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日常の風景

朝、木漏れ日の光を浴びベットの上で目を覚ます少女、ティアラ。少し離れたところにあるベットの上で静かにまだ眠りについている少年、サーロの心の風景に思いを寄せながらそっと近づく。


小鳥のさえずり、澄んだ川のせせらぎ、若々しい新緑の草原、そして頬を撫でる爽やかな風、広大な、どこまでも広がる心の世界。そこにいる少年の隣は、居心地が良い。


穏やかに過ごす日々の中で、ティアラはみんなにアバンダンシアの歴史について教えてもらったことがある。この恵みに満ちた土地にある街は昔、クラークというサーロがじっちゃんと呼ぶ方が中心となって、故郷から追い出されたり、故郷が滅んだりして、行く当てのなくなった民の集まりが未開の土地を彷徨った果てに見つけた居場所であるという。その頃から土地としての豊かさがあったが、クラークをはじめとした人々の尽力により、小さな集落から始まり、土地をより豊かにし、また旅をするものを多く迎え受け入れていき、今の賑やかな恵みの街ができたという。


しかしアバンダンシア周辺の自然は豊かさを増したが、ある程度街から離れた土地はいつからか不毛の荒野が果てしなく続いているようになってしまった。そのせいか、今では外界から旅人などがアバンダンシアにやってくることは無くなったという。ティアラの様に海から来たのはかなりの例外らしかった。そしてサーロも。詳しくは誰も教えてはくれなかったが。


ティアラの日々はとても満ち足りたものだった。暮らし始めた頃はサーロがなんでも気遣ってくれてティアラは申し訳なく思っていた。サーロはみんなに助けられていると言っていたが、積極的に街に行ってはいろんな人の仕事を手伝い、アイシャの元で勉強したり、森や海の自然の恵みを集めて街へ配達したりと、とても働き者であった。


ティアラはサーロの優しさと頑張りにただ甘えているのはダメだと思いある事を始めた。




「いらっしゃいませ! 切り株スウィートショップへ!」


「いらっしゃいませ~」


「やっほ~! ティアラにグーリマ店長!」


ドアを勢いよく開けて入ってきたアイシャ。ティアラはグリマとお揃いのパティシエ服を着てお客さんをお出迎えした。ティアラの服にはフリフリと可愛いのがついてるが、衣服の製作を担ったマダムパピーの趣味である。


「あれ~。アイシャ先生~。今日はサーロにお勉強教えてるんじゃないの~? 一緒に来なかったの~」


「一緒に来るつもりだったわよ~! でももうちょっと復習してから行くから先に行ってて! って、真面目か!」


「サーロは真面目だよ~」


「ふふふ、相変わらずみたいだね!」


「ふふふ……ふふふ、ティ~アラ! アバンダンシアに来てからもう季節は一周したけど、サーロとの二人暮らしは、ど・う・よ!」


「どうよ~」


「もうっ! アイシャ先生! グリマ店長もからかわないでください!」


ティアラはニマニマ顔の二人のおちょくりに少し顔を赤らめた。すると再びドアが開いて、出会った頃より少し背が伸びた少年が入ってきた。


「おまたせ! アイシャ先生! お邪魔しますグリマ店長!」


「いらっしゃい~サ~ロ~」


「お~噂をすれば何とやら」


サーロと視線が合うティアラ。そしてお互い笑顔を浮かべた。


「いらっしゃいませ! お疲れ様! サーロ!」


「ティアラもお疲れ様! さ、みんなでお茶にしよ!」


サーロの笑顔を、心を感じられるだけでティアラは幸せだった。それはサーロも同じだった。お互いがお互いの笑顔を望んでいる。


──お母さん、アバンダンシアでの日々は、とても穏やかで、和やかで、笑顔でいられます。サーロと出会ってからのこの幸せな日々。こんな日々が、これからもずっと続いてほしいです。





草木も全く生えない荒野を一人歩く、フードを被り、鞘に納まった剣を携えた人物がいた。フードからはみ出して見えるのは色褪せた紅蓮色の髪の毛。体つきはすらりと背が高く、スタイルもよい女性だった。ふと立ち止まり、手で強い日射しを遮り進む先を見やる。その視線の先には小さく街が見えていた。


「なるほど、あそこが噂の恵みの街か。彼はいるかな。クラークは」


紅蓮色の前髪をかき分け、女性はそう呟くと、アバンダンシアへと再び歩き出した。



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