花婿奪還戦線
その声は上空から。虹光を纏う月に人影二つが。それは龍の翼を羽ばたかせ滞空しているガレアと、都市で発明された拡声器片手に、ガレアに抱き抱えらたティアラの怒気と溌剌さと切実さが溢れんばかり合わさった声がエコーがかかりながら遠く大きく響いてくる。
「な……んで……」
「では無いだろう? サーロよ。お主は心の片隅で来てくれると願っておっただろう?」
「あ……それ……は……」
元老は、フードに覆われて隠れた顔をサーロの間近に詰め寄らせ、その灰色の皮膚の中、不気味に、執着深く輝く鈍色混じる黄色い瞳で絡めとるように睨みつける。
「貴様は償わなければならない。祖先の過去の過ちを」
「っ……ぁ……」
「そうじゃ、お主に運命られた償いを果してこそ、王都エリュシオンの民は、笑顔、になれるのじゃから……のぉ?」
「……はい」
「うふふ! お呼びじゃないって言ったのにあの子来たのね! ドラマチック! サイテーじゃない! 僕(私)ドキドキしてきた!」
「ガレアさん! 聴こえてますよね! サーロに! 聴こえてますよねっ!」
「ティアラ……この距離で拡声器越しに話さない……小気味よい宣言だが、流石に耳が痛い」
「あ! サーロが、こっちを見て……」
「そうだね」
ティアラが見えた顔は遠目であったが、驚きと、救いを求めるかのように微かに涙を浮かべ震え憂いている、少年の助けを求める想いが滲み出ているものであった。
ティアラは……胸が、ぎゅっと……ぎゅぅぅっと締め付けられ、熱が迸る。涙が流れそうだ。泣いている場合じゃないけど、この涙であなたを救えるなら。ティアラの頬に一筋翡翠色が伝い流れ、それは大事に首からぶら下げた袋に入った水集めの瓶に。
「さて、気は急くかも、知れないが、予定通りいったん、下がるよ。顔見せは済んだ。そろそろ」
「はい……!」
「披露宴の歓迎を盛大に受ける事になるからねっ!」
そのガレアのやや楽しげに、血沸くかのような宣言と共に、元老の影から、無限に這い出てくる黒い実体化した影の魔物。滅龍によって生を奪われた者達の遺志で生まれた呪現獣達が、怨嗟の呻きを上げながら宙に留まるガレア達を捉えようと空間を這い、その手を貪欲に伸ばし迫りよる。
「よくぞ来てくださった! 滅龍ガレアよ! 死した者の蘇生と、貴様の不老の呪いを奪ってこそ、永遠に歴史に名を刻める存在になれるのだ!」
ガレアはティアラを胸にしっかり抱きかかえて、素早く旋回し、迫りよる呪現獣から逃げていく。しかし、しつこく何処までも呪現獣は付き纏う。二人が、王国の城門近くまで迷いなく飛んでいく。そして、城門を突き抜ける。そこには二つの影が。大きな狼の獣人の姿と、機能性と美しさを兼ね合わせたドレスを着た白銀の髪に一部は黄昏に似た金色で染めた女性の姿が。
「頼むよ」
ガレアの一言で、澄んで響く歌声が呪現獣にも届く。その歌は、黒い影達の動きを著しく緩めていく。
その隙に、ティアラの翡翠色の涙と、アイシャのまじないを合わせた紋様が刻まれたその手で、爪を鋭く立てて、呪現獣を頭から連なるその胴体全てを癒し切り裂く。
切り裂かれた呪現獣は、次第に淡く翡翠色に発光し、霧散していく。
その二人は、翡翠色が紡いだ仲間達。ウルバルと、ミシト。
「おいサーロ! 笑うこと忘れんなよって俺いったよなぁ!」
「ティアラちゃんに悲しい涙を泣かさせるなんて、私許さないわよ?」
「ふぅ、とりあえず一息」
「ウルバルさん、ミシトさん、ありがとうございます……!」
「さて、ここから、壮大に盛大に威勢よく」
「はい!」
「花婿奪還してやろうじゃないか!」




