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旅立ちのリュシオ

それからも、リュシオは度々ガレアの元に赴いた。その度に試合を挑み、その度にあしらわれ、悔しがり、そして自分の村のことや、近況を話した。そこには、いつも通り笑顔が花開く。


ある日、青年に成長したリュシオは、とうとう村を出て、広い世界を冒険し、己を鍛え、学び、それを糧に村を繁栄させたいと言った。だからしばらくは、ガレアに挑みに行けないのがもどかしいと、青年になっても、その好奇心と闘争心は変わらず煌めいていた。ガレアはその煌めきが好きだった。冒険にでる餞別として、自身の血を媒介にまじないをかけて生み出した龍宝、龍志剣を授けた。想いを込めて握ったもの心の性質に合わせ、色を変え、力を宿す剣、その色は、リュシオの瞳と同じく群青色に染まる。


「ガレアありがとう。僕は旅をして、より強い存在になります。村の皆の支えになれるように」


「立派な心意気だね。で、本音は?」


ニヤッと子供らしく無邪気に笑ったリュシオは、ガレアに剣先を向けて、堂々と宣言する。


「僕はいつか必ず、ガレア、あなたに勝つ!」


「その時を楽しみにしてるよ。リュシオ」




そうして、季節は何度も巡り、巡った。リュシオが旅立ってから。しかし、龍人にとっては、僅かな時の流れ。ガレアにとっては、紅蓮色の髪の毛がやや伸び始めたかな?くらいの、短い時の流れ。


時折、村に残っていたヴィーネはガレアの元を訪ねに来た。溌剌とした少女から今では大人びて、聡明そうにも見える立ち振る舞いを知る淑女に。彼女の吐息に宿る翡翠色を、物にも込める術を覚え、その品物を活かして村の繁栄と、彼女の住む村を中心に多く現れ、住人を襲う呪現獣を退けているとの事。


「リュシオが人の思念が強く働くこの地の力を、良き方向に活かせる術を探しに旅に出てから、私ももういい歳になったわね」


「あの頃のキミも溌剌として素敵だったけど、今のキミも魅力的だよ。村でもその魅力に惹かれる者も多いんじゃないのかい?」


「まあね! なんたって私よ? 私の魅力に虜にならない奴の方がおかしいわ!」


表向きはお淑やかに見えたが、未だ茶目っ気のある心も健在であった。


「で、ヴィーネ。キミの魅力に虜にならない彼をまだまっているのかい? ふふっ」


「ええ」


茶化したつもりが、その返答は至極真剣な声色であった。


「あの村でも、呪いを鎮める力のある私は、その力ありきの存在として重宝されて、見られていたの。私はその視線が大嫌いだった。そんな私の負の感情を魅入られてか、ある夜、一人静かに森にいた時、呪現獣に襲われたの。助けを呼ぼうにも、村からは離れていたし、私は怯える事しか出来なかった」


そう思い出話をしながら、遠くを見つめる目をして、はぁ、と、翡翠色の息を吐く。


「その時にね。リュシオが助けてくれたの。こっそりその近くで木剣を使って訓練をしていたみたい。でも、子供の力で呪現獣を倒すことなんて無理。それでも、ボロボロになりながらリュシオは私を庇って呪現獣に立ち向かった」


「それで、その時はどうやって呪現獣を退けたんだい?」


「退けてないわ。リュシオが、取り込んだのよ」


「……群青色の瞳を持つものの体質か」


「ええ、どんな意志や思念でさえ受け入れ、己の糧にしてしまう、ね」


「ふむ、それなら呪いという思念を取り込んだところで、彼の力に変わるならいいのでは?」


「……エルフである私には、なんとなくだけど、感じるの。リュシオ……彼の心の中に、彼でない者の声が聴こえる気がして……彼は今までその事を気にしてるようでは無いけど……あまりいい予感はしないの……」


「その力に助けらたから、負い目があるから、彼を気にしていたと?」


「それもあるけどね。でも、彼の心はどこまでも広く、蒼く、清々しかった。そして、彼は私を、翡翠を持つエルフとしてでなく、私として接してくれた。彼の隣は清々しかったの」


「ふふ……そうか」


「私ね。リュシオが帰ってきたら、リュシオと共に村を繁栄させるられる、そんな存在になりたいの。ま、一言で言うと、彼の唯一のパートナーになりたいの」


「そうかい、キミの恋、成就するといいね」


「恋敵にはまけないからね? ガレアさん!」


ニマニマとしながらも視線は真剣なヴィーネ。ガレアは思わぬ言葉がけに、やや虚をつかれ惚けたが、その言葉を自分の中で反芻すると、妙に納得がいった。


「ふふ、ふふふふ! はははははっ! そうだね。私も、きっと、いや、確かに、リュシオは好きだな」


「でしょ! だって、リュシオと戦ってる時も、リュシオの熱弁聞いてる時も、あなたの心、とても心地良さそうなんだもの」


「なら、わたしが、彼の相方になってもいいのかい?」


「それはだーめ! とは言いませんが! 譲りませんよ!」


「ふふふ、冗談だよ。いや、冗談……かな? 龍人である私は彼と生きる時間の流れが違うからね。共に同じ時を歩むのは難しいさ」


「……ガレアさん」


「私も、同じ時を歩めたら、遠慮はしないよ? ふふふ」


「……そう、ね! やっぱりガレアさんと話すの楽しいわ! あなたも心がとーっても広くて見える景色も壮大雄大! って感じ好きよ!」


二人の空間に笑い声が小気味よく響き反響する。


「さて、そろそろ帰るね」


「ああ、またね。ヴィーネ」




それから、少し時が流れた後、秋めくその村に、リュシオは帰ってきた。一人のローブを着た老人を連れて。


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