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ニア・エンプレスの誕生

駆け足で暗い城内の回廊を出口に向かうアイシャ、サーロ、アニムス。その道中に、見張り役の呪現獣の姿があるが、アイシャがかけたまじないの効力によって、認識されず素通りしていく。


「アイシャさん……」


「質問はなし、とにかく今しか逃げ出すチャンスは無いの。私の後ろから絶対離れないで」


「はい……」


「なんで……あんた、こんな事してダメだったら……」


「ええ、殺されるか、呪現獣にされるわね。そんなの嫌ね。でも」


「……」


「このまま生きてくくらいなら、未来に笑顔で過ごせる為にって、覚悟を決めたの」


「……アイシャさん」


「今日は呪いを強める月明かりが無い月蝕の日、そこを狙ってたの。それに王国の外に心強い協力者が居るの」


「協力者?」


「私なんかよりまじないにも知識も剣術も長けてて、元々ここで研究の中核を担ってた人。クラークっていうの」


「そんな人が……」


「この王国復活の先に待ってる未来に危惧して、単独ここから逃げ出せた方よ。その人と、まじないで交信して、今夜が逃げ出すチャンスだったの」


「……」


「アニムス、信用しなくていい。私のしてきたことを許さなくてもいい。ただ、あなた達にも、未来に笑顔で過ごせる日々が来て欲しいの。これは私の勝手な自己満足な罪滅ぼしよ」


疑い深くアイシャに対して警戒しているアニムスだが、その迷いない凛とした言葉を聞き入れ、早足でその背中を追う。


「元老は……気づいてないんですか……僕達の事……」


「あいつは呪現獣を操って私達を監視してるの。だけどこの時間は、あいつ自身の存在を保つ為に王国の呪いの中核で儀を行わなければならないの。その間はあいつはそこから離れられないはず。クラーク先生からの情報よ」


「……本当に、ここから逃げれる……?」


「ええ、だからあなた達の夢を、叶えられる未来を切り開くの」


「……広い世界を……冒険できるのかな……」


「とりあえずは、クラーク先生のまじないが護っている街で身を隠すけど、いつかは必ず、あなたの望む未来に」


そう話す内にに城門をでて、崩れ荒廃した城下町の大通りをひたすら急いで駆けていく。そして、城壁が見えてくる。


「この王国の呪い宿る土地、そうね、城壁から出れば、クラーク先生のまじないが働いて、アバンダンシアに瞬間的に移動できるの。過去にクラーク先生が、龍人から貰った宝とクラーク先生独自のまじないを合わせた力よ」


「ほんとに……僕達自由になれるの……サーロ……」


「うん……未来に笑顔で笑える日々に……」


「その転移のまじないは、私を媒介にしてるから、私に触れてないと置き去りになるから」


そういうと、ふたりの手を両手でしっかりと掴み、握るアイシャ。その腕には赤い紋様が描かれていた。それはアイシャが自分の血と思念で描いた転移のまじないの紋様であった。その掌には多くの傷があり、まだ、乾いていなかった。その手をふたりは、強く握り返す。


門を出るまで、あと少し。


そこに、予期せぬ光が差し込んだ。


「ここが! かつて栄華を気づいた王国! あの夢の導き通り来たら! 本当にあるなんて! 考古学者カーテ様の名を世界に知ら閉める時よ!」


それは、門から現れたのカーテという人物。カンテラの灯りを今まさに門に向かう三人に差し込み、影を生み出す。


「なんで! その灯りを消して! はやく!」


「え! うそ! こんな所に人がまだ住んでるの! 大発見じゃない!」


「いいからはやく灯りを消して!」


三人から伸びた影。それらの影が、何かを宿したかの様に突然具現化し、門からあと少しで出られる三人に纏わりついてくる。


「ぐ……ふたりとも! 絶対私の手を離しちゃダメよ……門からでさえすれば……」


「アイ……シャ……さん……っ!」


「……っ!」


すると、背後の闇から静かに姿を現したのは元老と呼ばれる存在であった。


「以前クラークには月蝕の日に逃げられたからのぉ。対策してないとでも? 光なければ呪現獣は具現化出来ない。なら、光を持ってこさせれば良いだけじゃ」


「その声! 夢でお告げをくれた! え、というか、この状況……」


「よくやった、傲慢で欲深き愚か者よ。貴様も王国復活の為にこれからも働いてもらう」


「え、きゃぁ!」


カーテは、自らの影から現れたの呪現獣に覆い包まれ、その姿は見えなくなる。


「さてさて、裏切り者アイシャよ、貴様はもっと賢いと思ってたのだがのぉ」


「……賢いわよ、死んでも私欲まみれでねちねち思念だけでこの世に残るあんたなんかよりね」


「ふむ、その煩わしい喉から切り裂こうとするかの」


「アイシャさん! 手を離して! 元老! 僕は残りますから! ふたりは!」


サーロは自分の影から湧き出た呪現獣に纏わりつかれながらも必死でアイシャの手を解こうとする。しかしアイシャは決してその手を離さない。アニムスの手も。


「……たとえあんたに喉切られようが、呪現獣にされようが、このふたりは絶対ここから出してあげるんだから……! 舐めんなくそじじい」


「アイシャ……さん……!」


「……」


「ふむ、なら、まずはお望み通り、その喉を……」


元老がローブから隠れた手を伸ばそうとした刹那。三人に纏わりついていた呪現獣が突然消えた。消えた、かのようにサーロとアイシャには思えたが、それは、アニムスの体に吸い込まれたのであった。


その一瞬、元老も、予期せぬ自体に手が止まった。そこをアニムスは見逃さずアイシャの腕を自分の両手で力強く掴み、勢いよく自分を軸に一度振り回しアイシャとその手を握るサーロごと、門の外へ投げ飛ばした。その力は少年のものとは思えぬほどであった。


「え……アニムス!」


「アニムス! キミも……!」


「ごめん、ぼ、ぼ、わ、わた、いけない、みたい」


「アニ……ムス……!」


アイシャとサーロが門から出た瞬間、蒼白く光を纏い、その姿が光に完全に包まれ見えなくなると、宙を流星の様に流れ遠く彼方へ飛んで行った。


アニムスを残して。


「ほう……呪いを拒まぬ様になったか。自ら呪いを吸収し、その性質を得るとは。それなら、より王国復活の為に役立てられるな」


「……ぼ、わた、あれ……おかしい、な……」


「ふむ、しかも、后ヴィーネの思念と共鳴し宿したか。これは面白い」


そう不敵に楽しそうな声から、無機質な声色に変え呪いを唱え始める。その手には深い翡翠色と紅蓮色から成る、呪いの塊が二つ。それをアニムスの口にねじ込む。


「貴様はこれで、エルフである后ヴィーネによる天邪鬼の呪いと、滅龍ガレアの血から生み出した呪いによって、新たな存在となる」


二つの呪いの塊を、飲み込まされたアニムスは、王都エリュシオンの全土に響くほどの叫び、悶える。自分が自分でなくなっていく苦痛に。次第に叫びも悶えも落ち着いてくる。


「アニムスよ、お主に新たな使命を与えよう。王国復活の儀式の為に。ニア・エンプレスとして」


「……ふふふ……僕(私)、なんだか、とっーても、気分がいいわ! 嘘だけど!」


そこに立ち上がったアニムスの瞳は右目は翡翠色に、左目は紅蓮色に染っていた。


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