アンゲルスの第三王子、または私の旦那様
空から海を越えて、アンゲルス王国に到着した私は、盛大な歓迎を受けました。
竜騎士団を見たことが無かったのか、アンゲルスの王族を含めて、皆様驚愕されておりました。
到着してすぐに、結婚式が執り行われたのですが……。
従魔をけしかけてくる人や、野生の魔物が全くいなかったことに、驚きました。
ああ、この国は本当に平和な国なのね!
結婚相手であるアンゲルスの第三王子、リュシオン殿下は、切れ長の金目を困ったように垂れさせ「盛大な式を行えず申し訳ない」と言っていました。
しかし何にも襲われず安全に式が行えたことに感涙していた私は全く気になりませんでした。
私が従えてきた竜騎士団は、結婚式を見届けるとガトワール帝国に帰って行きました。
結婚式を無事に終えた私は、リュシオン殿下が暮らしている離宮に部屋を与えられました。
そして現在。私は初夜のためにリュシオン殿下が、寝室にやってくるのを待っております。
「おかしいですね、今日は夜伽は無しなのでしょうか……?」
初夜なのに……?
疑問に思いましたが、来ないなら来ないで気楽に寝ることができます!
おやすみなさい。
「……、寝ているのか」
いえ、寝ようとしていたところですね。
来るのであれば、もう少し早く来てほしかったです。寝る体勢になっていたので、起きるの辛いんですが。
「寝ていません。横になっていてすみません」
「いや、いい。結婚したとはいっても、貴女はまだ子どもだ。俺としては、まだ手を出すつもりは無い」
リュシオン殿下は、黒に近い茶色の短髪をかきあげそう言いました。
私はもう立派な大人なのですが?
「何か勘違いなされているのでは? 私は十六歳でもう子どもではありません」
私の横に座ったリュシオン殿下は長い足を組みました。
「十六は、子どもだろう」
あら? なんだか、会話が噛み合いませんね。
「ガトワール帝国では十六歳から大人と認められております」
「…………そうなのか? だがアンゲルスでは、十八歳から大人と認められる」
大陸が違うと、こんな細かい文化まで違ってくるんですね……。驚嘆してしまいます。
「貴女が大人だということは理解したが、俺の感覚では子どもだ。貴女が十八になるまでは、なにもしないこと、許して欲しい」
……、紳士的だ、ものすごく紳士的で反応に困ります。ガトワール帝国では、十六になる前から恋人をつくる人も多いのに!?
「私は気にしません。お気遣い感謝いたします。ただ今の接し方のままだと、他人行儀すぎますので、せめて名前でお呼びくださいませ」
「……分かった。フィオーナ皇女」
皇女ってつけられるのも、変ではありませんか!? なぜ、こんなに遠慮がちなのでしょう?
私は怖い存在ではありませんよーー。全くの無害な生き物です。
「フィオーナでいいですよ。旦那様」
「……旦那様……?!」
そこで驚くのはなぜですか?
「私は眠いので寝ます。おやすみなさい」
「あ、あぁ。おやすみフィオーナ」
目を白黒させている旦那様をしり目に眠りにつきました。