不老の呪い授かりし龍人
「キミの色合いは、とても素敵だ。全てを包み受け入れるほどに。それ以上抱える必要はない」
リュシオに斬られた傷は次第に塞がっていく。リュシオは血がより滴り落ちて止まらない。それが龍人と人の越えられない、違う領域と理で生きる者だという証明。
リュシオは、解き放たれたように安らかな表情で、掠れた声で、ガレアに言葉を紡ぐ。
「僕の……死した思念……こそ、元老の……狙い……群青の瞳を持つものの呪いは……どんな人間にも宿らせられる……」
「そうだな。おそらくその呪いに、力を、闘争心を、生存本能を高めるよう呪法を加えれば、簡単に、狂い闘う兵を数多生み出せる」
リュシオは震える手でガレアの服の裾を握る。そして、言葉を伝えようと口を動かすが上手く声が出ない。激しく葛藤し、掠れた声を僅かに吐き出そうも上手くいかない。
「かはっ……だか……はぁっ……ら、ガレ……ガレア……うっ……!」
「もう、いいんだ」
ガレアは慈愛に溢れた抱擁をした。それは愛弟子であり、我が子の様でもあり、恋心というものをはじめて抱いた人間に対して。
「キミの呪いはあの王都へは行かさせないさ。私が受け入れる」
「あぁ……」
ガレアを掴む手の力が無くなり解ける。リュシオは、群青色の瞳に一瞬だけ煌めきを取り戻し、そして、瞼を閉じた。そして、この先、開くことはもう無かった。
静寂と安穏が今はこの空間に広がっていく。リュシオから滴り落ちた血から徐々に紋様が生じて来る。それは宙に浮かび、ガレアの胸元で漂う。躊躇するかのように。
ガレアはリュシオをゆっくり地面に寝かせる。そして漂うリュシオから生まれた呪いを、そっと掌に包み込む。そして、胸元に染みいるように押し込む。
赤龍の胸元に、緋色の紋様が、浮かび上がる。
それは、広い世界を、全て見たいという、生きる領域が違う龍人にずっと挑み続けたかったという、少年の夢想から生まれた。永遠の刻を望んだ一人の少年の、呪い。
不老の呪いであった。
「そうか……キミの想いは分かったよ」
不老の呪いを通じて、リュシオの願いが伝わってくる。ガレアの頬に一筋、透明な雫が目から流れ落ちた。
「さて、歴史に残るほどの、歴史を消す出来事の始まりだ」
ガレアの体が宙を漂う紋様に包まれる。繭のように集まった紋様の塊。そして、現れたのは赤龍、本来の姿。
龍化した巨躯になったガレアは、横たわるリュシオを束の間、眺める。そして、暴風を引き起こすほどの羽ばたきをして、空に飛び立つ。
向かう先は、王都エリュシオン。




