◎閑話休題 筋肉は裏切らない 参
予告通りの流血の大惨事です。
R指定がついたらどうしよう…。
メンタル弱い、流血が苦手な方は避けていただいた方がいいかと存じます。
◎脳筋と言う名の戦闘民族と、メガネ
誰かが、狙撃しやすいよう少しずつ家具や衝立を移動した。
王宮内を守る衛兵も見当たらない。
内部に内通者がいる。
気配を感じる間もなく近づいたミネルバ卿が私の机を蹴り上げ盾にする。
その机を片腕で支えながら私の上に覆いかぶさった。
と、同時に衝撃。
衝撃が2回、そのたびに机に白い六角形の結晶のようなものが浮かび、小さい火花が散る、その六角形の結晶のような模様は背中で机を支えるミネルバ卿から発生していた。
「ミネルバ卿?」
何故か自分も不思議な六角形の構造体に覆われている。
何? コレ。
六角形の結晶が机、ミネルバ卿、私を薄く覆っていた。
ミネルバ卿が守る為に何かした?
抱きすくめられて庇われる。
そして血の匂い。
既視感。
何度も命を守られているから、何度も同じように庇われている。
ギュッと魂が冷えて硬くなる気がする。
何度も回りの人間が大怪我をして…死んでいった。
毒味の侍女、護衛騎士、近侍…。
息が詰まって顔を上げるとミネルバ卿の顔が間近にあった。
私を抱きすくめ床に押し倒したミネルバ卿の顔はいつもの悪ガキのようなにっかりした顔ではなかった。
目が合う。
「床ドンですね」ミネルバ卿はいつものような悪ガキの顔に戻って笑った。
床ドンってなんだよ!
「全員退避!」
その場に伏せた宰相の声に文官達が自分の机の下に潜って避難する。
何処からかけたたましい警鐘が鳴っている。
敵以外は見えなくなる、普段からの避難訓練の賜物だな…ミネルバ卿推奨の。
避難せず立っている者がボウガンの男を含めて5人。
全員こちらに向かって駆けだす。
「バルト! 前衛」
3人目の護衛騎士バルド スキャン オストーゼ。赤毛の小柄なお調子者が投げられた抜き身の刃物の様に文官達の机の上を敵に向かって駆けてゆく。
何故か騎士の剣ではなく湾曲した刃を持つ朱の双剣を煌めかせ敵一人を秒殺する。
護衛騎士とは?
騎士学校出身である程度見栄えと剣の腕が立つ者。
平民でも騎士学校出身で腕が立つなら騎士爵位が貰えて騎士になれる。
バリエはいつの間にか私の背後に立ち左腕の制服の金具を一気に外し腕に括り付けてあった魔道具を起動して矢をたがえず弦を絞る。
矢のような光が正面のボウガンを構えていた敵を沈める。
魔道の弓。
実物は初めて見た 矢を魔力で形成しなくてはいけないので魔力量が多くないと扱いが面倒だと本に書いてあった。
次々と矢を放つが軌道が本物の矢と違って直線なので容易によけられている。
いや、普通は避けられないが向こうもプロなのだろう。
「ちっ!」
少し乱暴に弓を支える腕を振ると弓は自動に畳まれ、幅広な腕輪になった。
そのまま腰のポーチに見せかけたマジックバッグから長槍を取り出す。
お前も騎士の戦い方じゃないのか!
「殿下、殿下!」
マジックバックに気を取られていたらミネルバ卿が床ドンの状態で人の頬をつついて来た。
緊張感のない…。
と、私の手を取り、手のひらに遊戯板に置くような粗削りの石を置いた。
乳白色で丸く平な面に何か刻んである。
「まだ実験段階で上手くいくかわからないんですけど、これ 強く握って魔力を通すと盾が出ます」
「盾?」
「不可侵の盾のような壁です、魔法、物理攻撃を防ぎます 俺の特殊スキルです」
特殊スキル?
「身体の表面3センチを装甲で囲うことが出来るスキルです、俺と接触しているモノは全て覆います」
ミネルバ卿が机の天板の裏に手を触れると六角形の結晶のようなものが机を覆った。
また何かが当たる振動、火花が散るが、手を放すと六角形の結晶はすぐ消えた。
「お試しで知り合いが作ったんですが俺が5メートル以内にいれば俺の魔力が誘導されて、石に接触して魔力を流した者を中心に半円形に盾がでます」
そう説明してミネルバ卿が立ち上がると宰相が引き継ぐように私を抱き込もうとする。
「宰相、私の盾にならなくてもいい」
宰相は何度か私を庇って大怪我をしている。
そしてその度に宰相の子供達に睨まれた。
なんで自分達の父親がお前のせいて怪我をするのか? お前がいなければいいと…。
しかし、そんな私の思いなど気にせず宰相の手は力強く私を巻き込む。
恨まれるのは私なのに。
宰相はこの国には大事な人材なに。
私の代わりは他にもいるのに…。
いつのまにか宰相が痛ましい者を見るように私を見ていたが私は私自身に一杯一杯で気がつかなかった。 宰相は私を抱きしめる手を緩めない。
この国の王族は今、象徴でしかない。
一切の業務は宰相が選んだ一部の貴族、平民の文官達、優秀な者達が賄っている。
それが夜のノイエクラッセ。
昼の、表のノイエクラッセの国王陛下が仕事をしなくても、一部貴族達が自分の権力を振りかざそうと国を動かしているのは夜の王城の官吏、兵士、使用人達である。
昼の王城を我が物顔で闊歩する、青い高貴な血を持つ自分たちは何にもまして尊いなどと抜かす者たちは夜、仕事をしている者たちに徐々に食い込まれ、乗っ取られるだろう。
その時、私か宰相、どちらが必要かなんて自明の理である。
そんなことを考えていたらミネルバ卿が横から割り込んでいきなり私の頬を両側から指でつついていた。
何してんだよーーー! ぷにぷにするなー!
気がすむまで頬をぷにぷにしたミネルバ卿は私に握らせた石を指さした「なら、これで宰相ごと守ってください」
私と目を合わせる時はやっぱり悪ガキな顔をするミネルバ卿。
バルトとバリエが3人沈めて残り2人となった所で3階のステンドグラスを破って新手が現れた。
新に3人。
「何処からわらわら湧き出してくるんだよ、城の警備はどうなってんだ? 二兄ちゃんにいいつけるぞ」
二兄ってミネルバ伯爵家次男、王都の騎士団を実質統括している騎士団副長か?
敵を睨みながらもにかっと笑うミネルバ卿。
「これ、今は1個しかないけど、また作りますからヤバイ時は遠慮なく使ってください」
「使わないと消費期限切れますので」
消費期限って何だよ。
わしゃわしゃとヒトの頭をぐちゃぐちゃにしながらにっかり笑って立ち上がるミネルバ卿。
盾にしている机を足場に文官達の机の上に軽々と乗る。
机の上で仁王立ちになったミネルバ卿のいつもの残念なイケメンの風貌が凍る。
硬質な光を帯びる瞳、上階の敵からボウガンが発射されるが腕で矢を払う。
先ほど見た六角形の結晶がうっすらミネルバ卿の表面を覆っていた。
スキル《盾》
スキル持ちというのは希少な存在である。
騎士団や魔法師の中にも一人か二人いればいい方…。
「因みに私も雷のスキル持ちなんですよ」
私の後ろのバリエがマジックバックから2本目の長槍を取り出しながら笑って三階のボウガンを打ち込んで来た敵に向かっての投擲、発雷を纏った槍が着弾とともに轟音、雷が落ちる。
落雷の音と共に三階のステンドグラスごと敵が消えていた。
「夜間とはいえ、これだけの騒ぎに衛兵が職務放棄か…」
厳しい目で宰相が呟く。
内部の手引きがあったということ。
これだけの暗殺者が動いているのにこちらの手勢は護衛騎士三人…。
宰相は私の石を持つ手を包み込むように握りながら、雷の落ちた先を見上げていた私の眼をふさぐ。
「…大丈夫です」
だいじょばないよ。
もう防衛機構としての魔眼が発動している。
この部屋の敵の魔法攻撃は魔眼発動と同時に全てキャンセルされている。
遠隔での魔法攻撃が効かないので物理で仕留めようとしている故の手数。
眼を塞がれていても魔眼の視界で踊るようにバルトの双剣が敵の首を飛ばし、ミネルバ卿が剣を持たず素手で敵に突っ込み、投げ飛ばし、剣をいなし敵の頭を蹴りつぶすのが視える。
「護衛騎士の教育を受けている筈なのに、あいつらがアサシンのようだ」宰相が呟く。
私もそう思う。
「流石にこの人数の暗殺者相手にキレイに剣で戦う余裕がないんですよ」
ため息をつきながらバリエが呟く。
「やはり東の辺境伯家は狂戦士の家系か」
ミネルバ卿、狂戦士宰相公式認定。
だよな…今もバック転やら壁走りで敵を翻弄しながら沈めていく…素手で、素手で相手の剣の刀身を両手で拝むように挟んでバキりと折ったよ…身体能力がとんでもないなこの護衛騎士!
ゴン! と バルトの赤毛が敵に力負けて真横の壁にぶち当たるのが視えた。
力尽きたか机の下に沈んでいく。
バルトが戦線離脱したためバルトが相手していた敵が本来の目的、第一王子暗殺のためこちらに何かを発射した。
「殿下!」
バリエが叫びながら宰相と私に覆いかぶさる、宰相は私の握っている石に自分の手を重ねて魔力を注ぐ。
私たちを囲む半円形に組まれた六角形の結晶が敵の発射した何かを防ぐ。
着弾の振動と同時に爆発。
爆発の煙が引く前に既にミネルバ卿が敵の腕と仕込まれていた魔弓ごと敵が持っていた剣で床に縫い付け動けなくしていた。
と、残りの一人が折れた剣でミネルバ卿を襲う。
私たちの安全を確認しようと視線を送ったため反応が遅れたのか、折れた剣で髪の毛ごと額を切られる。
飛び散る鮮血、共にミネルバ卿のアッシュグレイの切られた髪が舞う。
ミネルバ卿の自慢していた六角形の結晶が自身を覆っていない、スキルの盾が発動しない?
私達は六角形の構造体で出来た盾に覆われ、保護されている。
自分が覆われている結晶が何処から来ているのか。
…心臓がバクバクする…汗が背中を伝う、視界がくらくらする。
震える手で石を放そうとすると宰相が強く手を握っているので手放せない。
魔力は宰相が石に流している。
私の眼を塞ぎ、身体を覆うように被さっている宰相。
宰相には私が魔眼でミネルバ卿が死ぬのを見たから自分の護衛騎士から外して欲しいと告げた。
だから尚更、例えミネルバ卿が死んでも宰相は私と石を放さない。
塞ぎたくても塞げない魔眼の視界の先。
敵は折れた剣の先を何かの力で覆って刀身の代わりにしている。
魔力なら魔眼でキャンセルされているだろうそれはスキル。
光の消えた硬質な瞳でうっすら笑うミネルバ卿は装備のマジックバックから細い刀身の剣を出す。
支給の騎士の剣ほどの長さだが半分程の幅の細身の片刃の剣。
鍔は丸く持ち手に紐のようなものが巻き付けてある。
図鑑で読んだことがある東の辺境で作られる刀。
ガンガンと撃ち合うがミネルバ卿の部が悪い。
額の流血が顎まで滴り左目の視力を阻害しているのか動きが悪く、剣の腕前は多分敵の方が上手に見えた。
「動き早すぎ!」
バリエが魔弓を構え直したが援護射撃を送れないでいる。
「恨まないでくれよ」
バリエがぼそりと呟き、マジックバックから槍を出す。
ミネルバ卿ごと敵を吹き飛ばす気?
動こうとしてもガッチリ宰相がホールドして動けない。
そんな時、剣を合わせていたミネルバ卿の間合いが一瞬ズレた。
敵はそのズレた間合いを見逃さなかった。
本当に一瞬だった。
バリエが投擲する一瞬前、敵の剣がミネルバ卿の胸に沈む。
ミネルバ卿の刀が床に落ちた。
周りの人間の動きが凍りつく。
なのにミネルバ卿は笑っていた。
人として何かが壊れたような笑い。
ゾクリと背中に何か走った。
そして敵を抱きすくめるように首に腕をかける。
ゴキりと、……双方床に沈む。
頭が心が考え、理解することを拒んだ。
理解したらミネルバ卿がいなくなる、理解を拒否した分自分の時間だけが間延びしていた。
〈大丈夫、生きてたらそれだけで勝ちだよ〉
誰かの声がした。
昔々…ずっと昔に誰かが言った。
抱きしめられる記憶にはいつもどこか血の匂いがした。
入り口付近から大勢の人の気配がして顔をあげたら騎士が複数走り込んで来るのが見えた。
中の一人はミネルバ卿によく似た黒髪の男。
ミネルバ伯爵家次男、王都騎士団統括局 副長、ホーク ゲイガン ミネルバ。
彼は敵と重なり合ってぴくりとも動かない弟を見つけると流石ミネルバ卿の兄と言われるスピードで弟の側に立ち、仰向けにして状態を確認した。
と、険しい顔で弟に馬乗りになり、乱暴に顎を持ち上げ、用意した青の管のような瓶の中の液体をこじ開けた口に注ぎ込んだ。
結果、ミネルバ卿は息を吹き返えした。
息を吹き返した瞬間、昆虫のセミが最後の力で暴れ回るセミファイナルな動きで暴れ回るミネルバ卿と、暴れる弟に馬乗りになって押さえつける兄に周りで見ていた全員がドン引きした。
何で死にかけの弟に馬乗りになったか全員が理解した。
瀕死の重症だった傷も赤い瓶である程度治ったが、やはりセミファイナルを繰り返し、騎士団内に恐怖伝説を作り上げた…らしい。
東の辺境伯謹製特級ポーション 別名、エセエリクサー…。
ミネルバ伯爵家三男作成で弟に使ったのが初人体実験だったらしい。
後一回、後始末したら本編へ戻ります。
本編はじっちゃんと孫でわははウッキー…しません。
乙女ゲームは誰その野望に乗っ取られそうです。
……色恋、遠いなあ…。




