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使命と別れ

「……アニムス……なのか」


「うん! 久しぶり! ひっさしぶりー! 思い出してくれて嬉しいねぇ!」


そう黄色い声でサーロに甘え、サーロの体にあざとく、艶めかしく、その体に後ろから抱きつき首に刻まれた呪いの紋様を舐めるように指でなぞる。サーロはアニムスを横目で一瞥し、何か思うことがあるようであったが、直ぐに視線を宙に向け、とても気だるそうにしている。


ティアラにはサーロと、急に現れたアニムスと呼ばれる、右目は翡翠色、左目は紅蓮色の凛々しい少女にみえるサーロより小柄な人物のやり取りの状況を把握し切れていなく、言葉が出てこない。床に座ったまま動けないでいた。


そして何より、サーロの言葉の意味を考えていた。


――もう、僕に、癒しは必要ないんだ。


サーロの呪いは間違いなくサーロを苦しめ、命を蝕んでいる。翡翠で癒さなければ、サーロの命は長くはないはず。サーロは雰囲気が変わり、群青色の瞳になってから、何が起こったのかティアラには分からないが、他の呪われた者達の呪いをサーロが受け入れている様であった。つまり、それだけ呪いによる命の蝕みは強いものになっているはずである。


つまり、サーロはこの先自分の命は長くない、長くある必要が無いといっているのだ。



「あ! そこのクウェンチエルフちゃん! ここまでサーロの命を繋ぎ止めてくれてありがとね! サーロと僕(私)の結婚式にご来賓して頂きたいかな? 嘘だよ! 呼ばないよーだ!」


「結婚式……? それに、帝王って……サーロ、なんだよね? どういうこと? サーロッ!」


「……」


「僕(私)とサーロは、過去にこの大陸で栄華を極めた王国の帝王と后と等しい素質を受け継いだ選ばれた人なんだよ! ちょーと、訳あって、サーロは離れ離れになっちゃて、あのアバンダンシアとかいう、王都エリュシオンの裏切り者が築いた、小賢しい街で記憶と力を抑圧されてたんだよ〜。酷いことするよね〜」


「記憶……? ッ! アバンダンシアの人達はみんなとっても優しくて! そんな酷いことする人達じゃない!」


「……はいはい、そうですかー、でも」


「でも……」


「未来にしか目を向けないで、過去を捨てた奴らの集まりでしょ? 捨てられた過去は、目を向けられなかった過去は、笑顔になれないのに」


「え……」


「でも、そう、いいよね、未来に笑顔を望めて、僕(私)と、サーロには、そんなものは与えられないし、必要ないの」


「どういう……こと……」


「僕(私)と、サーロは結婚式の儀をすることで、過去に滅龍ガレアに殺された創国者にして帝王であるリュシオの魂を蘇らせ、永遠のものにしたいって、元老のやつがね」


アニムスはサーロから離れ、先程までの調子から、冷めた顔つきになり、淡々と吐き捨てるように話してくる。


「帝王と同じ素質のあるサーロの肉体を媒介として蘇らせる。王都エリュシオンに宿る呪い、そう、今はサーロに宿っている渇きの呪いを利用してね。僕(私)に宿らされた天邪鬼の呪いと、エルフと龍人の力を兼ね備えさせられた僕(私)自身をそのきっかけにしてね」



滅龍ガレア、天邪鬼の呪い、エルフと龍人の力、帝王リュシオを蘇らせる。ティアラにはその次々と伝えられる言葉を自分の中に消化しきれない。でも、ひとつ分かったのは、サーロは、そう、サーロは。


「僕(私)とサーロは、王国復活の為の人柱なんだよ」


「そんな……そんな! なんで! あなたとサーロはその人柱になろうと! なんで!」


「使命からは逃げられない。逃げてもいつまでも追いかけ脅かしてくる。だったら、刹那な時間でも、僕(私)とサーロは幸せを感じたいの。それだけ、未来なんて見なくていい。未来なんて求めたって手に入らない。だから、今幸せを享受するの」


「……サーロ……」


「……渇きの呪いに宿る王都エリュシオンの人々の思念の叫びが、ずっと聞こえているんだ……」


サーロは首の紋様をなぞりながら視線を落としてポツリと呟く。


「皆が、王国復活を望んでいる。僕にしかそれは果たせない。だから、ティアラ、もう、癒しは要らないんだよ。僕の為に涙を流す必要もない。ティアラには自由に笑顔ある未来を望めるんだから」


「そんな……いやだよ……私は……私の未来には、サーロと一緒に!」



翡翠色の涙溢れるティアラの切実な叫びは最後、建物が突如として勢いよく大破した音でかき消される。



ティアラはテラスから外を見ると、黒い、原型は人型であろう、歌姫ミシトを襲おうとしていた時の呪現獣と同じか、それ以上の大きさの人型呪現獣が、数多何かに取り付いて蠢いていた。


「向こうは上手くいってるみたいだね。滅龍ガレアさんには是非とも僕(私)とサーロの、結構式に来てもらわないと。で、御祝儀で不老の呪いも、サーロが受け継がないとだからね。王国の永遠の栄華の為には」


「ガレアさん……?」


黒い塊からもがき暴れ、一瞬ガレアの姿が見える。その姿は、本来の姿と言っていいのか、紅蓮色をした巨大な龍であった。ただ、そこにはいつものガレアのゆとりある姿はなく、ひたすらに纏わりつく呪現獣に抗っていた。


「ガレアさん! ガレアさんっ!」


ティアラはテラスから身を乗り出しガレアの名を必死で叫び呼ぶ。翡翠の涙はまだ流れている。



ガレアは黒い呪現獣に纏わりつかれている。顔や翼の一部はなんとか顕になりながら、声のするティアラに真っ直ぐ向かって飛んでくる。ティアラは臆することなくガレアを助けんと手を伸ばす。その時、翡翠色の涙の雫が一滴、呪方陣の起動装置に染み入る。


すると、闘技場に僅かに翡翠色の光が湧き上がり、襲われているガレアにも届く。纏わりついていた呪現獣達のガレアを掴む力が弱まり、その瞬間を狙い、ガレアは一気に力強く羽ばたき、呪現獣を振り払い、ティアラを大きく開けた龍の口で捉えそのままテラスから勢いよく離れ、遠く彼方へ飛び去る。


「あーあ、逃げちゃった。何してんの元老〜」


アニムスの影からローブを着た生気のない肌色をした老人が現れた。


「何、問題は無い、今回であの龍も我らの呪いは通じることは分かった。それにあやつは必ずまたやってくる」


「ふーん、そ! サーロ、さ、戻ろ、王国へ」


「……そうだね」


「滅龍ガレア、あやつは、好いておったからの〜。我が帝王リュシオを……そして」


元老と呼ばれた者はサーロとアニムスをその瞳でしかと捉えながら、呟く。


「リュシオを殺したのだ」


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