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元老の理想

ローブを着た老人は、リュシオの旅の途中巡り会った、呪法に長けた人物で、リュシオの体質を知った上で提案をしてきた。


「ワシの呪法とお主の体質を合わせれば望むような栄華が得られるぞ」


そのローブを着た老人が来てから、リュシオとヴィーネが暮らす集落は飛躍的に繁栄して行った。その老人はあらゆるまじない、呪法を扱え、この土地に宿る生命エネルギーと人々の強い思念をまじないに変換し、それをリュシオに一時的に宿した。群青色の瞳を持つリュシオの体質上、それら全てを受け入れ、さらに老人が人に宿したまじないを増幅させる呪法をかけて、その後極限まで高まったまじないの力を解き放ち、その地に還元させた。


そのおかげで、大地は木々草花が生い茂り、実りはたわわに、湧き出る泉の水を飲めば病は治り、鉱脈には希少なはずの鉱物が数多採掘できた。その噂を聞きつけて、さらに多種族、多数の人々が集落に集い、集落は規模を大きくしていき、街、都市、いやそれ以上、王都と言ってもいいほどの繁栄を築いた。


多くの者達はこの繁栄に対し、呪法を極めた老人と、その依代として、そして、その上で集う者達を纏め導いたリュシオを崇拝し始めた。そして、そのリュシオを支えるヴィーネをも。


いつしか、リュシオはこの王都の帝王に、ヴィーネは后へ。そして、呪法に長けた老人は元老へと。


この大陸一の栄華を極めた。幸福な王都。皆は笑顔だ。


それは、この栄華が衰えることなく、発展し続ける限り。


「元老! もうやめてください! リュシオは! これ以上皆の栄華を望む意志に耐えきれません! 私の癒しの力でも抑えきれないそのまじない……いや、もはや呪いには!」


「ヴィーネ、大丈夫……だ。僕はまだ僕だ。ちゃんと自分でいるよ……。身体も壊れないさ……」


「リュシオ! 貴方は……みんなの為に身を削りすぎてます! あなた一人を犠牲にした繁栄なんて……続くわけない!」


「なら、繁栄を止めるか? そうしたらこの王都では内乱が起きるだろうのぉ〜、所詮繁栄につられて集った奴らじゃ、残った富の奪い合いが起こるなど目に見えてるわ」


「あなた……初めから胡散臭い心してたけど……村の繁栄の為っていうの、本当の目的では無いわね……」


元老はローブからわずかに顕になっている口元がにやけて皺が浮き彫りになる。したたかに、邪に。


「村の繁栄は望んどるよ? ワシの理想の為の一過程じゃがな」


「一過程……だと?」


多大な栄華を望む強い思念を自身に宿されながら、その力に耐えているリュシオが、その瞳を険しく元老に向ける。


「ワシはのぅ、大きく動いた歴史に貢献した存在として、永遠に、残りたいんじゃ」


「歴史……?」


「そうじゃ、人の一生なぞたかが知れてる。ワシはそれでも生ある限り学び活きて生きていきたかったのじゃ、が、この歳になりやはり気づく。そんなワシの生きた証など、その先を生きるものには忘れられる。どうでも良い存在としてな」


「……だから、リュシオをつかって、皆から信頼を得る元老になりたかったの? そんな承認欲求の為に、リュシオの想いを利用するなんて……!」


「一部その通りじゃな。ワシはこのまま皆から尊敬される元老としてこの国の歴史に名を残しても良いが、それはあくまで一つの筋書きじゃ」


「……何を企んでるの?」


膝をつき、苦しみに耐えるリュシオを、傍で支えるヴィーネは、冷や汗を一筋滴らせる。


「そろそろ、栄転の呪法も限界じゃ、この術はのぉ、実は我らの意識が及ばない、そう大陸の外からの生命エネルギーを奪いとるものなのじゃよ! お主を媒介にしての! 帝王リュシオよ!」


「……そういう事か……時折、知らない土地や人の想いが見えた気がしたのは……」


「さて、どうせもうお主らに引き返すことは出来まい。ワシは歴史、そう激動の歴史の中生き抜いた元老として名を永遠に残したいのじゃ」


「……まさか」


ヴィーネは元老の心を感じ取る。それは純粋に歪んで、マグマの様に熱く淀んだ心だった。


「大陸の外から、そう遠くない未来、この地を侵略せんと戦争を仕掛けてくるであろう。そう! 戦争じゃ! 歴史の改革の時! その時我らは多大な血を流し、犠牲を生み出し、愚かさに嘆く事になるだろう!」


「そんな戦争起こさせるわけ……」


「起きるんじゃよ! もう遅い! この国の者達の中にもお主を媒介にした繁栄に限界を感じとる! そうしたらどうするか? 簡単じゃ! 外から繁栄を奪う! その意志を秘めた民は既に数多おるのじゃ!」


「……」


「戦争こそ歴史、歴史こそ永遠に残るもの。そこにワシは君臨するのじゃ!」


「ふざ……けるな……」


「しかし帝王、ワシはお主を尊敬している。その献身に人を導く気概。そこで戦争をしなくてもよい、かもしれない提案じゃ」


「……言ってみろ」


「それはのぉ、お主が赤龍を殺し、龍心を獲れば、他から生命エネルギーを奪うことなく、繁栄を築けるであろう」


「リュシオ……! こんな提案……!」


「ヴィーネ……」


リュシオがヴィーネの頬をそっと触れ、何かを決心した後、優しい群青色の瞳で、ヴィーネの瞳を見つめる。そこに言葉は要らなかった。ヴィーネは、リュシオの心を感じとる。決意を。決死の。そして、ヴィーネも覚悟を決め頷く。


「赤龍退治に僕は行く。ただ、少し時間をくれ。赤龍に勝つには、この今宿らせている思念を体になじませる必要がある」


「よいよい。好きにせい」


そうして元老は不敵に笑いながら去って行った。


玉座の間には残されたリュシオとヴィーネ。そして、ヴィーネの内に宿る新たな命。


「リュシオ……もうそうするしかないの……」


「ああ、彼を招いた僕の罪だ」


「貴方はただみんなの幸せを願っただけなのに……」


「そうだね……でも今、僕の願いは、これだけだよ」


「リュシオ……」


「キミと、その子の未来に笑顔が溢れんと」


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