過去を振り返りて
アバンダンシアのアイシャの診察所に、ティアラ御一行は荒野から戻ってきた。ガレアは気をまだ失っている。呼吸もやや荒い。しかしアイシャの見たてでは少し休めば回復するとのことであった。それでも、ティアラはガレアの弱った姿を見た事がなかった為、この光景に戸惑いと心配が心の底から湧き上がっていた。
「さて、少し落ち着いた? グーリマ! お紅茶いれて!」
「もう〜熊使いが荒いんだから〜でも淹れてくるよ〜」
手をパンと二回叩いて少しおちゃらけた様子でグリマをこき使うアイシャ。グリマはぼやきながらも特に気にせずのっそのっそとアイシャの家の炊事場まで向かって紅茶を淹れる準備を始めた。
「さて、さてさて、何から話そうかしら。それよりまず、ティアラ、今話したい事、聞きたいことあったら全部いってね」
「はい……でも、私にも……よくわからなくて……頭の中ぐちゃぐちゃで……」
「……」
「今までのサーロは、記憶を封じられてて、あの時見たあのサーロが本当のサーロで、サーロにはやらなきゃいけないことがあって、でも、それは、自分を犠牲にすることで、えと、それと、后……アニムスさん、がいて、結婚式をあげるって……だから……えと、それに、それで……」
「うん……それで……?」
「サーロは……それでも……優しくて……王国の為に自分を顧みないで……! それに、自分の為に涙はもう流さなくていいって……! でも! 私は……サーロ為に涙を流すのなんかこれっぽっちも辛くなくて! でも……でも!」
俯きながら涙を堪えて思いの丈を吐き出しているティアラを背中からアイシャが優しく抱きしめる。それは初めてアイシャに会った時と同じあたたかみを感じた。
「ティアラ。色々思う事はあると思うけど、頭の中ぐちゃぐちゃかもしれないけど、そんな時こそ、今あなたが一番したい事を強く思いなさい」
「アイシャ先生……」
「きっと答えはシンプルよ。あなたは、何がしたい?」
「私は……」
静かにテーブルに紅茶を置くグリマ。優しい目で決意を固めるティアラを見つめる。アイシャは抱擁を優しく解きティアラの答えを待つ。
「私は……サーロに生きて欲しい! 生きて未来でいっぱい笑ってほしい! だって、サーロは私を暗闇から救ってくれた、私に笑顔を与えてくれた、大切な人だから!」
その言の葉には透き通っていて確固たる決意が込められていた。顔を上げて見えた瞳は輝きと力強さを取り戻していた。その様子に、アイシャとグリマは顔を見合せ、安堵と、自分達も決意を固める表情をした。
「よーし! このピュアっ子め! よく言った! 本当は后からサーロを略奪して結婚してやる! とか言って欲しかったけども!」
「え、それは……したい……ですけど……」
「あら、茶化したつもりが、意外とハングリー」
「ティアラ〜私達にとってもサーロは大事な仲間〜だから助けたい気持ちは一緒だよ〜! うわーん!」
「ちょ! グリマ! 私には抱きつくな! ティアラへゴー!」
「うわーん!」
「はわわわわ……も、もふもふに包まれて……」
「ふぅ……じゃ、ティアラの決意も聞けた訳だし、サーロの事にアバンダンシアの事、あと、私の事も伝えなきゃね」
「はい……あの……」
「何かしら?」
「もふもふしながら聞いてもいいですか?」
「……どーぞ、どーぞ!」
「ちゃんと聞きますから! もふもふ……は、しますが……」
「まずね、サーロがアバンダンシアにやってきたのは荒野でクラーク先生が見つけたって聞いてるかな?」
「はい。サーロがそう言ってました」
「本当は、私が滅びた王国から連れ出したの。私も元は今は亡き王国エリュシオンの再建を謀る為の構成員だったから」
「え……」
「質問は後でね。で、どうして私はその王国復活を目論む組織を抜け出し裏切ったかというと、王国復活の為の代償が、あまりにも大きすぎたのよ」
「……代償」
「そう、実は、アバンダンシアが恵みに満ちているのは、その王国復活の過程で生み出されたまじないによるものなんだけど、それは一部に恵みを増やす代わりに、その周囲の恵みを奪ってしまう。そんな代償があるの。あの荒野の様にね」
「荒野……ガレアさんが、言ってました。アバンダンシアはある意味では呪われた地だと……」
「呪いもまじないも表裏一体。良いことだけではないし、悪いことだけでもない。ふたつの違いとしては、呪いは死した者の思念が宿り、まじないは生きた者の思いから生まれる、と言ったところかしら」
「じゃあ、アバンダンシアは……」
「呪いとまじない両方まじっているのよ。死した者達はこれからを生きる者達に恵みある生活を願い、生きてる私達は、今の恵みに感謝にこれからも続いてくようにって」
「それでも、代償は出てしまうんですね……」
さすがにグリマをもふもふする事を止め、真剣に話をティアラは聞き入る。
「アバンダンシアの無垢な思念から生まれた呪いでも、周囲では良からぬ影響がある。そして、王都エリュシオンでは、多大な数の死者達の怨嗟や生を渇望する、淀んだ思念から生まれた呪いを、特別な体質であるサーロを媒介として、死者の思念をサーロに宿そうとしてる」
「サーロに死んだ人の思念が宿るんですか……」
「ええ、帝王リュシオのね。そしてガレアさんの呪いも奪い不老の帝王を生み出し、彼を中心として、アバンダンシア以上の恵みと繁栄ある王国へとまじないをかけるの。その代償は、ここらの大陸や、近くの島々全てを荒野に変える程だわ」
「そんな……」
「王国さえ甦れば、自分達さえ恵まれれば。私はその王国復活を目論む組織に拾われて従ってきたけど、我慢ならなかったの」
「それで、サーロを連れ出したんですか?」
「ええ……クラーク先生も、実は昔は王国復活の研究に関与してたんだけど、私と同じで抜け出して、そこで学んだ知識と技術で未来に笑顔を増やせるためにって、試行錯誤して、今のアバンダンシアに繋がってるの。組織でもアバンダンシアの情報は入ってきてたから、私もクラーク先生の事を調べて、こっそりコンタクトをとってたの」
「お二人共……そうだったんですね」
「本当は、私が連れ出すのは、二人だったの」
「え……」
「サーロと、あなたがあった、后役のアニムスよ」
生気の無い光が射し込む王座の間。帝王の椅子にはサーロ。后の椅子にはアニムスが座っている。周囲には誰もいない。それは、二人にとって最後の静かな時でもあった。サーロは群青色の瞳を伏せながら表情は暗い。対してアニムスはルンルンと足を座りながら上下に動かし機嫌が良さそうである。
「アニムス……僕が……僕だけが去った後キミには何があったんだい?」
「え! 気になる? ふふふ! サーロの知らない僕(私)の話できるんだ! 嬉しいな〜!」
「それに……キミの呪いに……キミの……姿も……」
「サーロ気になる? 気になるよね! 天邪鬼の呪いに! どうして僕(私)がサーロの后になる事になったのか!」
「……うん、聞かせてくれるかい」
「そうだね! じゃ! 始まりは僕(私)が、まだ、僕、だった頃から話そうよ!」




