。
バリエを情報部からスカウトし、四男を冒険者ギルドから引っ張って来た男は今、隣の部屋で東・南の辺境伯家、宰相、第一王子のアイン殿下と円卓を共にしている。
東と南の辺境伯家は親戚程度の付き合いがある、が 家の利害が係るとそう都合よく此方の案に乗ってくれるとは限らない。
東の辺境伯であるミネルバ伯爵家と宰相の家門であるライヒス侯爵家の言質は取っているが側妃、貴族派のどちらでもない中立の南の辺境伯家が殿下の後ろ盾になってくれるとありがたいと副長の方のミネルバ卿は考えているが、当代の家長はのらりくらりと返答を胡麻化している。
図書館棟管理の任を得ているシュヴェールトヴァール卿を今回の集まりに招いたのは図書館襲撃の報告と修繕の報告ではなくこちらがメインだったが南の辺境伯の手答えは相変わらず薄い。
どうしたものかと思案するが、これといった良案が浮かばない。
手詰まりだった。
第一王子殿下の後ろ盾となる力が欲しい。
会議がひと段落して控えていた侍従が空気の入れ替えにと窓を開けると、そこはかとなく庶民の愛する焼肉とニンニクの芳香が…。
副長が顎の下で組んでいた手で顔を覆う。
誰かの腹の虫の音が微かに唸る。
ここは一応王城内、低位貴族ファミリー向け客室(アイン殿下とその一党在中)付属の応接室。
多分、匂いの元は隣の部屋。
「隣の連中を呼んでくれ」
副長は壁際に立つ騎士の一人に命令した。
ステーキ肉:肉テロ回なのにオレの出番がない…。
雷鼠:ステーキ肉を狙っている、ヂュウ〜…。
火の玉小僧:何も考えてない。(笑)
次回、殿下のコレ↑ が明らかに!




