平和なお茶会
アンゲルス王国に嫁いできてしばらく経ちました。
文化や考え方の違いに戸惑いを覚えることも多いのですが、概ね平穏な日々を過ごしております。望んだとおりの! 重要なのでもう一度、私が望んだ理想的な生活です!!
ただ、王国内に野生の魔物が全くいないことが、最大の疑問でこの間、旦那様に聞いてみました。
そしたらなんと! 王族の方々が国全体に野生の魔物が入ってこられない結界を張っているのだとか!! 凄すぎませんか? 発想が天才です。私は魔物に襲われることにうんざりするだけで、対処の仕方を考えたことはありませんでした。これはガトワール帝国でもとりいれることができそうですね。
「フィオーナ妃殿下、大丈夫ですか?」
あらいけない。今はお茶会の真っ最中でした。
貴族たちに顔みせもかねて、近頃は招待状をくださる方々のお茶会に、順に参加しているところです。
「私ったら暖かい日差しのせいかしら? ボッーとしてしまって。皆様にもうしわけありません」
私と同じテーブルを囲みながら、和やかな会話をしていたご令嬢方が、心配そうにこちらをうかがいます。
「それは大変。今日はいつもより暑いですもの!」
「熱中症かしら?」
「冷たいものをご用意いたしませんと! そこのあなた、冷たいものを用意してさしあげて!」
一人のご令嬢は、侍女に頼んでまで心配してくれるかいがいしさでした。
「私たちの話が余程退屈だったのではなくて? 帝国からいらっしゃった高貴な姫君には、弱小国の会話など楽しくないのでは?」
「イグレッタ様っ。その言いかたは……!」
その中に一人、不機嫌そうな顔でそっぽを向くご令嬢がいます。
イグレッタ様の言葉に青ざめる他のご令嬢方。
なんてこと! アンゲルス王国は嫌味まで可愛らしいのね!?
ガトワール帝国のご令嬢であれば「話を聞いていないだなんて、余程この世からさよならしたいのですわね」と言って従魔をけしかけてくるか、得意の魔法や、毒を使って殺しにかかってくるところです。
言葉でやんわりと嫌味を言うだけだなんて! 平和すぎて、涙が出てきました。
「まあ! 大変! フィオーナ妃殿下はまだ幼いのですよ? 長時間外にいたら体調を崩してもおかしくありませんわ」
「お泣かしになるだなんて、イグレッタ様、言葉が過ぎましてよ!」
私の様子をみて、他のご令嬢方がイグレッタ様に詰め寄ります。悲しくて泣いたわけではありませんのに! なんだか、申し訳ないです。
「わ、私は別に、泣かせるつもりでは……。……ッ今日は私これで失礼いたしますわ」
味方がいないと悟ったイグレッタ様は、扇を片手に立ち上がり、顔を隠してこの場から帰って行きました。
もしかして、逆に泣かせてしまったのかしら……。罪悪感が胸をよぎります。
「フィオーナ妃殿下、お許しくださいませ……。イグレッタ様はリュシオン殿下の婚約者候補の一人だったのですわ……。それが取り消しになってしまったので、拗ねていらっしゃるのです」
「ちょっと、それは言わない方が……」
「あ、私ったら、今のは忘れてくださいませ。フィオーナ妃殿下には言う必要の無いことでした。申し訳ありませんわ」
なるほど、旦那様の婚約者候補だった方なのね。嫌味を言われた理由がわかりました。
「気にしていません。皆様ご心配ありがとうございます。でも、なぜイグレッタ様はリュシオン殿下の側妃になろうとしないのかしら?」
婚約話が取り消しになる理由もよく分かりません。別に正妃になれなくても、側妃になればよろしいではありませんか?
「側妃だなんて!? そんな日陰の存在になることは、さすがに許容できませんわ!」
「例えその方を愛していても、表に出られない存在になるのは嫌ですわ」
「一生籠の中の鳥になる覚悟が必要ですわよ?」
アンゲルス王国での側妃は、そんなに嫌がられる立場なのですか!? ここにも考え方の違いが……。
「ガトワール帝国では、側妃は、正妃とともに夫を支える存在でした。地位は正妃の方が上とは言っても、周囲からの扱いに差はほとんどありませんでした……」
「まあ……」
「……そんな」
「大陸が違うと考え方も異なるのですわね……」
まわりのご令嬢方が一様に驚きの声を発し、私たちはみんなで顔をみあわせました。