武器......?
――――俺がこの世界に生まれてから10年経った。
魔王「ヴァライド・ルーク」の息子として生まれた俺、尾崎神羅改め「ヴァライド・アラン」は、前世の家の20倍はあるであろう魔王城で、当たり前のようにある図書館にてこの世界についてひたすら知識を蓄えていた。
この世界では漫画でよく見る武器や魔法や生物がそこら中にありふれているし、勇者なんてのも存在しているらしい。魔王の息子である俺にとっては天敵だが......
「我が息子よ~!!!」
うげ、めんどくさいやつが来た。と、少なくとも魔界のトップであり自らの父親に思っていいことではない思考を巡らせる。魔王っていうのはもっと上に立つ者としての威厳や、圧倒的な威圧感があるもんじゃないのか?少なくとも、今俺に抱き着いてきたこの魔物にはそんなものは全くない。
「放してください、父上。」
「何故だアラン!! 字を読めるようになってからというもの、ずっと本を読み続けて父上には全くかまってくれないじゃないか!!」
「魔王様ならそれくらい耐えられるでしょう。」
「魔王にだって心はあるんだよ!!」
「はぁ......シーシャ! 父上を仕事に戻らせてくれ!」
「畏まりました、アラン様。」
こいつは使用人のシーシャ、ぶっちゃけ父上よりずっとずっと頼もしい。なぜシーシャではなく父上が魔王なのだろうか。
「さぁ魔王様、行きますよ!」
「嫌だ! もう仕事はしたくないんだ! 助けてくれアラン!」
「行ってらっしゃい、父上。」
泣き叫びながら引きずられていく情けない魔王を見送りながら、本のページを一枚めくる。日本語とはかけらも似ていない言語に最初は戸惑ったが、最近ようやくスラスラ字を読めるまでになってきた。
さっきの話の続きだが、人間の国と魔物の国は対立関係にある。最近魔物たちが活発になっていて、困った人間達の間に「1000年に1人の逸材」とやらが生まれた、それが勇者だ。なんでも、武器も魔法も200%の威力を出せる上に、魔物を使役し仲間にする<使役者>の異能まで持っているらしいし、父上率いる魔王軍も抜き取られたり倒されたりで、手を焼いているんだとか。勇者のほかにも冒険者は多数居て、魔物の数は年々減ってきている。
魔王の息子である俺も、将来魔王軍の一員となり人間と争うために訓練を強いられている。が、ぶっちゃけ俺は戦いたくない。元々人間だったから情があるとか、そんなわけではない。地球に居た頃は虫も殺せなかった平和主義者な俺を戦わせるなんてどうかしてるぜ。
だが残念なことに、魔物の中でも最強を誇っている魔王の息子である俺に、戦闘の才が無いわけがなかった。
<能力鑑定>という魔法がある。これは人間にも魔物にも使えて、体力や攻撃力など6の基礎能力を数値化して教えてくれる。
一般成人男性のステータスの平均値がこんな感じだ。
体力:30
攻撃力:20
素早さ:20
防御力:20
器用:20
幸運:15
まぁしっくりこないだろう。上四つと幸運は見たまんま、器用ってステータスは職業で使う道具や武器をいかに上手く使いこなせるかの数値だな。では次に俺のステータスだ。
体力:120
攻撃力:210
素早さ:300
防御力:150
器用:150
幸運:150
と、全てにおいて成人男性の数値を大きく上回っている。これで俺はまだ10歳、成長途中なのだ。
なろう系は前世ではあまり好きじゃなかったんだがな......
これは魔物達の中にしてもずば抜けている数値だ。そんなステータスを持っている俺が放っておかれる訳もない。今はのらりくらりと訓練を避けてこれているがな。
因みに父上のステータスも見ようと思ったのだが、なんとキャンセルされてしまった。魔王という肩書は伊達ではないらしい。
さて、ここはステータスの数値や才能によって魔法が使える世界。いたいけな男子高校生だった俺は無論テンションが上がっていた。炎やら風やらが自分の手から出せるとなれば、大抵の男子はテンション爆上がりだ。魔法について詳しく書かれている本を読み漁り色々試したりもした。だがあくまで俺にあるのはステータスの数値のみであり、残念ながら才能はなかったようだ。
よって今俺にできる魔法は初級魔法の<無音移動>と<思考送信>、あとはさっきも言った<能力鑑定>のみ。簡単に言えば、音を立てずに歩けて声を出さず思考を届けられる。ついでに相手の能力値がなんとなくわかる。学生時代の俺と似てあまり目立たない魔法で、基本真正面からの戦闘で役立つことはない。
こんな感じで何をするにしてもどうしてもあと1ピースが足りず、モチベーションが無くなってしまったわけだ。今日も腹痛と理由をつけて訓練を休んで本を読んでいる。
「アラン様、お食事の準備が出来ております。」
「おぉ、今行く。」
そういえば、シーシャは俺が訓練をしていないことを責めもしないな。
「なぁ、シーシャ。」
「どうなさいましたか?」
「シーシャは俺が訓練に参加しないことについて何も思わないのか?お前の勘の鋭さからして、俺が訓練を意図的にサボっているのにも気づいてるだろう。」
少し考える素振りをして、シーシャはこう言った。
「アラン様はお強いですから、訓練など不要でしょう。あれは弱き魔王軍の兵士たちを徹底的に育て上げる為ですし。」
「ふぅん......」
俺が強い、か。まぁ仮にも魔王の子だし多少は盛ってみられるのも無理はない。それより今日の飯について考えよう!この世界での飯は地球と何ら変わらないからな!今日はカレーの気分だ!
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更に五年が経過し、俺は15歳となった。
魔物の国では、15歳になった子供達が大人へとなるための儀式がある。全国どこでも儀式はやっているらしいが、今回俺は魔物の国で最も栄えているであろう、総人口2000万の王都バロンにて行われる儀式へと参加する。東京も確かそのくらいだったか?儀式の手順はこうだ。壇上に立ち、悪魔に祈りを捧げ、その祈りが終わった時にその者に最も適性のある武器が空から降ってくるらしい。一般的には剣や杖、槍や鎌なんてかっこいい武器もあるが、木の枝しか貰えない魔物もたまに存在するらしい。
そんなわけで俺は父上に言われ儀式が行われる場所の前までやってきた。実は俺は魔王城から出たことは一度もなく、あったことのある魔物は大抵俺より年上の兵士か使用人くらいだったので、少しばかりの嬉しさと緊張を胸に秘めていた。にしても、さっきからずっと視線を感じるんだが、気のせいか......?
「お、あんたもしかして魔王の息子君かい!?」
「ガッ......!?」
突如後ろから大声を出しながら肩を組んできた男、その力の強さは思わず首が持ってかれるかと思う程だ。現れたのは金髪で如何にも筋骨隆々と言った感じの大男。身長は優に180は超えていそうだし、筋肉量だけなら父上を超えるんじゃないのか?いや、それよりも今「魔王の息子」と言ったよな。俺はそこまで有名なのか?
「如何にも俺は魔王ヴァライド・ルークの息子、ヴァライド・アランだが......なぁ、どうして俺のことを知っているんだ?」
「あ? どうしてって......アンタ、知らねぇのか? お宅の魔王さんはアンタの写真を全魔物に配ってんだぜ? やばいくらいの親バカっぷりで俺の家族はみんなドン引きだ! ガハハハハ!」
あ......あんのバカ!!! さっきまでの視線もそれが原因か!!! 帰ったらとことん問い詰めてやる!!!
「はぁ......分かった、ありがとう。それで、君は誰なんだ?」
「おっとわりぃ、自己紹介が遅れたな。俺はロイド・ランギース! いずれお前の親父を超えて魔王になる男さ! ランギースって呼んでくれ!」
「そうか。じゃ、俺はこれで......」
「おいおい! 随分ノリわりぃな!せっかく仲良くなったんだから一緒に行こうぜ!」
「いや、別に仲良くなったわけでは......」
「うるさいうるさい! 自己紹介と少しの会話さえありゃ仲がいいも同義だぜ!いいからほら、いくぞ!」
うるさいやつに捕まってしまった......まぁいい、気を取り直して行くとするか。
そうして俺とランギースは施設内へと足を運ぶ。内装はまるで、地球で言うところの協会のようだった。ただ信仰しているのは悪魔なのと、毎年5万人の魔物がここに訪れることもあり中は相当広かった。儀式の期間は三日間、その間に祈りを捧げなかった魔物は悪魔に食い殺されるなんて都市伝説もあるらしい。
「うおー! めっちゃ広い! どんな武器が貰えるんだろうなぁ! わくわくすっぜ! なぁアラン!」
「あぁ。そうだな。俺としてはただの木の枝とかでなければそれでいいが......」
雑談を交わしながら壇上へと歩みを進める。今回の儀式で貰える武器は、そいつのための世界にただ一つの、いわばオーダーメイドだ。せっかくならいい武器を引いておきたい。
ついに檀上の目の前につく。先にランギースが壇上へと上がり、祈りを捧げる。30秒ほどたっただろうか、突如としてランギースの頭上が眩く光り始めた。そこから生成されたものが、ゆっくりランギースの前へと落ちる。目を開けたランギースは、さっきまでの様子と一変し、顔から飛び出んばかりの笑顔でこちらを向いた。
「うおおおおおおおおおお!!! すっげぇぇぇぇぇぇ!!! 見ろアラン、これが俺の武器だ!!!」
そういってランギースが掲げた武器はまさしく戦斧、意外だったのは全体が金色の光を放っていたことだ。
「金ぴかの斧なんてぜってぇつええぜ! こりゃアランにも超えられねぇんじゃねぇのか~?」
「む......俺はもっと凄い武器を出せる。」
「言うねぇ! じゃ、見せてもらおうか?」
少しカチンとして言い返してしまった。だが、俺だって仮にも魔王の息子。今に常人では考えもしないような武器を出してみせる。
先程のランギースと同じように壇上に上がる。その身をかがませ、体の前で手を合わせる。合わせた指の一つ一つを交差させ、目を閉じ、祈りを捧げる。前世の俺は無神論者だったが、悪魔に祈るというのは違和感がある。しかし言い返した手前、ここで木の枝なんて引こうものなら俺は恥ずかしさでもうお天道様の下を歩けないかもしれない。もうこの際悪魔でもなんでもいい。
「俺に、力を。」
口に出ていたかは分からない。ただ、そう願った瞬間、目を瞑っていても分かるほどの光が頭上に現れた。後ろでこれを見ているランギースの目は大丈夫だろうか。俺の目の前にゴトッと鈍い音がして、パッと目を開ける。するとそこには――
――女の子が横たわっていた。
こんにちは、あるいはこんばんは。なんとほぼ二か月振りの更新となります。前の話で不定期とは言ったし、こんな話を待ってくれている人はいないとは思いますが、大変申し訳ないです......
しかもこの文字数、もう少し早くかつ濃い話を制作出来るように精進致しますので、何卒温かい目で見守っていただけるとありがたいです......