紅蓮と紫紺の剣戟 祈るは翡翠 溺れるは群青 その果てに
漆黒色の剣を一瞬で具現化させ放心しているティアラに斬り掛かる。即座にガレアが間に割って入り、両手で構えた紅蓮の剣で太刀を受け止める。が、その太刀は、過去にリュシオとの最後の戦いの時よりも重く、その漆黒の剣と紅蓮の剣が交わり軋む音は不快であった。龍人であるガレアですらその力に押し込まれる。
「ティアラ!」
「ぁ……はいっ!」
「サーロは元老の遺志に取り憑かれている! それを引き剥がしてからでないとキミの癒しの力ではサーロを王都の遺志から解放できない!」
「ガレアさん!」
「一旦下がっていてくれ! 私が合図したら瓶にある翡翠を!」
剣と剣が大きく弾かれる。元老の遺志宿るサーロは嬉々として狂喜を浮かべた顔をしてガレアを狙う。有り余る膂力を発揮し、剣を振るいガレアを追い立てる。生きたい、生きていたかったという王都の民の渇望する遺志と、唯一無二の存在を誇示しようとする元老の遺志がサーロを依代として集い合わさり高め昂らせられて、それは龍人と渡り合える程に。
「はっ! 歴史だ戦争だ言っていたが、ただの傲慢で稚拙な承認欲求に従っているだけだろ?」
「ああ、そうだとも! その通りだ! だが私にはその願いを叶える力がある!」
「ほんっと……サーロの声にキミの私欲歪んだ声の響きを混ぜないで欲しい! 耳障りだ!」
怒号、轟音、金属音。奏でるのは紅蓮の閃光と紫紺漆黒の深淵。そこに割って入れる者はいなかった。
――ガレアさん……サーロ……サーロッ!
ティアラは、今の自分に何も出来ない事に、歯がゆく悔しく、歯を食いしばる。翡翠の涙貯まる瓶を強く握り締める。それでも、何か、何かできないかと、サーロの心を感じようと意識を集中する。
――サーロ……サーロと別れた時、癒しは必要ないって……サーロッ……あの時、私は感じてたんだよ……!あなたが、本当に、自分の意志を否定して、犠牲にしてでも、他人の為を願えるって……!それが一番いい事だって、本気で思ってて!だから、私はサーロを好きになった!愛おしくなった!だからこそ!私は伝えなきゃいけないことがあるのに!
その祈りは、翡翠色の涙となりて、水集めの瓶に貯まる。
王都を模した心の風景。その玉座にはサーロの形をした何者かが、民の喝采を全身に受け君臨している。その影は深淵を思わせる群青色。その中にサーロの心は溺れて漂っていた。呼吸すらできない、しようとも思えない。水面の上には痛みを伴う喝采と欲望で満ちていた。だが、ここは静かだ。喉の渇きは変わらないけれど。
――このまま……このままずっと深く溺れて行けば……もう……なにもかも……忘れられる……かな……。
瞳を閉じる。何も、考えない。感じない。そうしたかったはずなのに。過ぎるのは、大切な人達の笑顔と、悲しみ怒る顔。笑顔にしたいと、一緒にいるだけで笑顔になれた、大好きな女の子の……泣き笑う顔。
「大好きな子を泣かしたままで……消えてたまるかっ!」
「力を貸すぞ、我が愛しい弟子、サーロよ」




