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ようこそアバンダンシアへ

「大丈夫? 歩き疲れてない?」


「大丈夫……」


「あと一息だからね! ほら! 森を出るよ!」


森の木々が鬱蒼としていたが、だんだん開けてくるようであった。木漏れ日の照らす光の範囲が次第に広がる。そして日射しを覆う木々を抜けると、眩しさに思わずティアラは手で光を遮る。目が光に慣れてきて進む先を視界にとらえると……。


「わぁっ……!」


人々が賑わい行き交いをしている。木造の建物やレンガでできた建築物が連なり、露店では大量に果実や野菜が売られていた。ティアラは里を出たことがなかったため、街、というものの実際の姿は分からず想像の中でしかなかった。ティアラが初めて見る街に感銘を受けていると、サーロが視線の前に躍り出て、片手をしなやかに伸ばし街の方を指し示す。


「ようこそ! アバンダンシアへ!」




「あらサーロちゃんいらっしゃい! あら? あらあら? 見かけない子も一緒ね! まって……その子の服だいぶ傷んでるじゃない! ダメよ! ダメダメ! 今その子にぴったりの服持ってきてあげるからね! ちょっとだけ、お・ま・ち!」


「ありがとう! マダムパピー!」


くねくねとした動きで店の奥へと消えていく、ド派手な衣装を着た無駄にガタイの良いマダムパピーと呼ばれた衣服店の店主。その形容しがたい存在に驚きを隠せないティアラ。


「え、と、サーロくん……今お店の奥に消えた方って……その……」


「うん。衣服屋さん店主のマダムパピー」


「えっと……その……」


「マダムパピーはマダムパピーだよ。それ以上でもそれ以外でもないって、よく言ってる。母であり父であるとかも」


「……うん」


「はぁ~~~い! お・ま・た・せ! この子に似合いそうな一押し商品!」


「わぁ……素敵な模様……それに色……」


「でしょ~~~!」


ティアラが手に取ったワンピースはお花の刺繍と共に暖色と寒色がバランスよく散りばめられていた。嬉しそうなティアラを見やり、サーロは硬貨が入った小袋を口を開く。


「ありがとうマダムパピー! おいくらですか?」


「うっふふふふ! 今日は新しいお客さんへの初期投資ってことで、た・だ、にしてあげる!」


「え、それは悪いよマダムパピー! ほら払うから!」


「おだまり! ガキが生言ってんじゃないわよ!」


「うっ……」「ひっ……」


「いーい! あなたたちはまだ子供! 甘えられるときはしっかり甘えなさいな! ということで! ねっ!」


「……はい」


マダムパピーの威圧に押され、すごすご頭を下げる二人の少年少女。その謙虚な様子に優しい笑みを向けるマダムパピー。


「その子、どこで出会ったか知らないけれど……」


「!」


「優しい目をしてるじゃない……サーロちゃん。あなたクラーク先生みたいな紳士を目指しているんなら、その子、大事にしなさい・よ!」


「はい! 僕もいつかじっちゃんの様にみんなの力になれる様頑張るよ!」


「うふふ! サーロちゃんにとってのボーイミーツガール! これからどうなるか、あたくし楽しみだわ!」


「じゃあね! マダムパピー!」「あ、ありがとうございます……! お邪魔しました!」


「……」「……」


「びっくりした?」


「うん……でも、あたたかい心を感じたよ」


ティアラは頂いた服をギュッと抱きしめた。




「おー! サーロ! ちょっと寄ってけ! ほれ、これサービス!」


「あ、サーロお兄ちゃん! ウチの父ちゃんパン作りすぎちゃったからこれ兄ちゃんにもあげてって!」


「サーロ! その子誰だい? 新しい友達かい? ほら、とれたての卵持っておいき!」


「あ、ありがと! でもだからお金払うから!」


「いーって、いーって! アバンダンシアの民はみんな家族! そのうえクラーク先生の育て子からお金を貰うなんて思わんよ!」


「はぁ……みんなありがと。でも! 僕にもできる仕事があったらいつでも頼んでよ!」


「はいはい、じゅーぶん、働いてもらってるから大丈夫だよ」


露店通りに行き交う人々からご好意を受けまくるサーロ。とても活気がある空気で満ちており、ティアラの中にもその活気が入り込んでくる心地がしてなんだか楽しい気分になっていた。それにしてもサーロという少年はとても人望があるみたいでティアラは感心するばかりであった。


「サーロくん……私も持とうか? みなさんからいっぱい貰って両手も塞がっちゃったし」


「ま、まだ大丈夫だよ! い、いつもの事だから……!」


ぐぎゅ~~~~~。


──ひーん! お腹の音鳴らないで!


「うんうん! お腹が空くのは元気の証! 他に急ぐ用もないからさ! 約束のアップルパイご馳走してあげるね!」


「……はいっ! ありがとうございます……!」


「じゃあレッツゴー! 切り株スウィートショップへ!」


「レッ、レッツゴー!」


「あ、そこの店長さん、熊みたいな人だけど驚かないでね!」


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