外界からの来訪者
今日の夜は月明かりが充ちて、星が煌めく空であった。ティアラはクラークのお墓と、隣に小さくサーロが作ってくれた、クウェンチエルフの里のみんなのための石を積み上げてできた石のお墓に花を供えて、瞳を閉じ、黙祷する。隣にはサーロがいてくれている。両手を組み、胸の前で拝む。亡き者達の冥福を祈って。
──みんなの事を思い出すと……やっぱり悲しい。でも涙は流さない。いや、流さなくてももう大丈夫。隣にはサーロが、街にはみんながいてくれるから。
「ティアラ」
優しい声。ティアラは瞳を開ける。隣の少年は微笑みかけてくれる。
「サーロ、一緒にお墓参りありがとう」
「なに! じっちゃんのお墓参りも一緒にしてくれるんだからお互い様さ!」
サーロの快活さ、サーロの優しさ、サーロの心の風景。サーロの隣は、とても、とても、居心地が良くティアラには大好きな居場所だった。
「私……サーロに出会えて、街のみんなに迎え入れてもらえてとっても、とっても幸せだよ」
「えへへ……改まってそう言ってもらえると、なんだか照れるよ。……でもそれは僕も一緒だよ」
サーロは夜空を見上げる。何かを思慕しているようだった。
「僕はアバンダンシアの周囲にある荒野で倒れているところを、じっちゃんに見つけてもらったんだよね」
「そうだったね。調査に出てたクラーク先生が見つけてくださって、迎え入れてくれたんだよね」
「僕はじっちゃんに拾い育ててもらってからの記憶しかないんだ……どうして僕がそこにいたかはわからない……両親はどうしているのか……とかもね」
「サーロ……」
「でもじっちゃんが亡くなって……大切な人を失った悲しみはわかるから」
サーロはティアラに視線を向ける。さざ波とそよぐ風の音色が二人を包み込む。
「過去の悲しみより、未来に笑顔を……だから、失った人への悲しみに囚われ続けないで、、みんなが安心してくださるように、今の、そしてこれからの僕達が笑顔でいないとね!」
「うん!」
笑顔で頷く。そしてティアラは遠くの波打ち際を眺める。
──私がここに流れ着いたのは、きっとお母さんの、里のみんなの想いのおかげかな……なんてね。……? ……!
「サーロ! サーロ! あそこ! 波打ち際に誰か倒れてる!」
「いやーーー! お客さん! 見かけない人だと思ったらあの荒野を越えてきたのかい! そりゃ凄いな! 熟練の旅人さんだな!」
恰幅の良いアバンダンシアの酒場の店主が色褪せたような紅蓮色の髪の毛をした若く見える大人の女性に興味津々に話しかけている。
「ええ、旅には慣れてますし、私はちょっと特殊な体質でしてね」
「おお! そうなのかい! いやーそれにしても何年ぶりだろうな~。自力で荒野を越えてきた人は! そうだ! 荒野の先にある世界の話を聞かせてくれないか! お代の代わりにしてあげるからさ!」
「ははっ、私はあまり面白い話は出来ないですよ。と、それより聞きたい事が」
「おお! なんだい!」
「クラーク……という人物に会いに来たんですが……」
「なんと……外からの人がクラーク先生をご存じで……」
店主は予想外の質問に驚きながらも、自身も尊敬する人物が話題に出た事を心の中で喜んでいた。
「ええ、まぁ、旧友……とでも言ったところですかね。クラークがこの地へと旅立つ前からの仲です」
「そうでしたか……クラーク先生のご友人で……しかし、相当昔の事なのに、その、お客さんはとても若くいらっしゃるような……」
「ははっ、若作りは得意ですからね」
それにしても若いような……と、店主は思って、この人は嘘をついているかもと勘繰りを入れた。しかし、嘘をついているようにも見えないし、年齢を聞こうかと頭に過ったが、それはそれで失礼だと思い言葉を飲み込んだ。
「はぁ、そうですか……しかし、残念ながらクラーク先生はお亡くなりに……」
「そうか……やはり、時の流れというものは歯痒いな」
紅蓮色の髪の女性は少し天を仰ぎ、悲痛な面持ちをした。その様子から、本当にクラークのご友人なんだと店主は察した。
「クラーク先生のお墓は海岸沿いにありますよ。そこの近くにクラーク先生の育て子が住んでるんです。そこを訪ねてみてはいかがでしょうか」
「そうだね……そうしよう。では明日の早朝の頃にお邪魔するかな」
「そうですか! なら今夜はここでおくつろぎください!」
「では、お言葉に甘えて。とりあえず」
「とりあえず?」
「お店にあるだけのお酒を出してくれるかな?」
「……はい?」
後に伝説の大酒呑みとしてアバンダンシアに語られるのであった。




