◎閑話休題 筋肉は裏切らない 四
……閑話休題で3話位で軽く終わらせて本文移行する予定でしたがまだ続きます
伏線説明回なのでR指定はないと……思いたい。
アイン殿下の護衛騎士の不穏なボケ、ツッコミ回(笑)
殿下が見てなくともステーキ肉共は健在です。
◎メガネをかけても脳筋は筋肉
私、アイン ドンナー ノイエクラッセはあの襲撃事件から三日寝込んだらしい。
知らない天井…じゃない 知らない天蓋。
気が付いたら王宮の図書室に近い客室で寝ていた。
ファミリー向けで小さい子供と一緒に泊まれる下級貴族向けの客室。
そして
隣のベッドで苦悶の表情の宰相が唸っていた。
なんで?
「宰相、魔力枯渇で危なかったので魔力回復薬飲ませたら全身筋肉痛になりました」
悪ガキの悪戯成功して気分いい笑顔のミネルバ卿が答えた。
卿、生きていた。
生きていつもどおり動いている。
ステーキ肉や雷鼠は見あたらない この怠さ、魔力枯渇になりかけているのだろう。
ぼうっとミネルバ卿を見ていたら手をひらひらさせて近寄ってきた。
「大丈夫ですか? アイン殿下」
…だいじょばない てかなんで眼鏡かけてるんだろう卿は。
眼鏡で隠れない額に白いテープが張り付いているのが見える。
あのとき、血塗れで笑う卿が怖かった。
肉壁 と自分を称して笑ったミネルバ卿が辛かった。
だからミネルバ卿から目をそらした。
かけられていた布団を握りしめる。
と、その布団の上に図書館猫司書、黒と私が呼んでいる仲のいい猫が載せられる。
「図書館猫眷属一同がお見舞いに来ていますよ」
寝ている人間の顔の横に猫を置くのはどうだろうと思うが猫司書はそっと私の耳の下に後頭部を擦り付けて甘えて来る。
あたたかい。
周りを見回すと図書館 館長猫、黒マシマシが、寝ている宰相の胸元をふみふみ踏みながらこちらをじっと見つめていた。
眼で私に説教してる?
館長の圧がとんでもない…猫なのに。
でも宰相の胸の上からどいてあげてください館長、それは猫が人間に悪夢を見せる為の呪いの儀式では?
ふみふみ。
他何匹も館長の眷属猫が自由気ままに室内をさまよっていた。
猫、自由だ。
猫が自由に動きまわっているのは安全な証拠 襲撃は終わったのだろうか。
寝ている宰相のほか、宰相のベッドの横に15~6の美少女も猫司書トラを抱いて座っている。
もしや噂の宰相夫人? けぶるような淡い金髪に翡翠の瞳、とても成人既婚者には見えない美少女って犯罪じゃないか! 宰相! 本気でロリだった!!
と、室内を見回すと他にも私付きの戦闘メイド、侍従、護衛騎士の3人 ほぼ私の周りのいつものメンバー…。
いつメン なんでいるの?
枕の下いつもの場所に玉璽の袋があるのを司書猫がつついている。
ああ まだ私には利用価値があるのか。
ミネルバ卿が寝ている私の頬を指でつつく。
…ミネルバ卿ぉお!
ミネルバ卿はシリアスを許さなかった。
「水と白湯と紅茶、どれがいいですか?」
人の頬を突いて嬉しそうな卿の後ろに水とお湯をお盆に乗せた護衛騎士が揃っている、何故か飴ちゃんの瓶をお盆に乗せたバルト卿はみよんみよんとした感じで立っている
バルト…何みょんみょんな感じ? デコにでっかいガーゼを貼っているため上げた前髪がみよんみよんと揺れている?。
…本棚に叩きつけられていたな、そういえば…
ミネルバ卿の眼鏡、卿の目が眼鏡が必要なほど悪いとは聞いていない。
折れた剣で眼のすぐ上、額を切られて出血していた。
「白湯にしましょう、ちゃんとお薬飲めたら飴ちゃんをあげますよ」
「……」
卿、胸刺し貫かれていなかったか?
血塗れで嗤うミネルバ卿、剣がめり込むのも構わずぐっと抱きしめて敵の首を……。
思い出して吐きそうになるが胃液すら出ない。
そんな私の様子を目を細めて見つめているミネルバ卿。
「先におなかに何か入れますか?」
おなかすいたと思われた?
「柔らかなゼリーとかポタージュスープとか」
「それとも似非エリクサーのお世話になりますか?」
似非?
ニッコり笑ったミネルバ卿は商品説明をするように小さなポーチを取り出した。
ポーチを捧げ持つミネルバ卿に周囲が驚愕の表情になる。
宰相の奥さんだけはきょんと首を傾げているけど…?
ポーチの中には赤、青、黄色の液体が入った管のような小瓶が1本ずつ入っている。
「セミファイナルセット!」
バルトが悲痛な叫びをあげた。
「セミファイナル?」
またよくわらかんワードが。
ニコニコするミネルバ卿の後ろで仕方なさそうにバリエが解説する。
「東の辺境伯家で開発された高位回復薬のセットだそうです、青が内臓の強化、体力改善。赤が傷回復、黄色が魔力回復だそうです。」
「それがセミファイナル…?」
「宰相は魔力枯渇で黄色い薬を飲みました」
「?」
「そのせいで今、全身筋肉痛で寝込んでます」
「何故!」
「セミファイナルとは、セミが死に際に大暴れするさまです」
魔昆虫図鑑に巨大な空飛ぶ虫の図があった、ご丁寧に人間の身長と比較図付きで…人は襲わないが芋虫状態で地中に7年、脱皮して地上では1週間くらいの寿命なのだが、死に際に物凄く暴れるので危険駆除対象になっている 暴れると地面がえぐれて近くに建物があると全壊することがあるそうな…。
「え?」
「リーダ―の新しい2つ名は「セミファイナル」です」(笑)
「えええ?」
踊る狂戦士やらプラチナ詐欺やらの怪しい2つ名の他に新たに〈セミファイナル〉…(笑)って何?。
「心停止していたのを騎士団副長が馬乗りになってその薬飲ませて生き返ったんですけど…」
生き返ったと聞いた時、ずくりと心臓が痛んだ。
「生き返った途端セミの断末魔のように大暴れしました」
「なんで!」
「よく覚えてません」でへへとミネルバ卿がテレ嗤いで頭をかいている。
嗤い方が凶悪。
「副長が卿の口塞いで馬乗りで暴れるのを止めていたのが目撃者のトラウマになりました」
騎士団副長ぉお! ホーク ゲイガン ミネルバ卿ぉおお! 弟だろコレ
ということは宰相も筋肉痛になるほど暴れたのか 同情しかない。
とてもいい笑顔でその〈セミファイナル〉を進めてくるミネルバ卿、飲まないぞ絶対!
「白湯で普通の薬飲みます」
しおしお。
薬激まずぅ! 顔には出さなかったのに、ニヨニヨ笑顔のミネルバ卿が飴ちゃんを口にねじ込んできた。
乱暴!
でもいちご味に罪はない もきゅもきゅ。
飴舐める私をニヨニヨ見つめるミネルバ卿、人の頭をもしゃもしゃしないでください。
〈生き延びれば勝ちですよ〉
頭を撫でられて思い出す 昔々、古すぎて定かではない記憶の、その声はミネルバ卿の声に似ている気がした。
余談だがミネルバ卿の二つ名、「セミファイナル」はその薬と共に封印されることとなる。
心停止30秒位なら復活可能という奇跡の薬なのに販売促進用の試供品の受け取りさえ拒否されたという。
…エリクサー並のポーションの試供品配ろうとしたのか ミネルバ伯爵家。
その試供品は王宮で厳重に保存され、ノイエクラッセ王国の七不思議に加わった。
曰く〈王宮にはゾンビ再生薬が秘されており、それを飲んだ者はゾンビになる〉と…。
試供品、いや 秘された妙薬。
間諜や捕虜で捕まるとその薬を飲まされゾンビにされ世界が終わるまでこき使われると、近隣の国々から恐れられる事となる。
まあ、それは先の話。
◾︎◾︎◾︎
襲撃事件の関係調査とアイン殿下の療養と身辺警護の強化のため、アイン殿下の関係者全員暫くこの下位貴族ファミリー用客室に留まる事になった。
しかし一番の理由が宰相閣下と共に溜まった仕事を処理するのに都合がいいから、という理由を聞いた文官達が鬼畜の所業と涙した。
「下位貴族ファミリー向け客室ねえ…地味に嫌がらせじゃね?」
ソファにもたれてグデンと溶けたバリエが呟く。
アイン殿下と宰相はちゃんとした客室だがそれ以外は侍女、侍従用の狭い部屋に簡易ベッドを持ち込まれて押し込められた。
「いやいや、上位貴族向きの客室は側妃派の連中が常用していて安全面で保証できませんから、コチラの方が保安は保たれますよ」と、バルト。
グッタリ俯くミネルバ卿。
「大丈夫ッすか? リーダー」
バルトが赤毛をみょんみょんさせながら卿を覗き込む。
みょんみょんなんだよ。
「おま…前髪みょんみょん邪魔、いっそ切れよ」
酷い言い草のミネルバ卿。
「湿布取れたら元に戻すので」
「バルト、ソレ癖付いて元戻らないぞ」
恐ろしい事実を突きつけるバリエ。
いやぁあー!
バルトの絶叫を他所に、ため息のミネルバ卿はメガネをテーブルの上に置いて両手顔を覆う。
「殿下がさぁ…俺の顔みるとビクッとして眼を逸らすのよ」
嗚呼…。
バルトとバリエが揃ってやっちまったなという顔をした。
わかるよ殿下、6歳の子供の眼の前でアレはないわ。
宰相が眼を塞いでいたのは気付いていたが敏い殿下なら音とか匂いで状況判断するだろう。
周りの惨劇を。
「トラウマになるよなぁ、目の前で頭パッカーンとか首チョンとか…首ゴキとか」
擬音も惨劇。
一人、無垢な童顔のバルトは首チョン発言にビビる。
「俺も!?」
首チョンはバルトの双剣、バルトも剣は中の中で騎士としては平凡だが、双剣を握らせれば秒殺だと今回証明された。
「ドッカンドッカン雷落としてた奴に言われたくはない」
「俺のは遠くて認識しづらいから平気」
「くっそ! 後衛が!」
認識されず殿下の御不興も買っていないと思っているらしいが、その場を現場検証をした人間にしてみれば首なし死体も黒焦げ死体も大差ない非道な仕打ちと噂されていた。
噂が殿下の耳に入るのも時間の問題であった。
「でも正直、手加減したら全滅してる」
うんうん頷く三人。
「殺る気で来たなら殺る気で返すのが礼儀でしょ」
三人とも殺意高め。
「手練れの暗殺者12人だよ? 正直三人でよくやった!」
うんうん。
一人頭4人を死体にした。
「なのに警備不手際で責められるって有りか?」
ないない 三人揃って首を横に振る。
アイン殿下に剣を向けたら殺られて当たり前と真面目に考えている3人だった。
大体護衛騎士は特定人物の護衛であって王宮内を警備する衛兵とは命令系統が違う、今回王城警備の衛兵が意図して排除され、襲撃現場に誰一人駆けつける事もしなかった。
職場放棄で現場に駆けつけることなかった衛兵はお咎めなしとなったが。
理不尽。
「第二騎士団から第三に移動って降格人事だよな?」
アイン殿下、宰相、騎士団副長、東の辺境伯家代理の嫡子、南の辺境伯家当主と侍従。 隣の部屋で五人は今後の指針を検討中。
アイン殿下後援会(仮)
が集まる前、騎士団副長から話があった。
ありえねぇと全員俯く。
「怯えられた上、降格人事で護衛騎士外されたら冒険者戻る」
ミネルバ卿の宣言にギョッとする二人、卿には本気で騎士団をブッチした前科がある。 「アイン殿下のぷにぷにほっぺ突いたり抱っこしたり俵担ぎする楽しみがぁ」
「俵担ぎは違くね?」
「冬場のぬくい殿下の子供体温が」
「変態がいる!」
「アイン殿下担ぎ上げたり大人と目線合わせるため抱っこするオレのライフワークがぁ!」
「殿下に成長期が来たら終わる短いライフワークだな!」
バリエとバルトのツッコミが冴え渡る。
アイン殿下に付けておけば役に立つ男である…が。
第二騎士団は王太子を始め王位継承権のある王子、王女他の護衛、第三騎士団は継承権の低い王族他の警護という暗黙の序列があった。
第三騎士団に移動したらアイン殿下の護衛騎士では無くなるだろう。
誰か他の奴が新しく護衛騎士になる。
ふと、真顔になったミネルバ卿が呟く。
眼が剣呑な鈍い光を帯びている。
「新しい護衛騎士はアイン殿下を守るのか?」
「「「……」」」
アイン殿下の見ていない所で雷鼠は殺意高めのラインダンスを踊り始め、火の玉はいつもの倍のスピードで飛び回り、ステーキ肉は立てた親指を下に向け、首の前を滑らせる……。
…ステーキ肉の首は何処だろう。
ミネルバ伯爵家 〈東の辺境伯家〉
の、ゆかいなご兄弟
1. 嫡男 守銭奴
2.騎士団副長 剣術オタ
3.領地経営補佐 農業チート
4.護衛騎士 凶戦士
5.学生 錬金術オタ
6.学生 芸術礼讃
7.女学生 料理、美容オタ
8.魔術オタ 腹黒
家族兄弟仲良くて、団結力高いから敵に回すとドコから報復が来るかわからんですよ。
と、一番下の弟がミネルバ伯爵家の八男と同じ学年だというバリエ談
次回、アイン殿下後援会(仮)密談。




