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VRで出会ったゲーム内の女友達が「次会ったら付き合おう」と約束していた引っ越しで疎遠になった幼馴染だった

作者: テル

「約束、絶対約束だよ! また会お! それで次会ったら私の彼氏になってね!」


 小学生の頃の記憶、下田 翔紀(しもだ しょうき)には幼馴染がいた。

 苗字は忘れたが名前は今でもしっかりと覚えている。

 秋葉(あきは)だ、翔紀はよく『あーちゃん』と呼んでいた。


 何せ初恋の人物だったのでよく覚えている。

 残念ながら引っ越ししてしまってその恋は叶わずじまい。


 お互いに好き合っていたことは分かっていたので次会ったら付き合うという約束を交わした。


「うん! 約束!」

「私とまた会うまで他の彼女絶対作らないでよ!」

『指切りげんまん、嘘ついたらはりのーます。指切った!』


 あれからかなりの時が経ち、翔紀はもう高校生になっていた。

 秋葉は今どこで何をしているのだろうか。

 小学生だったとはいえかなり可愛かったので彼氏とか作ってるかもしれない。

 一方の翔紀はあれから恋愛らしい恋愛はできていないのである意味約束を守っている。

 

 お互いに幼かったので連絡先が入手できず、秋葉が何をしているかは知らない。

 ただもう一度会って、話はしたいなと思う。

 

 初恋の人である前に大親友でもあったから。

 会って、あの頃の約束について一緒に笑って話したい。


 ***


「うう.....ああ......」


 翔紀は呻き声を上げながら寝起きで重い体をベッドから起き上がらせる。

 どうやら夕方に疲れてベッドでスマホを見ていたら寝落ちしてしまっていたらしい。


 何か懐かしさを感じる夢を見た気がするが夢の内容が詳しく思い出せない。

 夢の内容を思い出そうとしてもうまく出てこないのはあるあるだろう。

 

 翔紀はスマホを手に取って時間を確認しようとした。

 すると『あっきー』から大量の通知が届いていた。


 あっきーはVRゲームで知り合ったゲーム内の女友達だ。


「今は二十時十分......あ、そうだ! 二十時からクエストの約束してたんじゃん!」


 翔紀は今日一緒にクエストをやろうとあっきーから誘われていたのにそれをすっぽかしていた。

 急いでパソコンとアプリ起動してVRゴーグルを頭に装着した。


「待ち合わせ二十時なんですけど? 女の子待たせすぎじゃない?」

「すまんすまん、寝てた」

「余計に腹立つんですけどー! クエスト行く約束してたじゃん」

「いやあ、悪い悪い。でも十分の誤差だから許してくれ」

「装備奢りね」

「......流石に二人分は高いから無理」


 VRゲームのホームに行くと怒ったエモーションをしながら待っていた。


 このVRゲームは『アドラント・ワールド』と呼ばれるもので様々な機能が搭載されている。

 アドラント限定のゲームがたくさんあり、コミュニケーションも無論できる。

 許可すれば様々な人の世界に入ったりできるのでこうして待ち合わせできるのだ。


 そうして翔紀はあっきーと約束していたゲームの世界に入る。


 ダンジョンを一層、二層、三層と順調にクリアしていった。

 翔紀とあっきーは同じぐらいのVR歴で年齢も本当かは分からないが同じときた。

 だからかそこそこのコンビネーションで敵を倒せている。


 そして二時間が過ぎたあたりでアイテムが不足して来たので切り上げることにした。


「毎月のことだけどダンジョン報酬美味しいよね」

「だな、毎回敵も違ってやりごたえもあるし」


 ゲームの世界から出て、翔紀たちはホームでそんな話をする。

 ほぼ毎日のように話しているので顔は見えなくても会話はリア友と話す時の雰囲気だ。

 

「そういえばさ、今度さっきのゲームのコラボカフェやるの知ってる?」

「あー、知ってる。流石の人気っぷりだよな。あのゲームだけやってる人多いし」

「......行く予定とかある?」

「いや、ない。東京でギリギリ行けない距離にはないけど遠いは遠いし、そこまでして行く気はない」

「そっか......でも今日待ち合わせ遅れたよね?」

「お、おう、そうだな」

「じゃあ一緒に行かない? それでチャラにしてあげる」

「ん? え? ちょっと待て、オフで会うってことか?」

「うん、そういうことになる」


 あっきーがさらっとそんなことを言うので翔紀は驚く。

 たしかに同級生らしい上に気の知れた仲だ。

 とはいえネッ友とリアルで会うのはまた別になってくる。


「その......あっきーはいいのか? 俺、男だぞ」

「オフで会って事件に巻き込まれたりした人もいるけど......そんなこと気にしてる時点でショーは安全でしょ。あと私、空手の組み手の方の大会で準優勝したことあるから平気」


 あっきーは明るい口調でそう言う。

 

 それはそれで翔紀側が怖いがリアルで会って話したいとは思っていた。

 あっきーはゲームだけでなくアニメも見ていたり、その中でも好みが同じだったりと気の合う仲だからだ。

 

「俺は行きたいんだけど、俺でいいの?」

「うん、逆に周りの友達にそういう趣味持った人いないからさ。でもかと言って一人では行きたくないっていう」

「なるほど、わかった、行く」

「ありがと! じゃあ予約は私がしとくね」


 あっきーはそう言ってグッドマークをモーションで行った。


 別に翔紀の知らないゲームではないし、友人と行けると言うなら話は別だ。

 

 翔紀は同じモーションをあっきーに返しておいた。


 ***

 

「服装とか、大丈夫だろうか」


 当日の朝、待ち合わせ場所のベンチで服のほこりを落としたり、シワを伸ばしたりしながらあっきーを待つ。

 ネッ友とはいえ相手は女子なのだ。

 身なりの意識くらいは少なからずしてしまう。


 そうして待っているとあっきーから「着いたよ! 白の帽子被ってる人が私」とメールが送られてくる。

 翔紀はベンチから立ち上がって辺りを見渡す。

 しかし白の帽子の情報だけでは他にもいたので分かりにくかった。


 すると、右肩をトントンと叩かれる。

 横を見れば白の帽子を被った女性が立っていた。


「ショーであってる?」

「あ、どうも、あってるあってる」


 翔紀はあっきーの容姿の整いぶりに驚いてしまう。

 長い黒髪に、帽子を被っていてもわかる瞳の潤い、肌も綺麗だ。


 そんな人がゲーム中に稀に暴言を吐いているとはにわかに信じがたい。


「リアルのショーってこんな感じなんだね......声はショーだけどアバターじゃないから変な感じ」

「俺も驚いた......あっきーって意外に可愛いんだな」

「意外にって何よ」

「いや、暴言吐いてる普段のあっきーとは想像つかないかなと」

「そんなに普段から暴言吐いてないからっ!」


 あっきーはそう言って笑みをこぼす。


 最初だけ、少し気まずい空気だったが段々といつもしている会話の雰囲気になっていく。

 しかし会話の中でリアルでもあっきー呼びは少し馴れ馴れしいだろうか。


 そう思った翔紀は聞くことにした。


「なあ、あっきー呼びの方がいい? それとも秋葉?」


 あっきーの本名は百井 秋葉(ももい あきは)だ。

 リアルで会うということで教えてもらった。

 

「リアルであっきー呼びされると変な感じする。出会って間もないのにあだ名で呼ばれてるみたい......秋葉でいいよ。私もじゃあ翔紀って呼ぶね」

「わかった......ていうか、あっきーって秋葉からもじってたんだな。直球すぎないか?」

「それ言うんだったらショーだってそうじゃん」

「たしかに、お互い様か」


 そうしてコラボカフェの予約時間まで東京観光を楽しんだ。

 やはり趣味の合う仲間との遊びは楽しく、遠慮せずに楽しむことができる。


 だからか秋葉とはリアルでも前から友達だったかのように錯覚させた。

 仕草や雰囲気、顔の表情にどことなく見覚えがあったのだ。


 そして気づけばコラボカフェに入れる時間になっていた。


「もうそろそろ行く? コラボカフェ」

「そうだな......あ、お手洗いだけ行って来ていいか?」

「わかった、ここで待ってるね」


 翔紀はトイレに行って高まった自分の心を一旦落ち着かせる。

 手を洗う際に鏡を見れば無意識のうちに自分の顔に笑みが浮かんでいた。


 ここまではトラブルなく、楽しむことができた。

 しかし東京ということも会って人が多いからだろうか。


 お手洗いを済ませて、トイレから出た後、秋葉は一人の男性に絡まれていた。

 ナンパというものだろうか。

 秋葉が困った顔をしながら会話をしている。


 翔紀は秋葉の元に駆け寄った。


「いいじゃん? 俺と遊ぼうよ」

「お待たせ......彼女にどうしたんですか?」

「あー、え、彼氏......? い、いや、ちょっと暇だったからさ。会話相手になってもらってただけ」


 男性はそう言って立ち去っていった。

 秋葉の方を見れば安堵したような表情を浮かべていた。


「あ、ありがと、翔紀......男な部分あるんだね」

「どういたしまして、いつもの仕返しに放っておこうか迷ったけどな」

「ひどっ」

「ああいうのよくあるのか?」

「あるよ、たまにだけどね」


 秋葉はそう言って苦笑いをする。


 翔紀だけでなく周りから見ても秋葉は可愛い部類に入るということだろう。

 成人が高校生をナンパするのはどうかと思うが秋葉の発言がそれを証明している。

 

 そう思うと謎に緊張して来たが秋葉の発言があっきーと重なるのですぐになくなった。


 ***


「そういえば翔紀って彼女いるの?」


 店で買ったパフェを食べながら都会の道を歩いていると秋葉がそんなことを言う。

 分かりきった質問だろうにわざわざ聞くのはどうなのだろうか。


「いる訳ないだろ。いたらリアルで会ったことない女子と二人でデートなんていってない」

「あはは、それもそっか。でも女子とデートくらい行ったことはあるでしょ?」

「いや、ない」

「え? 本当!? じゃあ私が初めて?」

「一応、そういう......ことにはなるな」


 翔紀は思い返せばこれが女子との初デートであることに気づき、少し恥ずかしくなってしまう。


 リアルでは一緒に遊びような女友達が全然いない。


 初デート、秋葉に変な人だと思われなかっただろうか。

 女友達というよりネッ友という感じで喋っていたが馴れ馴れしすぎただろうか。

 振り返っても遅いのに翔紀は心配し始めてしまう。


 しかし横の秋葉の笑顔を見てそんな不安は吹っ飛んだ。

 可愛らしい笑顔に行ってよかったなという感想が自然と出てしまったのだ。


「初めて奪っちゃった」

「紛らわしい言い方するな」

「あはは......じゃあ恋愛経験ないって訳だ」

「あるにはあるけど最新が小学生」

「小学生で止まってるんかい、でもそれはそれで気になる」

「え、気になる?」

「うん、聞きたい」


 翔紀は仕方なく小学生の頃の話をすることにする。


 聞いても正直、小学生らしいという感想で終わってしまうだろう。

 しかし期待の眼差しで見られてしまったので語り始めた。


 ***


 翔紀には幼稚園からずっと一緒で家も近所の幼馴染がいた。

 

 幼稚園内でも仲が良く、幼稚園が終わった後も日が暮れるまで遊んでいた。

 お互いの家に行って何度遊んだし、お泊まりもした。

 ほぼずっと一緒にいた幼馴染。

 

 小学生に上がってもそんな日常は変わらなくて、クラスが一クラスしかなかったから毎日一緒だった。


 そんな幼馴染に対して好意を抱いていたのかはわからない。

 まだ幼かったからだ。

 しかしその子に会えない夜は毎晩、次の日にその子と遊ぶことを考えて寝ていた。


 おそらく恋情と友情が混じった気持ちを抱いていたのだと思う。


 二月くらいのことだった。

 今でも鮮明に覚えている。

 突然、担任が大事な報告があると言って幼馴染を前に立たせた。


「来年から別の学校に行きます。なのでクラスのみんなとはもう一緒に遊んだりできないです」


 翔紀はとてもショックだった。

 事前に知っていたわけではないし、その日まで隠していたから驚きが大きかった。


 そして気づけば引越し当日。

 目が真っ赤になるまで泣いた、泣きじゃくった。

 まともに幼馴染の顔も見れなかった。


 そんな幼馴染は翔紀に対して涙ぐみながらも言葉を発した。

 

「しょーちゃん、また会お! 絶対会お!」

「うん、会お、約束」

「約束、絶対約束だよ! また会お! それで次会ったら私の彼氏になってね!」


 彼氏彼女がどういうものなのかまだお互いに理解できていなかったと思う。

 しかし翔紀はまた一緒にいれるならと頷いた。


「うん! 約束!」

「私とまた会うまで他の彼女絶対作らないでよ!」

『指切りげんまん、嘘ついたらはりのーます。指切った!』


 今、どこで何をしているのだろう。

 別に未練があったりするわけではない。

 ただ、また会ったらその時は話はしたいなと思う。


 ***


「......っていうことがあった」


 翔紀が話し切ると秋葉はいじってくるかと思ったが意外にも真剣な顔をしていた。

 面白い話でもなかったのだろうかと不安になっていると秋葉が喋り出した。


「そうなんだ、何か私と似てるな......私もそんな人がいて、好きで、今でもたまに思い出す」

「趣味だけじゃなくて恋バナも似たか」

「たしかにね」

「......そういえば思い返せばその子の名前、秋葉で同じだな」

「がっつり覚えてて未練残ってんじゃん」

「未練とかじゃないし、ずっと一緒だったからそりゃあ忘れないし、忘れるわけない」

「地味にかっこいいセリフやめて、何か笑うから」


 秋葉はやはり予想通りに翔紀のことをいじって笑ってきた。

 あまりにも笑うので秋葉の横腹を軽く突いた。


「あー、セクハラですー!」

「なら言葉のパワハラで訴える」

「えー、ひどー」


 秋葉とそんな会話をしていると、ふと街に置いてある時計が目に入った。

 時計の短針はちょうど六を指していて、長針と短針が真っ直ぐになっていた。

 

 そろそろ駅に向かわなければと秋葉に告げる。

 

「俺、そろそろ駅行かなくちゃいけないかも」

「何時の電車乗るの?」

「今が十八時だからだいたい三十分後の電車に乗る」

「じゃあ夜飯無理そうだね」

「なんだかんだ言ってコラボカフェ行ったあとに食べ歩きしたし、どちらにせよもうお腹いっぱいだ」

「あはは、それもそっか」


 秋葉はそう言って笑う。

 

 もう秋葉との遊びも終わりかと思うと少し寂しい。

 決して物足りないわけではなく、満足したからこそそう思うのだ。


「じゃあリアルでもまた会お? 今日は楽しかった」

「そうだな、俺も楽しかった......ちなみにこの後秋葉はどうするんだ?」

「んー、とりあえず駅までは着いてくよ。電車乗らないし」

「家近いのか?」

「特急で三時間くらいだから家は遠いけど今日は近くの親戚の家に泊まる予定だから」


 秋葉はそう言って三を指で示す。

 

 特急だけで三時間なのでそこそこの距離にあるようだ。

 翔紀は合計で二時間くらいなので秋葉より近い。


「結構遠いな、そんなにコラボカフェ行きたかったのか」

「そもそも東京行きたかったっていうのがあったからね」

「なるほどな」

「翔紀はどこ住んでるの?」

「俺は山梨県の大月ってところ」

「え、大月!? 私、前住んでたところなんだけど。ていうか出身そこなんだけど......」


 秋葉はそう言って目を丸くする。


 まさか恋バナと趣味だけでなく出身地まで同じとは驚いた。

 そしてどこの地区に住んでいたのか聞こうと思ったところで翔紀の頭がそれを止める。


 ある一つの答えが導き出されてしまったからだ。


「なあ、一つ聞いてもいい?」

「......奇遇だね、私も確認したいことあって」

『もしかしてあーちゃん(しょーちゃん)!?』


 翔紀は秋葉と顔を見合わせる。


 答えはもうお互いに出たようだ。

 そして気づけば二人同時に笑い出していた。

 

 リアルで会ったことがないと思っていた相手がかなり前に会っていた。

 そして幼馴染に関する恋バナをした相手がその幼馴染だったのだ。


 面白おかしくて、恥ずかしくて、でも嬉しい。

 そんな気持ちが入り混じっていた。


 だからか、鼓動もいつのまにか速くなっていた。


「......再会したし、付き合う?」


 秋葉は顔を赤ながらそんなことを言う。

 翔紀の答えはもう決まっている。


「嘘ついたら針千本って約束したでしょ?」

「そうだな、付き合う......か」

「うん......じゃあ、よろしく」

「......こちらこそ」


 翔紀は秋葉の手を握った。


 もう離れたくなかったからなのか、ほぼ無意識のうちに握っていた。

 ただ、少し早かったかと自分の咄嗟の行動に反省して手を離そうとする。

 

 秋葉はそんな翔紀の手を握り返して離さないようにした。


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― 新着の感想 ―
[一言] そんな気づかないことあるかなー? 共有されたエピソードを話してるわけだし。 …まあ小学生以来となればそうなるかもな… なんにせよお幸せに!!
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