翡翠の結婚式
朗らかな日差しに、肌を拭うは穏やかな春風。海辺からは心静かに聴きいらせるさざ波の音色。
クラークと、クウェンチエルフ達の想い眠る石碑にお参りする少女と少年、いや青年がいた。その姿は、アバンダンシアを旅立つ前より大人びている。
「じっちゃん、約束果たしに来たよ」
「今日は先にご挨拶に」
石碑は静かに、その言葉を染み入らせていく。
「これから、サーロとの結婚式があるんです」
そこはアバンダンシアの小さな教会。その入り口から広がる広間にはアバンダンシアの民達、獣人の来客も集まっていた。
教会の中に設けられた長椅子には、ガレア、ウルバル、ミシト、マダムパピーにグリマと、アニムス。特に親しい者達が座り、主祭壇を、そこに立つ二人の晴れ姿を温かく見つめる。マダムパピー特製の結婚衣装。純白の輝きを秘め、フリルがたくさん装飾されたウェディングドレス姿のティアラ。サーロも凛凛しい白いタキシードを着こなし、主祭壇の向こうにいる神父役を担ったアイシャに笑顔を向ける。飾らぬ、心の内から自然と湧き上がる喜びを現す笑顔を。
「ではここに誓詩奏上を」
「はい」「はい」
「新郎サーロ、新婦ティアラ、互いに笑顔で笑い合える日々も、悲しみ苦しみに闘う時も、互いを愛し、尊重し、今を、未来を笑顔で溢れんと祈り、これからも手を取り合い生きていくことを誓いますか?」
「誓います」「誓います」
「ではここに、誓いの証を!」
サーロは、ティアラの薬指には銀の指輪をそっと、はめてあげる。そして顔を覆うヴェールをめくり、その愛しい女性の瞳を見る。お互いに視線が交わる。そこに言葉はもう要らなかった。微笑みを、瞳を閉じて、誓いのキスをする。
そして、翡翠色の涙が、ティアラの頬を一筋流れ落ちる。それは、深く彩る翡翠色の結晶に。
それは、永遠を感じさせる、束の間のキス。顔を離し、泣きそうに、でも、嬉しそうに笑顔を浮かべるティアラと、愛しさで溢れ慈愛満ちた笑顔のサーロ。
喜び祝福する喝采が教会に澄んだ響きとして湧き上がる。
サーロは、結晶化した翡翠の涙を拾い上げる。そして、ティアラと再び目を合わせ、想いを互いに確かめる。サーロの首元にはまだ、渇きの呪いの紋様が刻まれている。ガレアは二人の傍に歩み寄り、我が子を慈しむかのように抱擁をし、言葉を伝える。
「ここまでよく頑張った。過去に向き合い、未来の笑顔の為に、今を活きて生きたキミらの頑張りだ。さぁ、呪いを、解く時だ」
「ガレアさん」
ティアラは抱擁を優しく解き、涙目で微笑みながらガレアの名を呼ぶ。そして、サーロは翡翠の涙の結晶に想いを込めて握り締め、ガレアに真摯に向き合い、伝えた。
「この翡翠の涙は、貴方の為に」




