王都の戦いの果てに
「おやおや、今更に自分の素直な感情をだしおって、しかもその発言、帝王ともある器の存在が恥ずかしくないのか?」
「ないね! あーーー! 清々してるさ! ……皆が笑顔になれるように……ってのは本当だったさ。だけどな」
「なんだ? 弁明してみよ?」
「今更だよ。気づいたんだ。笑顔なんてみんな勝手に手に入れていける。もっと大事なのは、自分が笑顔でいないと笑顔になれない、愛しい人がいたってことだ」
「ふ、ふははははっ! 甘い、温い、耳障りな言葉だ事だ!」
「元老、お前だって、本当はただ慕われて、笑顔を分かち合える仲間に囲まれたかっただけなんじゃないか?」
高笑いする元老が憑依しているサーロは、唖然とし、表示が固まる。
「そうなんだろ」
「何を……何が分かる! 呪いを宿した親から産み落とされた忌み子として虐げられた私が、存在を否定され続けてきた私が、仲間が欲しい? 笑顔の為に? 笑わせるなっ!」
激昂し漆黒の剣を具現化しリュシオに斬り掛かる。龍人でも受けきれないはずのその太刀を、リュシオは難なく自身の剣の刀身を滑らせ、受け流し地に叩きつける。その技は幾度となく龍人に挑んできたから出来る術。
「なっ……!」
「その捻れた性根に同情はあるがやっぱり受けつけないな!」
群青色の剣が明度を増して煌めく。隙の生まれた元老憑依するサーロの首元、ローブを斬り払う様に、一閃の斬撃を。
「お前の遺志は僕が聴いててやるから。こっちに来い。その体を解放しろ」
サーロの体が次第に、本来の少年の姿へと。影は群青色から次第に翡翠色に、サーロの、心の本来の色。影の海から、一人の少年が飛び出してくる。必死に、自分の体を取り返そうと。リュシオは穏やかな微笑みを浮かべ、慈愛の眼差しでその光景を遺志である自分に刻み込む。
「もう、絶対に、ティアラに悲しい涙は流させない!」
「それでいいんだよ。心のまにまに。愛するものの為に」
「ぁぁぁあああああっ! ガレアッ! さん!!」
「まったく! 若者にしては! やるじゃないか!」
紫紺色の瞳が、群青色に変わり変わりに明滅する。その大人びた姿も、本来のサーロの姿へと。そして、ラビルのベルトはより翡翠色に輝き、その手に本人の本当の意志を宿らせる。その手でローブを鷲掴み、自分から引き剥がそうとする。
「やめろ! そんな事しては貴様の意思も消えるぞ! サーロよ! サーロよっ! やめてくれ!!」
ローブから悲痛な響きが、幼子が駄々をこねるかの如く騒ぎ聴こえる。
「ティアラ! 翡翠の剣を!」
ガレアのまじないでしまっていたサーロの剣を具現化させるティアラ。そして水集めの瓶の蓋を開け、その翡翠の涙を剣に染み込ませる。剣は眩い翡翠色の輝きで満ちる。
「翡翠の涙、サーロを……私の元へ連れ戻して!」
ティアラは翡翠の剣を両手で、絶対に離さないよう、握り締める。走り出す。一心不乱に。届けるために。癒すために。伝えるために。また、また一緒に心からの笑顔を見せ合う為に。
「サーロッ!!」
全身全霊を込めた、ティアラの一閃。その斬撃は、サーロの首を透過し、ローブだけを斬り裂く。
ローブは翡翠色に包まれながら、上空へと舞っていく。次第に透明になり、霧散していく。
「罪には罰だ。元老、キミの遺志は今度こそこの地から消えてもらうよ」
ガレアは再び龍化し、その口内に思念を滅する炎を溜め、上空を紅蓮の息吹で覆い尽くす。ローブは、その存在自体を跡形もなく消え去った。
その顛末を見届ける、横たわるサーロを膝枕するティアラ。
「……ティアラ……ごめん……」
サーロは瞳を開けないまま、ティアラに謝辞を述べる。ティアラは何食わぬ顔でサーロを見たかと思うと、頭を少し後ろに引き、溜めを作ってから、勢いよくサーロのおでこ目掛けて頭突きをする。
「がっ! なっ? ティアラ!?」
「……ほんとよ……ほんとによ! サーロのバカ! バカ! バカッ!」
サーロの胸元ににじり寄り泣きじゃくるティアラ。翡翠色の涙が頬を溢れ伝う。サーロは、その姿を見て、自然と笑い出してしまった。目もとには涙が滲む。瞳は澄んだ群青色。
「どうやら、終わったみたいね」
「アイシャ先生〜アニムスの鎧もきえたよ〜」
グリマに抱きかかえらているアニムスも、本来の少年の姿に、涙が滴り落ちている。
「やったみてぇだな! いやー! アイツ強かったぜ! だがよ! ウルバル様の相手ではなかったがな!」
「あら? 私が歌で鼓舞しないと押され気味だった気がしたけどね? ふふっ」
「ウルバル〜!無事でよかったよ〜! うわーん!」
「ミシトさん、ウルバルくん、本当に、本当にありがとう」
「サーロ」
「何ティア……」
問答無用のティアラからの口付け。外野の大人達はニマニマしている。サーロは顔から紅蓮の炎が出そうな程赤くなっている。
「ぷはっ!」
「え、な、ちょ、ティアラさん?」
「これが! 本当のファーストキスよ! 儀式とかなんかのは数えないからね!」
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