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群青の目覚め

「ハハハハハッ! 愉快! 愉悦! 有意義な眺めだ!」


ユイガは悶え苦しみ、暴れ抗おうとしている呪われた者達を見下しながら高笑いを響かせる。


「クウェンチエルフの翡翠はなぁ! その主の感情の昂りに呼応して緋色に変わるのさ! そして、緋色は、癒すのでなく、呪法を強化するんだよ!」


「我々の呪思念暴強の呪方陣を更に強化出来たのは貴方のお陰です」


「あぁ、キミたちにとお礼を言わないとね……クウェンチエルフ王国が滅び、放浪を続けていた私にこんなチャンスをくれたんだからね……王国再建の際にはそれ相応の地位を約束するよ」


「ありがとうございます」


ティアラを拘束している案内人の男のその言葉には感情が込められていなかった。ユイガはそんなことも気にせず、今、眼下で悶え苦しむ者達を見て楽しんでいる。ティアラは固く解けない拘束に必死に抗いながら、サーロに身に迫る危機に、動揺し、動悸が昂り、どうしていいか分からなくなってしまった。


「サーロ……サーロッ!!」


「大丈夫ですよ」


「……え?」


落ち着いた小声で、ティアラの耳に案内人の言葉が届いた。予想していない言葉に驚き、冷静さが戻ってくる。


「あの少年、サーロ様はただ、お目覚めになるだけです」


「サーロ……様?」


「我々の目的が達成され次第、貴方は解放します」


「目的……?」


「直に分かります」


ティアラはその案内人の心を感じようと、意識を集中する。しかし、案内人自体が心をこちらに開いていない為断片的にしか感じ取ることが出来なかった。しかし、見えたその光景は、どこか、華やかな王国の中で、大きな絵画に描かれた王冠を被った青年を、その案内人が崇めている姿であった。


ユイガは、ただ、ただ、今まで虐げられきた、自分を過酷な境遇に追いやる元凶となった呪いを宿した者達に報復できる喜びに狂喜し、興奮が収まらない。


「いいぞ! いいぞ! ハハハハハッ! 苦しめ! 苦しめっ! そして……自分自身の呪いに殺されろっ!」


響く私怨に充ちた高笑い。そのユイガの感情に呼応し、指先から滴る血を翡翠色から濁る緋色に変え、更に呪方陣の起動装置に垂らす。呪方陣の緋色の光は更に輝きを増し、闘技場は眩い緋色の光に包まれる。呪われた者達の沈痛な叫び声が轟き響き渡り、空間を揺さぶる。


その時、緋色の光の中、一点、群青色の煌めきが灯る。刹那の後、その光は緋色の光を飲み込むように、急激にその輝きの範囲を増し、闘技場全てを群青色の光で覆い尽くす。その光の内は、様子を覗くことは出来ず、深淵を思わせる程深い色であった。


「なっ……! 何が起こった……!? なんだこの光は!」


「サーロ……?」


「遂に……目覚めました」


予想していない状況に戸惑いを隠せないユイガと、遠目で群青色の光をみてサーロを感じたティアラ。案内人は兜から微かにみえる瞳に、活きた輝きを宿し、言葉が漏れ出す。


「王都エリュシオンの再建の時……インヒアレント・エンペラーの覚醒……! そう! 彼の帝王リュシオ様の蘇生の準備は整った……!」


群青の光が収束すると、呪方陣は消えていた。倒れている者達はまだ息をしていた。その者達に刻まれていたはずの、呪いの紋様も消えていた。その闘技場に一人立つ、少年には、全身に呪いの紋様が刻まれていた。それは、この場にいた呪われた者達に刻まれていたものであった。少年が、他者の呪いを全て受け入れ飲み込み、その身に宿していた。その呪いの紋様は次第に元々あった渇きの呪いの紋様に吸収されて行った。


ユイガはひとり聳え立つその少年に、動揺し、激昂し、テラスから身を乗り出して喚き散らした。


「なんだ……っ! なんなんだお前はぁぁぁっ!!」


その少年、サーロは、閉じていた瞳を細く開く。その目は深い闇を思わせる群青色。その視線はどこか、この場ではない深淵を眺めている。喉に刻まれた渇きの呪いの紋様を指でなぞりながら、ボソッと呟く。


「……ぁぁ、喉が渇いた……」


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