サーロとアニムスの結婚式
満月に雲が薄くかかり、月を起点に淡い円形の虹が妖艶に仄かに光る。
死者の思念が、呪いとして濃く深く大きく発露するのに適した暦。
崩れ廃れ、その死者の思念を昂らせる月光差し込む玉座の間。帝王リュシオと后ヴィーネの椅子に、それぞれ、代わりとされる子供が座らされている。后の椅子には、ヴィーネの遺志とガレアの血を媒介に造られた「性質を本来のものから歪め強める」呪いを宿らされた少年だった、アニムス。椅子に座し、呪いの紋様に縛られながらも、屈託の無さすぎる笑みを浮かべ続けて機嫌が良さそうに見える。
対して、帝王の椅子に静かに座る帝王と同じ素質を持つ少年サーロ。伏せた瞳から細く見える群青色の瞳。それは全てを受け入れ、拒まず、より深い存在に変える、深海を想わせる力が宿る証。そして今彼に宿っているのは、滅龍ガレアによって生を奪われた者達の、本能的な、本質的な、「生存欲求」によって生み出された、渇きの呪い。
「さてさて、今日はインヒアレント・エンペラー、サーロ。ニア・エンプレス、アニムスの婚姻の契りの儀式を行わせてもらおうぞ」
フードに隠された瞳は見えないが、元老の口元は不敵に満面に笑みを浮かべている。声色も嬉々揚々と張りがある。
「うふふふ! 嬉しいなー! 嬉しいなー! サーロとの結婚式! 僕(私)ワクワク! うふふふふ!」
「……」
「ほっほっ! サーロどうした? お主は嬉しくないのか? 無いわけなかろう?」
「……はい」
「貴様の祖先の独善で未来を奪われた者達に、嘆き苦しみ、悶えとるこの地に宿る遺志に、その身を呈して償えるのだからのぉっ!」
「はい」
サーロは自身の内側でのたうち回るように聴こえ、肌が焼けるような熱さ感じる渇きの呪いの遺志の叫びをひとつたりとも逃さないように受け止めている。怨嗟、憤怒、悲嘆の淀む暴風が自身の心を、何も感じなくなるまで追い詰めてくる。それでも、その叫びを全てサーロは受け止める。
「これより! 死者の思念を収束させ! その性質を歪める! そう!わしと死した者達に新たなる生を!」
「うふふふ! サーロ! サーロ! 結婚式だって! 結婚式だよ! やったね! 僕(私)とっても! 幸せ! だって!」
「……アニムス」
「サーロの夢だからね。そばに居るだけで自然と笑顔になれると思える人を、自分が笑顔にしたいって」
「……! どうしてそれを……」
「僕には分かるよ。今はエルフの共感能力も宿ってるから」
「アニ……!」
「ごめんね」
「では! ここに儀式の始まりを告げる! 誓詩奏上を!」
「その結婚式っ! ちょっと待ったーーーーーっ!」




