呪いの口付け
駆け上がる。駆け上がる。その先に、笑顔で生きていて欲しい、愛する人がいるから。
階段の終着点が近付く。淡く無機質な光が次第に強く差し込んでくる。
ティアラはグリマから降りて自分の足で走り出していた。そうせずにはいられなかった。
――サーロ……サーロッ……! サーロッ!!
「では、主らの呪いを重ね合わせよ」
呪縛から解き放たれ玉座から立ち上がる人柱にされた少年達。宿された呪いの遺志に抗えない者と、抗わない者。二人歩み寄る。
暗く、深淵を覗く暗さの感情を失った瞳で俯くサーロの、やや下から見上げるように、唇を近付ける。そこから漏れる吐息は、ヴィーネと同じ、色を持った吐息。しかしその色は呪いを強める緋色であった。僅かに開いた口から見える舌には、紋様が刻まれていた。ヴィーネの遺志を歪めた天邪鬼の呪い。本来の性質を歪める力。
サーロの首の紋様、王都エリュシオンの民達の遺志から成る渇きの呪いと、アニムスの宿らされてしまったヴィーネの遺志と龍人の血を媒介にしてなり得た天邪鬼の呪い。共鳴し、赤白く発光する。
それが、辿り着いたティアラ達が目にした光景。帝王と后の代わりとされた運命に生きなければならなかった、少年だった二人の口付け。
「ダメよ! サーロ! アニムス!」
「呼ばれぬ客には帰ってもらおう」
「きゃっ!」「うわぁ!」
「ティアラ! グリマ! っ! クソジジイ……ッ!」
元老の影から伸び現れ使役された呪現獣が体に纏わりつき、壁に打ち付けられる。
口付けをされたサーロの首元の紋様が、群青色や赤黒い血の色に止まらず変わる。途端、月明かり差したこの玉座の間の影から湧き上がる呪いの遺志が、留まることなくサーロに引き寄せられ、その体を多いつくし、闇色の球体に閉じこめる。
「うふふふふふふ! これで僕(私)の役目は終わったんだ! サーロ! サーロ! サーロッ!!」
アニムスは泣いていた。その瞳の色は宿らされた紅蓮色と翡翠色が抜け、本来あるべき白色に僅かな間だが戻っていた。
「ごめんね、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……! 僕は勝てなかった、負けちゃった、自分を貫けなかった、呪いに、元老に抗えなかった……大事な、大事な……親友を……」
「お役目ご苦労、貴様は後は」
アニムスの舌の紋様が、赤黒く怪しく光だす。すると口から紋様が溢れ流れ出てくる。それはアニムスを、包み込むと、繭のように塊になる。その繭を突き破る様に中から翡翠色と紅蓮色を混ぜ、闇色に浸した様な色の鎧を着た騎士の姿に。
「そやつらの生きた歴史に終止符を与えてやるのだ。」
「そうはさせないよ」




