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8.帝国王子オルガ

エロ度強め回。苦手な方はブラウザバックでお願いします。

その夜、与えられた一室で事を終えたオルガは片腕にミラリアを抱きながら、天井を見つめていた。


「怖い顔。なにを考えていらっしゃるの?」


ミラリアの問いにオルガはしばらく黙っていたがやがて口を開いた。


「王太子の新しい婚約者、名は何と言ったか。あれは何者だ?」


夫の口から他の女の話が出たことにミラリアは面白くなかったが答えてやった。


「シャイエ侯爵家の娘ですって」

「シャイエ?」

「そう、極貧侯爵家よ」


そう言ったミラリアは意地悪そうな顔をしている。


「どんな女だ」


リディアーヌのことをしつこく聞いてくる夫にミラリアはイライラし始める。


「知らないわ、着飾ることもできない貧乏侯爵家の娘なんか社交に出てくるわけがないじゃない」


ミラリアの言葉に、オルガは冷たく言った。


「調べてこい」

「なんでわたくしがそんなこと」

「調べろと言っている」


オルガの低い声にミラリアは思わず息を飲んだ。







帝国は常々、メルシアンを属国にしたいと考えていた。その糸口を求めて、オルガは建国祭に参加するというハーパスに同行をねじ込みメルシアンを訪れたのだ。

ハーパスには彼なりのプランがあった為、オルガに邪魔をされては困ると療養地に彼を押しとどめておくことにしたのだが、そこにミラリアがきてしまった。


客のもてなしは王太子の領分である為、婚約者の彼女が客の滞在する療養地を気にかけるのは間違ってはいないのだが、オルガが帝国の王子だと知った彼女は自ら彼の寝所に忍び込んだのだ。


裸同然の夜着をまとって現れたミラリアをオルガはメルシアンが用意した商売女だと思って抱いた。

事を終え、先ほど純潔を奪った女が王太子の婚約者だと聞いてオルガは慌てた。明らかにこちらに非がある形でメルシアンとの間に確執を生むようなことをしでかしてしまったのだ。

しかしすぐに、これを利用してメルシアンを貶めることを考えついた。王太子の婚約者を帝国に差し出さねばならないほどに国力差があると内外に見せつけようとしたのだ。


それなのにあろうことか不可侵条約を締結させられてしまった。その知らせを受けた帝王の怒りは凄まじいものだった。


ミラリアにはそこまでの価値はない、オルガは当然、条約など突っぱねるつもりでいた。しかし、常日頃からオルガに怒鳴りつけられていた彼の側近は、ミラリアを手に入れられないオルガの怒りを恐れて、締結にこぎつけてしまったのだ。

その側近はもうすでにオルガの手によって殺されている、条約締結完了の知らせを持ち込んだ彼をオルガは怒りのままにその場で切って捨てたのだ。最後まで主と分かり合えない可哀そうな側近だった。


ともかく、条約が締結されてしまった以上、別の手段でメルシアンを手に入れなければならなくなった。そこでオルガは内側から崩すことを考え、メルシアン王政に不満を持っていそうな貴族との接触をすべく、この式典に顔を出したのだった。









「ふふふ。わたくしの助けが必要なのね?」


オルガの怒りに気づかないミラリアは彼にぴったりと体をよせてくる。なめらかな素肌と豊かな胸のふくらみにオルガのそれは反応をする。


「そうだ、お前が必要だ」


オルガがそれをミラリアに押し当ててやれば彼女は期待に顔をほころばせる。


「愛してくださったら、わたくし、きっと頑張れるわ」


ミラリアから出された交換条件にオルガは内心で反吐を吐きながらもそれに付き合うことにした。彼のそれはもう熱を帯びていて吐き出さない限りどうしたって眠れそうもなかったからだ。


「わかった」


オルガはミラリアに覆いかぶさると、今夜だけでもう何度目になるかわからない行為にふけった。



組み敷かれて嬌声を上げるミラリアを乱暴に貫きながら、オルガはそれを冷めた目で見下ろしている。


愛した女が毎晩、他の男に抱かれる様を想像し、はらわたが煮えくりかえっているのはクロヴィスもオルガも変わらない。

オルガは帝国の第一王子妃に思いを寄せているのだ。彼が執拗に次期帝王にこだわっているのは、ただ彼女を手に入れたいがためであった。自分が王位継承第一位の座を奪えば、妃教育の済んでいる彼女をその座に据え置いてもおかしくはない。


そんなオルガの心の内を悦びに震えるミラリアが気づくはずもなかった。







式典の期間中は各国の重鎮が集まっているため、会合が頻繁に開催される。


帝国の代表として参加しているオルガも忙しいようだったが、対する彼の妃であるミラリアは暇を持て余しているらしい。


平民の間では救国の聖女として崇拝されている彼女ではあったが、それを鵜吞みにするような貴族はいない。メイルーナが言っていたように、社交界の人々はミラリアがクロヴィスを裏切ったと知っている。

そんな彼女を茶の席に誘う者はおらず、結果としてミラリアはなにもすることがない毎日を送っていた。



リディアーヌも決して暇ではなかったのだが、帝国の王子妃を放置しておくのは外聞が悪く、彼女の為に茶会を催すことにした。

比較的、ミラリアと親しかったメンバーを招待しての茶会だ。

メルシアンにいた頃を思い出して楽しんでもらえればいいと考えての開催だったのだが、そのリディアーヌの思いをミラリアは見事に裏切った。





「皆様、ごきげんよう」


会場の庭園を訪れたミラリアはその時点で三十分の遅刻だった。


王宮に客室を用意されている彼女が会場から一番、近い距離に滞在している。それなのに遅刻をしてくるというところからしていろいろと問題があるのだが、そのうえ彼女は謝罪するでもなく、遅れて来るのが当然であるかのように優雅な物腰で現れたのだ。

確かに国力差を考えたら帝国の王子妃となったミラリアのほうが上かもしれない。


だが、リディアーヌの将来はメルシアン国王の妃だ。一国の元首のそれと第三王子のそれ、どちらが上かは一目瞭然である。


にもかかわらず、明らかにメルシアンを下に見ているその態度に集まった婦人たちは当然、いい顔はしなかった。


「ようこそお越しくださいました」


リディアーヌは努めて穏やかな口調でそう言い、歓迎の意を伝える。

この場でもっとも高位なリディアーヌが彼女の遅刻を許し、歓迎することで、集まった女性陣もそれに賛同せざるをえなくなるからだ。この茶会は退屈しているであろうミラリアの為の催しであって、諍いを起こすなどもってのほか。


「ミラリア妃殿下、こちらのお席にどうぞ。皆様、妃殿下とのお話の機会を楽しみにしていましたのよ」


リディアーヌが自分の右隣の席を勧めた。最上位はホストと決まっている為、ミラリアに用意された席は来客の中ではもっとも高いものとなる。

それに満足したのか、彼女はおとなしく席に着き、居並ぶ婦人たちを眺めた。


「おひさしゅう、お変わりないようで」

「妃殿下も相変わらずお美しくて」


代表して公爵令嬢がそう言うとミラリアはまんざらでもないような顔をして答えた。


「帝国でいろいろと学びました、美しさを保つのは女性のたしなみですからね」


そしてさりげなくティーカップを持ち上げ、爪の先で光る小さな宝石を見せつけている。


「まぁ、爪先にまで宝石をあしらっていらっしゃるなんて」


ミラリアと一番親しくしていた令嬢がそう言った。彼女はミラリアという人間をよく知っている。どのタイミングでどういう発言をすればミラリアが喜ぶのかを熟知しているのだ。

取り巻きだった令嬢のアシストにミラリアは微笑んだ。


「これくらい帝国では普通よ。あちらでは指先、爪の先まで美しく飾り立てて初めて淑女と認められますの」


そのあとも帝国の美意識がどれだけ高いのかを言って聞かせるミラリア。それに憧れの眼差しを向けて熱心に聞き入っている令嬢もいたが、大半は白けている。


というのも、ミラリアはいちいち、帝国では普通だ、と宣言してから本題に入るのだ。聞きようによっては、メルシアンではこんなこともしていないのか、と受け取れるその枕詞はあまり良いとは言えない。

帝国の話題から離れさせるべく、リディアーヌは式典について語った。


「この式典では花飾りが流行っているそうですね」

「王都は花で溢れていますわね」


リディアーヌの持ち込んだ話題に白けていた側の公爵令嬢が参加してくれた。彼女も話題を変えるべきだと考えていたのだろう。


「噴水広場の一角をご覧になりまして?珍しい異国の花が飾られていますわよ、なんでも水を好むお花だとか」

「わたくしも見ました、真っ青な色彩が涼しげで」


他のひとたちも参戦し、ほっとしたのもつかの間、またミラリアが、帝国では、と語り始めた。


「あら、帝国では普通のことよ?デュエリ家には各国の花々を集めた植物園がありますの。せっかくだから皆様にも開放して差し上げてますのよ」


ミラリアの取り巻きだった令嬢は、おうらやましいですわ、と言ってみせたが、それに追随する者はさすがにいなかった。


というのも、公爵令嬢がわざとばさりと大きな音を立てて扇を広げたからだ。


そして彼女は口元を隠して、


「ミラリア妃殿下は嫁いだばかりだというのに、婚家のことをよくご存じでいらっしゃいますのね」


と言った。


『縁付いたばかりの新参者のくせに厚かましい』


言外の言葉が聞こえてくるような物言いにミラリアの顔色が変わる。


「わたくしの嫁ぎ先は帝国の元首、デュエリ家です。事業を把握しておくことは当然ですわ」

「正しくは、元首の三男の妻、ですけれどね」


誰かが聞こえるような小声で指摘し、ミラリアはさっと顔を巡らせて言った。


「今のはどなたの発言かしら?」


しんとして誰も口を開こうとしない。そんな中でミラリアは続けた。


「わたくしの夫は帝国元首の直系です。このわたくしを愚弄することは帝国を敵に回すのと同じこと。それを分かっておいでかしら?」


すると公爵令嬢が声を上げて笑った。


「帝国が敵だなんて、おかしなことをおっしゃいますわね。救国の聖女の存在が両国間に強い繋がりをもたらしたのではなく?」


庶民たちの間では、クロヴィスを慕うミラリアはメルシアンの為に泣く泣く帝国に嫁いでいったことになっている。この婚姻をもって両国間には不可侵条約が結ばれたというのに、当の本人が侵略をほのめかすなどありえない。


言い返せないミラリアを尻目に、公爵令嬢は悠々と立ち上がってリディアーヌに言った。


「シャイエ侯爵令嬢、場を乱してしまったことをお詫び申し上げます」


彼女はリディアーヌにはきちんと謝罪をし、お辞儀(カーテシー)をして退場してしまった。すると他の令嬢たちも次々にリディアーヌに断りを入れて、帰ってしまう。


先に帰る場合はその場で最も高位な者に挨拶をすることがマナーだ。彼女らはクロヴィスの婚約者であるリディアーヌが最も高位であると判断して、挨拶をして出て行ったのだが、帝国王子妃となり、誰よりも高位であると自負しているミラリアに許せることではなかった。

扇を握りしめていらだちを隠そうともしないミラリアを前に、リディアーヌはこの茶会が失敗に終わったことを痛感したのだった。

お読みいただきありがとうございます

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